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放送委員会のススメ  作者: 飯田橋 ネコ
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梅雨時、彼らがそわそわする理由

 梅雨前線が列島の南にまとわりつく頃になると、校内もなにやら落ち着きがなくなってきた。最初の頃こそよそよそしかった一年生の各クラスも、その他人行儀な雰囲気を一掃させ、体育祭に向け何故かすさまじい勢いで動き始める。一学年6クラス、計18あるクラスが縦割りで三団に分けられ、体育祭の優勝旗目指して突き進む。ただそれだけのシンプルなイベントの、いったい何が彼らをそれほどまでに掻き立てるのか…。


……その衝動は青春につきものの“恋愛”というイベントへの期待値の急騰に依拠するものであると云えよう……、出版委員会発行『月刊ダバシ』の論説員2年5組橋本士郎は語る。


 ……全都から入試倍率7倍という狭き門を突破してきた彼らのことだ。基本スペックは高めな上、三年間という限られたタイムテーブルの中、大学入試から卒業に至るまでのロードマップもだいたい思い描いている。入学して二ヶ月が経ち日々の暮らしにも慣れてきた彼らの間に“……そろそろかな”とか“今のウチじゃね”といった雰囲気が漂い始めるのも無理からぬことである。

 ましてや、中学時代を入試突破のための勉学に費やし、いわゆる地味系クラスタに所属していたであろう彼らが、親元や地元から距離的にも心理的にも離れた状況に身を置いているのだ。そこから迸る情動がいかに凄まじきものであるのか、想像に難くない。

 また、一学年文系4クラス&理系2クラスという構成により、我が校の男女比は3:7という偏った状態になっており、わけても文系の3・4組は女子だけのクラス、俗に云う“女クラ”という特殊編成であることから、通常の高等学校では決して起こり得ない、共学校のはずが男日照りの女子&微ヲタだけどワンちゃんあるで的男子のストライクゾーン絶賛拡大中なボーイミーツガールが、“朝の飯田橋駅前で待ち合わせて一緒に登校する二人”とか、“昼休みの屋上で仲良くお弁当を食べてる二人”などという実にけしからぬ事案として発生確認されるに至り、“その他大勢”を自認するような一般生徒にあっても、手を伸ばせば届くところにある都市伝説として、なお一層の現実味を帯びてくるのである。

 そうした状況下でのこの“イベント”である。ここでフラグを立てればあるいは、といった朧気な打算や切なる願いといったものが、若年ならではの焦燥とともに脳裏に去来するのも詮無きことかな……


 斯様な記事が“そんなわけで非モテのワイも彼女ゲット(右側:論説員)”などというフザけたキャプション付きの2ショットインスタとともに掲載された6月号を見るまでもなく、飯田橋高校は浮き足立っていたのだ。上級生から下級生に至るまで一人の例外もなく。体育祭ならなんとかなるのでは?という淡い期待を胸に……。


 一口に体育祭といっても、運動部の専売特許的な催事ではないのがこの飯田橋高校の伝統である(とされている)。徒競走とか走り高跳びといったマトモな競技は脇に追いやられ、チアリーディングや応援団のパフォーマンス対決。校舎横に救急車を待機させての50人vs50人男子巨大棒倒しや100人vs100人女子騎馬大戦。例えヲタ属性でも勇者転生できる巨大ゆるキャラ対決。その他大勢のモブ生徒を一緒くたに躍らせるストリートダンス(学習指導要領準拠)対決など、もはや競技と云えるのかどうかも怪しいラインナップがひしめき合っている。


 各団・各競技に分かれ、放課後の練習に熱が入り始めた。とはいえ紛うことなき都心に位置する飯田橋高校。校庭や校舎が彼らの情熱を全てを収用できるほどに広大であるわけもなく、乃木坂公園や竹芝桟橋など、都内に点在する様々なオープンスペースに、制服を着た集団がこそこそと集まり、乾電池駆動のラジカセから流れる微かな音楽に耳をそばだてながら、フォーメーションの練習などを繰り返すのである。


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