フナムシとタイコの日々
この学校はおかしい。そう真剣に思い始めたのは、四月の半ばあたりでした。没収されたスマホの返還申請に教職員2/3以上の賛同と押印が必要だとかで全研究室たらい回しにされましたし、授業の内容もおよそまともな高等学校のものとは思えませんし、体育で足の届かないプール(水深3mです)に放り込まれて泳がされました(死ぬかと思いました)し、ゲーム機の持ち込み禁止だからって工芸部の人たち部室でアーケードゲーム自作(持ち込みじゃないです! ここで作ったんです! キリッ)してますし、生物部はお濠の水の微生物でサプリメント(千代田の緑汁、とか命名して税込み1000円のシール貼ってました)作って一儲けしようとしてますし、写真部は屋上の天体望遠鏡(日本光学興業製15cm屈折赤道儀)使って“昼の霞が関窓際事情♡”なんて何もかもが逆さまな写真集作って体育科から呼び出しくらって全部数きっちり没収されてますし、体育祭は負傷者多数なのにまるで通常営業な感じですし、挙句の果てにうっかり入った委員会がまるで人手不足の零細企業だったりしてまして、正直わたしの残機はもうゼロです。
なかでも一番異常だと思うのがこの行事。8月頭から四泊五日で行われる遠泳合宿。大正時代から続く由緒正しき伝統行事などと云われましても、平成生まれのわたしたちにとっては、時代錯誤なんて四文字熟語が尻尾を巻いて逃げるレベルです。
だって赤褌ですよ! そんなもの白黒のカクカクの映像でしか見たことないですよね。それが海辺に並ぶんですよ。ずらーって。男の子のおしりをあんなにたくさん見ることは、今までも、そしてこれから死ぬまでも、ないと思います。
わたしたち女子も黄色い腰帯をつけさせられて、波荒い北太平洋を3kmも泳がされるんです。地元勝浦の漁船や海保の巡視船が出るから大丈夫、などと云われましても。余計に恐怖が増すばかりだということに、誰も気が付かないのでしょうか?
で、本当に不思議なんですけれど、感動のあまり涙が出てしまうんです。最初の日はフナムシさんが足元に寄ってきて悲鳴を上げてしまったり、浜辺の砂があまりに熱かったりで、家に帰りたくて仕方がなかったのですけれど、日の出の太鼓とともに目覚め、とにかく走って移動して、大声で自分の名前を叫び、ひたすら泳いで、日の入りの太鼓とともに帰営するとか、そんな意味不明な生活を送っているうちに、私自身が大正時代になったみたいで、ほんとわけわかんないけど意味なく泣けるのよ、これが。
こんなド田舎に、スマホ禁止で五日間軟禁とか、ありえねぇって思ってたけど。もう分刻みで自分が変わっていくのがわかって、もうね、とりつくろってらんない。要はあれでしょ。自分の殻とか捨てろってことでしょ! きちんと自分と向き合えってことでしょ! じゃあやってやろうじゃないの!
わたしは思った。東京帰ったら、神崎先輩みたいに目標作って、行けるトコまで行こうって。そう思ったら、課金ゲームとかランカーとかスゲエどうでも良くなって草が生えました。
1年5組15番 白山雪子




