子供目線
一年半ぶりにやってきたあのヒトは、人ん家の冷蔵庫勝手に開けて、せっかく冷やしといた金麦をおおかた空っぽにした挙句、しまっておいたハズの黒霧島のボトルをテーブルの上にドンと置き、ボールに製氷皿の氷ぶちまけて水割りセット〜♡とか、まぁとにかくご機嫌だった。“代々木のカウントダウンおわって家まで帰るの面倒だから来てあげたの、どーせ真希も一人で寂しいんでしょ!” なんて云って。旦那さんはどうしたの?
「あ〜、ちょっと海外行ってる……それよりさぁ! コレとコレとコレ、どれがいいと思う?」
図面ケースから引っ張りだされたEテレの子供向け番組のセット図面がテーブルにずらりと並ぶ。これは……ちょっと子供向けじゃないし、こっちのは媚足りないし、うーん、これはいいんだけどパースがおかしくないですか?
「さっすが真希〜! やっぱり子供向けの図面は子供に選ばせるに限るわよね〜!!」
自分の仕事なんだから自分でやればいいのに……。
「ところで、真希はこんな時間までナニしてたの?」
ビッグサイトと明治神宮行ってました。
「へー、血は争えないわね〜、って云っても繋がってないけどぉ」
別にデザインとかじゃないですよ! 照明のバイトと初詣です。
「照明〜!? アンタそっち系行くんならトラスにバカ吊りするような無能プランナーにはなんないでね!! ほんとマジ迷惑なんだから……」
ホントこのヒトは相変わらず過ぎる。あたしが物心ついた頃からおんなじ愚痴。カド落ち上等な年季入ったMacBookProに安物マウスとボロテンキーつないでイライラカチャカチャしながら“脳内がプリントできたらチョ~楽なのに……”なんてつぶやくこのヒトは、オクタとかいうイベント会社の美術デザイナーなのだ。
「そうそう、真希さぁ、高校行ってるんでしょ。どんな感じよ?」
あたしのコト気にしてくれるなんて、ちょっと初めてなんじゃないですか?
「そりゃ付き合い長いもの、少しは気になるわよ」
少し今更過ぎやしませんかね……? まぁ、とにかくここ一年半の出来事をかいつまんで説明するあたし。どうせ飲んでるから明日の朝には忘れ去られてるに違いないけれど。
「なんかヘンな高校ね、真希のトコ」
やっぱり、そう思うでしょ。
「そんだけ手広くやってて、なんでデザイン系の部活がないのよ! 片手落ちだわ!!」
そこかい……。
テーブルに突っ伏してよだれたらしながらいびきをかきはじめた彼女(ほんとデザイナーとは思えないほどガサツよね、このヒト)に、いつものタオルケットをかけて、三日分の洗濯物を洗濯機に放り込むあたし。あぁ、正月かぁ……お雑煮くらいは作ろうかなぁ、などと思い立ち、片手鍋に水を張って昆布と乾燥しいたけを入れとく。生協さんが届けてくれた人参とか里芋とかカウンターに並べて、冷凍庫の鶏肉をタッパーに入れなおして冷蔵庫に移して解凍お願い〜、なんてコトしてるうちにTESリモコンが“お風呂が、入りました”って云ってくれたからお風呂へGo。……さすがに眠いわ。
ふと目を覚ますと、布団の中にいる。え? 窓の外はとっくに明るくなってていわゆる朝チュンな状態。台所からお雑煮の美味しそうな香りが漂い、包丁トントンしてる音が聞こえてくる。
「……おはようございます」
「おはよー! 真希さぁ、さすがに湯船で寝落ちはないわぁ。そんなことしてるとアンタ死ぬよ、ホントにこの娘は……」
なんて三つ葉切りながら怒られてるの、あたし。……まさか。
「保育園ン時以来かしらね? お風呂で寝ちゃってお着替えフルコースって」
あ゛あ゛あ゛ やってしまった~
「真希さぁ、アンタやっぱり大きくなってるわ、ちょっと許しがたいわね、まったく……」
いろいろとスイマセン……。




