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放送委員会のススメ  作者: 飯田橋 ネコ
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走りまーす

 1月下旬。第70回飯田橋高校クロスカントリーレース!

が開催されるここ東京都稲城市矢野口3750-99には、旧制中学時代から引き継いだ広大な運動施設があって、猫の額ほどの飯田橋校庭に収まりきれない運動部さんたちが日々“通勤”していらっしゃる。往復の定期代だけでバイト代がぶっ飛ぶというなかなかの好条件の下で、インターハイとかちょいちょい出てるのはさすがよね。

 野球場にテニスコートが四面、サッカー場に体育館、非常用ヘリポートまで備えてる、飯田橋高校の名に恥じない狂的施設。大昔はグライダー部や乗馬クラブなんて典雅な部活があったらしく、後の世のエースパイロットやメダリストを量産してたっていうんだから、ホントご立派。

 で、この薄ら寒い曇り空の下、全校生徒が10km走る“だけ”というこのイベント。受験シーズン真っ只中のハズの三年生まで強制参加のガチ行事。あたしたち放送委員も今回は純粋に参加者として走るの。でもね、今週末は体育館(本校舎の)でダンスフェスティバル201☓っていう行事(全校女子生徒が思い思いのグループ作って創作ダンス振付して覇を競い合うというありそうでありえない行事。当然あたしたちも踊るのさ!)が控えてて、照明とかフォローとかいろいろ考えなきゃならないから、正直こんなトコで走ってる場合じゃないのよ。そしたら智子がナイスアイデア出してくれたのさ。


「早くゴールしちゃえばいいんじゃないですか? 終わったらそのまま解散ですし……」


 おっしゃ! そういうことなら走りこみよっ! ってことで委員全員で閑散期(1月の冬休み明け、生徒たちがまだ正月気分に浸ってて学校に来なかったりお休みしたりする一週間)に皇居をくるくる回ってみたの。これが結構気持ちいいのよね。普段機材抱えて校舎内外かけずり回ってるあたしたちにしてみれば、きちんと陽の光を浴びて自分の好きなペースでステキな景色を眺めながら走るなんてちょっとした贅沢。智子が云うには有酸素運動で肺活量も増えて声も通るようになってついでにバストアップも見込めるってことらしいんだけど、白山は“アンタには関係ないわね”って何故か不機嫌。

 で、びっくりしたのはだっちの速さ。先輩ってただのヲタだと思ってたんだけど、天文部の合宿でよく望遠鏡とかテントとか担いで尋常じゃない高さの山登ってるんだって。そういえば練馬から毎日自転車通学してるらしいし。いろいろと意外すぎるわ、このメガネ。

「まぁ、トレイルとターマック限定だけどね……」


 それにしても、最近だっちのことが先輩って思えなくなってきた。っていうか放送室の備品の一つくらいに思えてきたの。珈琲淹れて音編集してくれる便利な機械って感じ? この間なんか智子がだっちいるのに普通に着替え始めて、あたしがあわててひっぱたいたくらいだもん。先輩、ちょっと泣きながら“女クラかよここ……”ってつぶやいてたけど、非モテのヲタがハーレムinな状態なんだからちょっとはありがたがって欲しいものだわ。

「まぁ、DVだけは勘弁な……」



“ようい、どん! っていったらスタートな”

って、ベタ過ぎる吉住先生の小ネタにいちいち付き合う総勢700余人。さすがは行事の固め打ちに慣らされてる飯高生ね。

“オレに勝ったら、単位進呈〜!!”

って云いながら大人気ない猛スピードで走り出すスキンヘッドのあとを、陸上部ならびに陸上同好会(なんで分かれてるのかしらね? この人達)の精鋭が追従していき、その後方から市民ランナーの(てい)でついていくあたしたち。さすがに本職には叶いませんて……て思ってたら、先頭集団にだっちがおる。そういえば昨日放送室で“編集が終わらNeeeee!”って絶叫して、みんなから“うるさい!!”って怒られてたっけ。まぁ頑張れだっち。


 冬の低い太陽が雲間から顔を覗かせ、多摩川ののんびりした川面にキラキラと陰影をつけ始めた頃、ようやく折り返し地点——土手道のど真ん中に“ここから逆走せよ”旗を持った佐野先生がつっ立ってる——が見えてくる。おおかた通過した生徒の数と男女比から怪しげな数理モデルでも考えているんだわ。

“……単純先頭集団群Gが、質量ギャップで非自明だから……”


 そんな折り返し地点の結構手前ですれちがっただっち。メガネ曇ってて髪の毛落ち武者でひどい有様だったけど、フォームだけはなんかそれっぽかった。“こっからツーエイトで、ここの小節の裏拍につないで……”って相変わらず先頭集団内でブツブツ云いながら全力疾走。さすがに全校33団体分の編集を智子なし(私もダンスの練習がありますのでお手伝いできないんですごめんなさい)でやってるだけあって、脳内編集完璧ね。

「できればオレをDuplicateしたひ……」

生物部ならなんとかできるかもね。


 あたしたちが折り返し地点を通過してしばらく走ると、加瀬先輩と神崎先輩が仲睦まじく走ってくる。なんだかんだ云ってあの二人ってお似合いよね。


「さすがのわたしでも、入り時間とギャラだけのLINEじゃ意味わかりませんよ!!」

「……駅名書き忘れたんだよ」

「もー、せっかくの日曜返してくださいよ!!」

「……だから、こうして謝ってんだろ! っていうか電話すればよかったじゃねえかよ!?」

「しましたよ!! 誰ですか? あの女!?」

「……妹」

「いないでしょ!!!」


 ま、そっとしておこう。


 後方集団とすれ違うようになると、いろいろな仮装した生徒が目立ってくる。明らかに東京マラソン的な何かと間違えてるヒト(当然男子)たち。全身バナナさんとか等身大シン・ゴジ○さんとかストームト○ーパーさんとか舞浜のネズミさんとか、いろいろな意味でやばそうな人達が、“おめーらバツとしてもう一周な……”って叶谷先生(食い込み著しいセパレートユニフォーム着用)に追いかけられて、ショッカーみたいな声あげながら、今更全力疾走かましてる。


 まぁ、今時のクロスカントリーレースなんてこんなものよね。どこの高校も。


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