電気って大事、わりと
あの超絶ありえない行事(あれってただの軍隊式洗脳イベントよね……)が終わって8月半ば。靖国神社が深緑と蝉と右翼さんならびにその他諸団体でいっぱいになる時節。お盆だし本来なら学校はお休みのハズなんだけど、9月に控える殺人的お祭り騒ぎpart2“文化祭”のおかげで、校内の教室はほとんど満卓。授業やってる時より多いんじゃない? ってくらいヒトが来て、体育祭で立てそこねた(あるいはへしおった)フラグのために、お芝居の稽古とか自主制作映画の撮影とかダンスの振り付けとかバンドの練習とか、まぁそういったこと全般に勤しんでいらっしゃる。
放送委員会も、そうした勤勉な皆様の熱いご要望とかリクエストとかレコメンドとかオーダーとかにお応えするべく、毎日誰かしら放送室に詰めているわけで、今日はあたしの日直二日目だったりするのです。
「すいませーん。音楽室の電気つかないんですけど……」
あぁ、また軽音がブレーカー飛ばした。
「多目のライト、いつもみたいにカチャカチャなんないんですけど……」
それね、ヒトがやってるの。ヒトがいないと無理なの。
「体育館の照明、ボール当てたらガラス降ってきてマジ危険なんですけど……」
えー! っていうか当てんなよ、マジで! 弁償しろよコラ!
「そろそろ稽古始めたいんですけどぉ、音響担当の人来ないんですか?」
アナタねそういうことは前もって云いなさいよ、前もって。
「こことここのツーエイトを二回繰り返して、こっかからここまで……」
だっち来るのココとココの日だから! 出直せ、いや出直してください……。
「すいません、映画の録音ってどうやるんですか?」
すいませんけど、知らねえよ!!!
すでに殺人的な気もするけどほっといてランチタイム! 500円玉握り締めて、いつものdutchへGoするあたし。
“インド旅行のため閉店中。再開は8/20……”
……みんな、みんな死ねばいいのに。
しかたがないので九段下のド○ールでミラノサンドCセット。年頃のJKの胃袋を甘く見てるとしか思えない物量に憤慨しつつ帰路についたあたしに、高度150から次なる刺客が襲いかかった。
「勘弁してくださぁーい!!」
そりゃ、雲行き怪しかったのわかってたさ。でもねdutch往復するくらいなら余裕っしょって思ったワケよ。脚の速さには自信があったし、ね。で、このザマですわ。いくらあたし女子力無いったって、こんなブラ透けまくりじゃ、おちおち廊下も歩けないワケよ。
ということで、裏門からそそくさと放送室に戻って鍵閉めてカーテン閉めて、奥の部屋(こっち側がスタジオになってるの、今更だけど)で全部脱いで、風呂あがりのおっさんみたいな格好(見たこともなったこともないけどね)で、ヒートガン(熱収縮につかうドライヤー的なアイテム)でいろいろ乾かしてる13:20。
“カチャカチャ……がちゃ!”
おい待て。なぜ鍵が開く? しかもこのタイミングで……。悟空もびっくりなスピードで机の下にかがみこむあたし。
「おかしいなぁ、なんで鍵かかってんだろ? しかも電気つけっぱなしだし、デンコに叱られる……って最近見ないよなぁデンコ……」
などと呟きながらだっち先輩が入ってくる。先輩は悪く無い、悪く無いのはわかってるけど今すぐ出てって欲しいの、割りとマジ。
「……っていうかスタジオで部屋干しとかやめようよ。湿気で機材やられちゃうよ、ブラとか靴下とかマニア向けすぎるラインナップって、え? 誰かいんの?」
スタジオの入り口の扉で立ち止まるだっち。一人だと意外に饒舌なのねこのヒト、などという場違いな感想を胸に仕舞いこみつつ小声で囁いてみる。
「すいません。そこから中に入ってこないで……おねが」
部屋の躯体がビリビリするような、お腹のそこからかき混ぜられるような、極めて周波数の低い轟音が通り抜ける。僅かに遅れて雷鳴。
暗転。
カーテン越しの二重窓の外から微かに聞こえる雨音。
「中島? そこにいるの」
「おはようございます……。ちょっとワケありでヤバめな格好してます」
回れ右したっぽい先輩。
「雨、濡れちゃったのか……」
「……そうなんです」
「じゃ、俺一回外出るわ」
「すいません……」
どがっ! ぼこん!!
「先輩! 大丈夫ですか!?」
「いってえなぁ! なんだこれ? っていうか俺今どっち向いてるの?」
「……知らないですよ」
“これが放送卓でしょ、で、これが機材ラックでしょ……”などと手探りで歩き始めたらしき先輩。でもだんだん声が近くなってきてる気が……。
がしっと頭を掴まれる。
“……あ、これ中島?”
明転。間。再び暗転。(照明操作:東京電力麹町変電所主開閉器1番)
死んでください。ほんとに。嫁入り前なのに。彼氏もいないのに。あたしが何したっていうんですか? 電気料金毎月きちんとお支払いしてますよね。大口献金とかしなきゃダメなんですか?? などと東京電力さんに呪いのコトバを並べているあたし。先輩が手探りで探し当ててくれた非常用懐中電灯の明かりを頼りに生乾きの制服を着てる。いま放送室の扉の外で門番してくれてる先輩の頬についた赤い手形の下手人はあたしだ。ごめんなさい。ほんとごめんなさい。
「お待たせしました……」
扉から顔を出すと、先輩は云う。
「あのさ、ちょっとばかり無防備すぎやしないか?」
「だって、先輩が合鍵持ってるなんて知らないですよ!」
「……あぁ、まぁ勝手に作ったやつだからな」
「そもそも日直でもないのになんで来たんですか?」
「あぁ、今日は部活」
「え? 先輩他にも何か部活してるんですか?」
「あれ、云ってなかったけ? 俺、天文部。夜限定だけど」
どんだけ24時間営業なんだこの人……。
“クシュン!”
そりゃくしゃみくらい出るさ、あたしだって。
「中島って、クシャミは可愛いのな……」
死ね。いますぐ死ね。




