非常階段
放課後の非常階段。ここでロングトーンとスケールとタンギングを練習するのは、この学校に入ってからの日課。吹奏楽部辞めて放送委員会入ってからも、だいたい毎日続けてる。校舎の外壁にくるりくるりと螺旋を描いてくっついてるこの階段。雨の日はびしょびしょだし、夏は暑い。今はもう秋から冬に向かってるから日に日に寒くなってる。だから、よほどの物好きでもなければこんなトコには来ない。誰にも邪魔されず、誰の邪魔にもならずに練習ができる。あの人が云うには一日練習サボったら三日分下手になるんだそう。確かに文化祭明けでセッションしたら、あまりにグダグダで怒られちゃった。
放送委員会に入ってよかったことは、放送室の機材でCDやレコードを思いっきり大音量で聞けること。機械の操作を教えてくれながら一緒に聞いてただっち先輩が“スゲーなこの録音”って感心したあと、文化祭のときの録音データをさんざんこねくり回した挙句に、真顔で悔しがってたっけ。
そうそう、この間、校庭で球技大会やってたの。非常階段から練習ついでに眺めてたら、ゴールの前に先輩が立ってた。手と足いっぱいに広げて、しゅって飛んでボール弾いてた。サッカーってよくわからないんだけど、なんかスゴイ動き方だった。体育科の先生から“ナイスセーブ!”って声かけられて挙動不審(照れてるのかな……)になってたけど、ちょっとかっこよかったな。しかもね、先輩眼鏡が砂だらけになってて、それを外してシャツでフキフキしてたんだけど、眼鏡かけてない先輩って、意外にステキだった。
そういえば夏に先輩と録ったデモテープが、オーディション通って、来週事務所の人と会うんだ。うまくいけばお仕事貰えるかもしれない。今はまだあの人のお世話になりっぱなしだけど、いつか自分で稼いでやるって思ってる。
私にはたぶん音楽しかない。そう信じて、今日も非常階段に登る私。目の前に広がる境内の木々も、色々の葉を落として冬の支度をはじめている。そう遠くないいつの日か。




