年末進行
年に一回の放送設備点検。学校中の運営系スピーカーがちゃんと機能しているか確認するのが仕事。毎年年末にやることになってるんだ、って先輩が云ってる。考えたら先輩以外みんな一年生だから、なんでもかんでも先輩頼りになってしまうのは仕方が無いことよね。
普段あたしたちが入らないような部屋にもスピーカーはあるから、一週間くらい前に点検日と時間を告知しておいて、今日がその実施日。ビル・エヴァンス流しながら廊下と一般教室を小一時間かけてぐるりと廻り、次は部室関係。運動部さんの部室は一箇所にまとまっているからサクッと回れるんだけど、出版さんみたいに辺鄙なトコに部室を構えている団体さんも多くて、なかなか時間がかかるの。
<1F北側男子トイレ奥PS内 漫画研究会部室>
うわー、ちょっと入りづらい、けど、お仕事だから仕方ない。ってことで、失礼しまーす。
「誰か神保町買い出しいってくんねぇ? トーン切れた!」
「おまえが行ってこいよ! オレなんか〆切一昨日だぜ!」
「オレが描きたいのはこんなCoolJapan的な奴じゃなくて萌絵なんだよな……」
「しょうがねえだろ! クラ同の奴らからフライヤーの発注来てんだから!? っていうか、ちょうどいい外貨稼ぎだって、仕事とってきたのお前だろ!?」
「せっかく島エンドとれたのに、うすい本作る暇Neeee!」
……次、行ってみよう。
<5Fルーフバルコニー先 仮設プレハブ生物部部室>
ここだったら、まぁまともかな。こんにち……
「へびー!?」
「あぁ、逃げちゃダメだよチャールズ……」
「なんでヘビがカバンから出てくんのよっ!?」
「え? だって寒いじゃない、この部屋……」
「その子無毒なんでしょうねぇ?」
「たぶん……」
「しゃー……」
「ちょっと!! 鎌首もたげてるわよ!?」
「チャールズぅ、おすわりだよ〜」
……はい、次ぃ。
<7F天文ドーム回転機構マシンスペース 兼天文部部室>
そういえばだっちここと兼部してるんだったっけ? ちわー、放送でーす。
「……最近、早瀬先輩来ないね〜」
「やっぱりこの間、ミホさんと別れたのが効いてるんじゃない?」
「人はいいんだけど、所詮ただのムッツリスケベだからね〜先輩ってば♡」
「それより、こんどのふたご座どこ行く?」
「大菩薩嶺かなぁ〜」
「え〜? また冬山装備〜?」
え? だっち彼女いたの!? っていうかムッツリスケベってナニよ??
<B2F非常用ディーゼル機械室改め出版委員会印刷工場>
おじゃまし……
「いいんちょ〜う、いつになったら帰れるんですか〜?」
「あたしにわかるわけないでしょ!?」
「なんでこんなペラッペラな本、こんなに作んなきゃならないんですか?」
「そもそもなんで他所の高校の分までウチで面倒見なきゃならないんですか!?」
「この時期はそういうものなの! 28日までに全部あげるわよ!」
「は〜い……」
年末って大変そうね、いろいろと。
そういえば年末は加瀬先輩のバイトが有るんだった。久しぶりにLINEが来てた。“12/28 13:00〜12/31 24:00 ビッグサイト イベ 半袖必須 とっぱらい5万 一応印鑑”って。真冬に半袖ってなかなか謎よね。何のイベントかしら?
放送室に戻ると、見慣れない女子が受付に来てる。報道って腕章つけて肩から一眼下げてるから出版さんの関係なんだろうけど……。
「お、中島おかえりー」
「とりあえず、部室関係はOKでしたぁ、どうしたんですか?」
「お邪魔してます。出版の西崎です。執行部の総括作ってまして、写真のチェックお願いしに来ましたぁ」
あぁ、いわゆる事務所チェックってやつね。放送室の受付(でっかい書類キャビネットの上のべっこんべっこんいいがちなスペース)の上に広げられる写真の数々。
「あ、加瀬先輩だ。すっごいカメラ目線。これって望遠でしょ……?」
「これって体育祭の時の神崎先輩ですか? なんか顔赤くしてる……」
「わー! 文化祭ん時のあたし! 演劇の時のかな? すげー泣いてる……」
写真に群がるみんな。つい最近のことなのに、意外と覚えてないものなのね。
「この写真はウチの人じゃないと思いますよ」
白山が西崎さんに話してる。
「あぁ、この人。一緒にいたから撮っちゃったけど、放送さんじゃなかったんですね。」
智子が横から口を挟む。
「それって早せ……」
内線電話が鳴る。数学科から珈琲の注文。“またかよ〜”なんて愚痴りながら、珈琲セットを準備するだっち先輩。あたしはマグカップとトレーを準備する係。写真をまとめて帰る西崎さん。“ありがとうございましたぁ”
ところで、冬休みってみんなどうするの?
「そういえば加瀬先輩から……」
「加瀬先輩が……」
「加瀬さんから……」
え? みんな呼ばれてるの!?
「そうそう、コミケの企業ステージの仕事だよ。多分」
コミケ? なにそれ?




