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達也の世界は崩壊する  作者: 佐田ハルヒコ
1, ポーカーフェイス少女
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ポーカーフェイス少女(2)

7437

 キィーンという甲高い金属音が、まだ寒さの残るグラウンドに響き渡った。


逢坂おうさか! もう一球だ!」

 そう声を張り上げて、長身細身の少年が再びバットを構える。

 本日、何度目かもわからない「もう一球」コールだ。


 その声に応じるように、対岸に位置する身長一六〇センチほどの小柄な少年は首を縦に振った。


 戻ってきたボールを、【逢坂】と呼ばれた小柄な少年は起用にグローブでキャッチ、そのまま胸の前で伏目がちに握りの確認をする。


 束の間の静寂が二人の少年の間を包む。


 逢坂と呼ばれた少年がゆっくりとした動作で両腕を振りかぶると、そのままゆったりと流れるように右足で一本立ちする。

 余った左脚は、右足と頭を一直線に結んだ【身体の軸】へと巻き付けるように持ち上げていき、やがて膝が直角に曲がったところでほんの零コンマ数秒の静止――――左の肩越しに少年は狙いをつけ、その視線の先で構えられたキャッチャーミットを目掛けて左脚を踏み出しては小柄な体躯を目一杯に使い、貧弱な右腕をスイングし――その右手の指先からはボールが投げ放たれた。


 彼の指先を離れたボールは、お辞儀するかのようになだらかな放物線アーチを描きながら、まるで打楽器に思い切り打ちこまれるバチのごとくバットに吸い寄せられ、そして再び甲高い音色を奏でるのだった。


 金属バットによって弾き返された打球は、一切の迷いすらなく一直線に突き進み、勢いそのままにグラウンド隅に設置された金網のフェンスを激しく揺らす。


「ナイスバッティング、正田しょうださんッ!!」

 その様子を見守っていた他の部員たちが「ナイスバッティング!」と盛り上がる中、気分の良くなった打席に立つ少年――正田は、再び小柄な少年に「もう一球ッ!」と言って、ボールを要求。

 その後も彼は、幾度にわたり快音を響かせ続けた。



「それにしても、三年の先輩方は、やはり皆さん気合入ってますよねー?」


 グラウンドの片隅――。

 カラのビール箱に腰掛けた――真新しい上下の赤ジャージを着た少女は、ただひたすらに快音を連発する正田の姿に釘付けとなっていた。


「今年が最後だからねぇ」

 新人マネージャーの言葉に応えるのは、彼女の向かいに座っている――右サイドで長い髪の毛をゆるく束ねた先輩マネージャー。


 彼女はニコニコと微笑みながら、やや間延びしたほんわか口調でさらに続ける。

「春はもう間に合わないけど、夏のメンバーはまだ未定だし、そりゃあ気合も入るよねぇ? それに今の監督は、過去の実績には囚われず結果を残した人を優先的に使っていくと明言してるから、例年以上にみんなやる気に満ちてる感じがするよぉ」


