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放送委員会のススメ  作者: 飯田橋 ネコ
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って、どういうトコなのここ

 放送委員会入って昼休みと放課後が消えた。入ってみてわかったけどホント激務だわこれ。学校中の内線から呼び出し放送の依頼がかかってくるし、機材貸してくれとか、音楽編集してくれとか、今度のライブ(とかイベントとかパフォーマンスとか芝居とか)の照明(とか音響とか録音とか)やってくんない的な人が後から後からやってくる。

 体育館や多目的ホールでは、集会や総会といった学校の公式行事がスケジュール通り押し寄せてくるし、その合間にとっくに耐用年数過ぎた機材さんたちのメンテナンスもしなきゃならない。

 英語科は当然のように中間テストのヒアリングテスト用の録音を任せてくるし、視聴覚室とかの設備更新にまつわる仕様書や公示書や見積書などのあれこれを、先生よくわかんない♡で丸投げしてくる国語科とか、“今度の学会で使うPowerPointのデータにかっこいいSEとかBGMをあててくれたまえ”なんてその学会の二日前に云ってくる数学科とかとかとか。


 神崎先輩と白山さんがアナウンス業務の傍ら事務関係の仕事を片っ端から片付けているし、2〜3個のヘッドホン首にぶら下げた早瀬先輩が “あ、こっちじゃなかった”とか独り言いいながら編集作業してるし、部屋の隅の定位置では加瀬先輩がiPhoneのちっこい画面を見ながらメモ用紙に何やらさらさら書きつけている。


 国語科から丸投げされた、やたらに桁数の多い金額がずらりとならんだ書類を繰りながら白山が神崎先輩に尋ねる。

「先輩、この随意契約と一般競争入札って何が違うんですか?」

「あぁ、それね、機材買うだけだったら入札で、設備工事までやるんだったら随契(ずいけい)ってこと。このご時世だからほんとは全部入札にしなきゃだけど、今ある設備を改修するんなら、前と同じ業者さんのほうがラクでしょ」

「あぁ、そういうことですか。でもそれってちょっと高くつくってことですよね」

「でもね、新しい業者さんが入っちゃったら、既存の設備の調査から始めなきゃでしょ。前の業者さんが設備の内部設計に著作権設定してるコトもあるから、そういうこと踏まえるとかえって高くついちゃったりするの」

「へぇ、ただ単に面倒くさいってだけでもないんですね」

「そうそう、しかもね予算って単年度だから、ついた金額でできる範囲のことしかできないじゃない。続きは翌年度以降ってことになるの」

「……カットしたらカラーは来週別のお店でって感じですか」

「そうそう、そんな感じ」

「うわ〜面倒くさいですね。だいたいこの概算要求の金額ってどうやって決めてるんですか?」

「業者さんから見積もりもらって作るのよ」

「……それじゃ業者さんの言いなりじゃないですか」

「でもね、いつ通るかわかんない概算要求(おねがい)に乗せる金額だから、物価とか材料費とか人件費とか上がっても大丈夫なようにしとかなきゃいけないでしょ」

「あぁ、だからこんなとんでもない金額なんですね。……って、もしかしてオリンピックとか豊洲とかも?」

「そうね、規模は桁違いだけど起きてることは一緒。日銀さんがインフレターゲット設定してるから予算もそれ踏まえて組んでいくってこと」

「……もし物価上がらなかったらどうするんですか?」

「予算使い切れなかったら、編成した側の責任問題になっちゃうから使いきらなきゃなの。その見積書の最後のほうにいろいろあるでしょ。諸経費とか現場管理費とか。そのへんで帳尻合わせ。あとは内緒で機材入れてもらったり、かな」

「……それってまずくないんですか?」

「雪ちゃんはここの機材ってどうやって揃えたと思う? 生徒会からの予算だけで揃えられると思う?」

「あ…(察し)」

「そ。そういうからくりなのよ……。先生だって何の考えもなしに丸投げしてくるわけでもないのよ。もちつもたれつ、ね」

「……なんかすごいダークサイドですね」

白山さんの眼鏡がきらりと光り、神崎先輩の口角がくいっと上がる。

「何か楽しそうね。じゃ、次は生徒会の予算要求のコツについて説明するね……」


 あたしはそんなやり取りを横目に見ながら、早瀬先輩に渡された図面通りに機材の配線をしてみる。ルーズリーフに毛筆でさらさらと書かれている図面に踊る文字は、まるで書道のお手本みたいな楷書体。わりに達筆なのよね早瀬先輩。機械と機械をコードで繋ぐだけの簡単なお仕事だから、と云われて始めてみたのだけれど、コード挿すところがいっぱいあってなかなか迷う。18時には英語科から先生が来て今度の中間テストのヒアリングテスト用の録音を始めるのだそうだけれど、そもそもそれって生徒がやることなの?


「さすがに録音するときは部屋から出なきゃいけないよ」

と早瀬先輩。編集が一段落して、こっちの様子を見に来てくれた。

「でもボタンを押すだけでOKな状態にしておかないとね。先生たち素人だから」

ってこっちもただの高校生でないかと思うのだが……。そんな思いを他所に、先輩は手慣れた様子で配線の仕上げをして、図面と比べながらいろいろ教えてくれる。なんだか水道の配管みたいだなって思う。まぁやったこと無いけどね。


 加瀬先輩が部屋の隅で顔を上げる。

「悪い神崎、ちょっとショッピングおねがい……」

「……まーたですか? まだ年度始まったばかりであんまり無駄遣いできないんですよ!」

「なんだよ、遊びで使うわけじゃねえんだから、いいじゃねえかよ……」

「はいはい、わかりましたよ」

まるで母親とバカ息子ね……。

「あ、いいんちょ買い物行くんならこれもおねがーい」

早瀬先輩が相変わらず達筆なメモをさらさらと書きあげて神崎先輩に渡してる。

「も〜、委員長パシリで使うとかどんだけ良い性格のヒトたちなのよ……ついでだから雪ちゃんと中島さんも一緒に行く? お買い物」

お買い物って、どこに行くんだろう?


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