201☓年8月19日実施
――ご家族の構成は?
独身です。一人暮らしをしています。
――ご職業は?
都立高校の教師をしています。
――勤続年数はどの程度ですか?
新任で富ヶ谷工業高校に配属されまして5年、今の高校に転属になって4ヶ月ですから、5年と4ヶ月です。
――どのような時に不安を感じますか?
ホームルームの時……ですね。
――具体的にお話いただくことはできますか?
……まずですね。彼女たちの格好がですね。非常に、なんていいますか……。一応制服のある高校なんですけれど、クラスの半分以上が裸足で部屋着なんです……。
――きちんと指導できていないという思いがおありですか?
どちらかというとですね、今まで勤務していた高校が、ほぼ男子校のようなものだったので、多少の自信はあったわけです、自分なりに……。ただ、いま受け持っているクラスが、女子ばかりのクラスでして、まず視線のやり場に非常に困っている次第です、はい。
――女性との関わり方の問題とお考えですか?
私、ですね。中学・高校と男子校だったんですよ。大学はゼミやサークルに女性もいましたけれど、数学で教職とりますとなかなか時間がとれませんで、おまけに実習先が富ヶ谷でして……。女性との関わり方という点では、先生の仰る通り、蓄積がない状態ですね。
――女性とうまくコミュニケーションがとれないということですか?
いや、それほどのことでもないと思うんです。実際私、部活の顧問もやらせて頂いてまして、そこには男子生徒も女子生徒もおりましてね、彼らとは普通に会話出来ているので、問題ないと思うんです。――そういえばですね、最近その部活の所属生徒の身上書を見てましてね、彼らの身の上が何らかの形で欠損家庭である割合が統計学的に見ても無視できないレベルでして、このことを演繹法で解釈すると……
――話をもとに戻させていただけますか?
はい。
――一番つらいと感じる時はどんなときですか?
……教室の掃除をしている時です……。
――……どうしてそのようなことになったのですか?
共学校に配属になったからには、今までのようにガサツな男子たちの横っ面はたいて並ばせるといった手法が通用しないだろうとは思っていました。彼女たちは高校生ではあるのですが、同時に女性でもあるはずです。思春期を迎え、いろいろな悩みを抱えている彼女たちに、常に寄り添う存在でありたい。そう思って赴任したわけです。ところが彼女らにはそのような気配が微塵も感じられない……。今時のスカート丈で登校したかと思えば、そのまま廊下で部屋着に着替えて、メイクを直し始めるんです。体育の授業の後などは正直近寄るのも憚られる状態でして……。そうした状態でも担任として終礼くらいはきちんとこなさなければ、と思うのですが、そんな女子更衣室そのままの教室に入って二言三言言葉を発したところで、まるで黒板が何か喋ってる、的な反応しか返ってきません。そんな彼女たちに毎日一度15分でいいから掃除をしませんかって……どの面下げて頼めばいいって言うんですか!!
――質問を変えましょう。
はい。
――一番こころのやすらぎを感じる時はどんなときですか?
……乱数表を眺めている時です。
――どうして乱数表なのですか?
……素数を数えるのに、飽きてしまったからです。
――今日のカウンセリングはここまでとします。
ありがとうございました。
対象者氏名:林田耕平
年齢:28
診断:理想と現実のギャップに困惑している傾向があるものの、総合的に見て鬱状態とは認められず。
要経過観察