「へぇ、そうなんですねー……。というか、百瀬ももせ先輩?」

「なぁに? ささちゃん?」

 新人マネージャーの少女は、不可思議そうに首をかしげながら、先輩マネージャーの【百瀬】へと、ふと沸き上がった疑問をぶつける。


「さっき、【今の】監督って言いました?」

「言ったよぉ?」

「ということは……どこかで監督変わってるってことなんですか?」


 新人マネージャーの疑問に、先輩マネージャーの百瀬は首を縦に振って答える。

「うん。……まぁ、あんまり思い出したくはないんだけど、実は去年の夏に一回戦で負けちゃってね」

「ええっ!? ウチが一回戦負け!?」

 百瀬の言葉に、新人マネージャーは信じられないとばかりに目を丸くした。


 それもそのはず。

 彼女たちが所属する【京葉大学附属花見川高等学校】――通称【花見川】は、野球王国として賑わいを見せる千葉でも有数の強豪校として知られていた。

 全国制覇の経験こそないものの、夏の甲子園は四回、春は二回の出場経験を誇り、甲子園での勝率も五割を上回っていた。

 それだけに、千葉県外の高校野球ファンにおいても、一度はその名を耳にしたことがある程度には知名度のある高校だった。


「まさかの結果……だったから、あの時はみんな、すごくびっくりしてたよぉ!」

 当時を振り返った百瀬は、その当時の気分を思い出して、思わず引きつった笑みを浮かべだした――。



 たとえ有力な強豪校であっても、地方大会の初戦で姿を消すことは、そう珍しくもない現象であった。


 そして、実際に昨夏は、自分たちのチームが【初戦敗退】を経験することになった。


 ――相手は、無名の弱小校。

 ヒットの数では圧倒的に上回っていたが、どうしてもあと一点が奪えなかった。


 それだけに、この結果が花見川OBをはじめ、父兄らへと与えた衝撃は多大なものであった。

 ゆえに、彼らからの非難の矛先を、前監督は自分へと向けることを選んだのだ。



「――で、責任を取って、前の監督さんは辞任。そして三年生が引退した後の新人戦からAチームの指揮を執っているのが、今の【清水監督】なの」

「ほぅ~」


「それに、この二人の監督は性格が正反対でね。結果を重視する現監督に対して前監督は、自らの信じた選手を最後まで信じて戦う監督さんだったなぁ……」

 前監督との思い出にふけりながら、しんみりとした表情を浮かべる百瀬。

 彼女は最後に無理やり笑顔を作って、この話を畳もうとした。

「まぁ、最後は結果が伴わず、辞任という形で終わりを迎えたんだけど――」

「――そりゃそうだろ!」


 女子マネージャーたちが和やかなムードで監督談義をしているところへ、突然の大きな怒声。

 突然割り込んできた大声に、二人は驚きのあまり目をギョッと見開き、背筋をビシッと伸ばした。


 その怒り成分を多分に含んだとげとげしい大声とともにやってきたのは、眉毛を細く整えた――いかにも気の強そうな野球部員だった。


「自分が気に入った選手と心中することしか頭にない、あんな耄碌もうろくジジイは、クビになって当然だ!」

 気の強そうな少年は、恨みがましく主張しだした。


「うん、クビにはなってないよ。責任をとっての辞任だよ」

 百瀬は気の強そうな少年の痛烈な言葉を、苦笑しながらも小声で訂正する。


「いいや、あれはクビですよ! ク、ビ! そうに決まってますよ! 公になってないだけで!」

 少年はさらに鼻息を荒くして続ける。

「そもそも、中学時代に全国制覇したチームの、 () () () ()を! ベンチ外に置いておく無能監督なんて、前代未聞でしょ!? そんな奴、クビが飛んで当然です!」

 細眉の少年は前監督の辞任について、自論を以て荒々しく主張する。


「というか、渡辺くん? 副島そえじま監督の批判は置いておいて――」

「――いいや、ダメです。俺は許しませんよ、あんな無能監督!」

 百瀬から【渡辺くん】と呼ばれた細眉の少年は不機嫌そうに、ふんとそっぽを向く。


 やがて彼は、自身の個人的な恨みを込めて、前監督の副島に対する【解任説】を声高々に引き続き叫びはじめた。


「百瀬先輩、ちょっと確認したいんですけど!」

「え、はい?」

 渡辺が百瀬に詰め寄ると、彼女は逃げるように、半身後ろに反り返った。


「当時一年ながら、チームで二番目に球が速いのは誰でした? ――長澤ながさわ? 違う、俺でしょ!? じゃあ、最も奪三振能力に優れていたのは? ――長澤? いいや! それは間違いなく俺ですよね!? そう思うでしょ、百瀬先輩!?」

「うん、そうだったかなぁ? 言われてみれば、そうだったかもねぇ……?」

 そして苦笑気味に、渡辺から少しだけ顔を反らしながら、はぐらかすように答える百瀬。

 そんな彼女の様子などお構いなしに、「でしょう?」と、渡辺は同意を求めつつも畳みかけてくる。


「こんな実力、実績ともに優れた投手がいながら、ベンチにすら入れない監督なんてクビになって当然だ!」

 彼はとにかく荒々しく息巻いた。


「それに比べて、清水監督はすばらしい! 秋の公式戦から俺を起用するとは、ちゃんとわかってるッ!! チーム内の投手で誰が一番頼りになるのか、しっかりとわかってるッ!! さすがだ!」

 うなる渡辺。彼はなおもAチーム監督の清水を持ち上げる発言を続ける。

「その結果が、秋の県大会ベスト4! おしくも関東は逃しはしたが、夏の初戦敗退からものすごい進歩だと思いませんかッ!?」

「う、うん。それはそうだねぇ」

 女子マネージャーの二人は、彼の荒々しい主張とその迫力に気圧され、愛想笑いを浮かべるのが精いっぱいという状況だった。


 あらかた新旧監督に対する自己主張を終えた渡辺は、満足したのか話題を変える。


「しかし、正田さんも諦めが悪いですよねぇ? 今更アピールしても、もう遅いというのに」

「えっ……?」


 まだかろうじて晴れやかだった百瀬の顔色。

 だが、渡辺の正田に関する発言を受けて、ほんの少し曇りの様相を見せた。


 そんな百瀬の様子を知ってか知らずか、渡辺はまたしても自論を展開する。

「そんなに、このチームは甘くないってことですよ。贔屓起用の目立った耄碌もうろくジジイのころよりは可能性あるでしょうが、それでもやはりBチームからAチームに這い上がるのは至難の業だということですよ?」

