まさか、ほんとに?
次の日、いつも通りに授業が始まった。ってことは、放送委員会も通常業務にもどったってわけ。うつらうつらしながら午前中を過ごし、昼休みから全開で動きまわって、午後の授業は適当にやり過ごし、放課後はふたたび全開で働く、そんなインターバルな日常を繰り返してきたあたしにとって、一限目と二限目の間に、三年生の教室のある階まで行くことは、ちょっとした冒険だった。
結局昨日は先輩に連絡がつかず(携帯とかスマホくらい持ってて欲しいものだわ)、今日こうしてあたしが直接ご挨拶に伺うことになったのだけれど、先輩が普段教室でどんな有様なのか想像したこともなかったので、実はかなりおっかなびっくり。本当に教室で机に座って勉強なんかしてるんだろうか?
この高校の一般教室は、狭い敷地に無理して建てた校舎のせいで“横に長い”なんてフザケた形の教室がフロアごとに二つずつあって、そのまま科学コースのクラスにあてられてるの。あ、云い忘れたけど、うちの高校って普通科なんだけど、コース制とかいう謎制度になってて、生徒は学区とか関係なしに全都から募集してる。で、入試の時点で語学コースと科学コースにわかれるって仕組み。まぁ俗に云う文系と理系ってコトね。
人の世の常で、理系の人々はアタマがいいと相場が決まってる。だから優遇されてるのかどうかは知らないけれど、とにかく科学コースの教室は横に長く、しかも広い。教室内の電源も60A確保できて、ちょっとした催し物にも余裕で対応できる。電源不足で隣のクラスと照明用の電源の融通しあわなきゃならない語学コースの教室とはエライ違い。で、先輩のいるクラスがこの3年6組なのだ。
「早瀬先輩いらっしゃいますか」
休み時間を迎え、少し騒然としている廊下から、教室の入り口脇でおしゃべりしてる集団に話しかけてみる。
「はやせ…、はやせ? あぁ、早瀬君ね。あそこにいるけど……寝てるわよ」
クラスの人に名前まで忘れかけられてるよだっち! それはともかく、その女の人の指差した方、教室の一番後ろの一番窓寄りの席、机の上にぐったりと伏している人影があった。……でも、違う人だ。あのうざったそうな髪の毛がないじゃない。
「あなた、放送の人?」
「はい、そうですけど」
「何かあったのかしらねあのヒト、髪切っちゃったりして……あなた知らない?」
「ゑ?」
はぁっ? 髪切っただとっ? そんなのありえないぞっ。とにかくあたしはだっちの机までつかつか寄ってって、背中をつんつんする。起きろ〜。可愛い後輩が来てやったぞぉ〜。さも難儀な有様で体を起こす早瀬君。そしてあたしは会ってしまった。奴に……。
「おっ、中島か……どした?」
「うそ……」