「まぁ、それは間違ってはいないだろうけどぉ……」


 渡辺の発言を受けて、百瀬は少しだけ頬を膨らませ、その柔らかかった表情から不快感を滲ませた。


 彼女は野球部のマネージャー。しかも正田と同じ三年であった。

 一緒に三年間頑張ってきた仲間という意識もあったが、それ以上に自身が選手を支えていくという立場である以上、その選手の頑張りを否定されるということは、とても悲しいことだったのだ。


「それに、打撃投手がアイツじゃ、なおのことアピールになんかなりませんよ?」

 渡辺はそう言うと、先ほどから快音を連発されている小柄な少年に会話の矛先を向けだした。

 それは先ほど彼が言った「正田の努力が無駄」だという根拠に肉付けをしようとしての発言でもあった。


「アイツ、最初ハナから戦力になることを期待されてないのは、先輩だってよく知っているでしょう?」

「そんなことは……」

 百瀬は、困ったように眉をハの字にして、それ以上は何も答えることはなかった。


 二人の間に流れる不穏な空気を察した後輩マネージャーの女子は、周りをキョロキョロと見渡し、

「あの、正田先輩に打ち込まれている――打撃投手の人のことですか?」

 そう言って、彼女はちょこんと首を傾げる。


「ああ、そうだ。ほかに誰がいる?」

「期待されてないって、どういう――」

「――んなモン、素人でもアイツの放ってる球を一目見りゃわかるだろ? 球速スピードは出ないし、投げられる球種もジジイのしょんべんのようにキレの悪いカーブだけ。そんなヤツ、ここで戦力になれるわけないだろ!」


 渡辺が逢坂の欠点を指摘する間も、金属バットと硬球による快音は響き続ける。


「そもそも逢坂ごときの雑魚が、この名門野球部にいられるのは、この俺のおかげなんだがな」

「え? どういう意味なんですか?」

「新人……お前、何も知らないのな」


 新人女子は、わけがわからないと言いたげに、口をポカンと開ける。


「ここの野球部はな、入部の条件として全員が実技試験トライアウトを受ける決まりなんだよ! いわば自薦他薦は問わないが、ここにいる全員が強制的にスポーツ推薦を受けてから入部に至っているわけだ。もちろん、中学時代の実績も考慮されるという話だが、試験の成績上位者は【スポーツコース】と【進学コース】の選択権が与えられ、スポーツコースを選択した者に関しては、学費半額免除等の特典が受けられる。そして、アイツも三月まではスポーツコースに所属していたわけ!」

「へぇ……、あの先輩……逢坂さんでしたっけ? 結構すごいんですね」

 打撃投手として快音を連発されている逢坂に対して、実はすごい人なのだ――と感心する新人の女子。

 しかし「違う、そうじゃない」と、渡辺は即座に彼女を否定した。


「一応言っとくが、俺は学費全額免除の野球特待生だ」

 渡辺が唐突に告げたのは、自分が特別に優れた存在であるということだった。


 そして彼は、さらに付け加えていく。

「実力はもちろんだが、中学時代は、名門リトルシニアの左のエースとしてチームを全国制覇に導いた実績もあるんだ。そして、アイツもそのチームの一員。……なんだが」

「……なんだが?」

 新人の女子マネージャーは、逆接を予感させる切り返しの言葉に反応して、再び首を傾げた。


「アイツはそのチーム内において、一度も試合に出たことなんてない。ましてや、所属していた三年間、ベンチ入りすらしたことがなかった。それなのに、特別待遇の【スポーツコース】に所属していたんだ。新人、……俺が言いたいこと、わかるか?」

「……ええっとぉ??」


 新人女子は、やはり渡辺が何を言いたいのかを飲み込むことができず、困惑の表情を見せる。


「【野球部創設以来の謎推薦枠】だの【ジジイの愛人枠】だの、いろいろ言われちゃいるが、それはどれも違う――」


 そして渡辺は答え合わせだとばかりに、自信に満ちた表情で言ってのけた。


「――逢坂(アイツ)は、ただの【抱き合わせ(バーター)】だ! ここにいる、やがて超高校級への成長が約束された本格派左腕(さわん)の――この俺――【渡辺わたなべ龍一りゅういち】を獲得するためのな!」

 言い切った渡辺は、利き手の左手で自らを誇らしげに指し示し、そして威風堂々と胸を張った。


「えっと……要するに、渡辺先輩って、めちゃくちゃ凄いってことなんですか?」

 新人マネージャーは、目と口を大きく開けて渡辺を見つめる。

「そういうことだ! 今年の夏は、期待してくれて構わんぞ! 俺が甲子園まで連れてってやるからな!」

 そう言うと、渡辺は豪快な笑い声をあげた。


 渡辺はさらに快音を連発する正田についても付け加え、吐き捨てる。

「そして、そんなショボいボールを打ち返したくらいで得意顔をしている正田さんも、アイツと同類だよ。あんなのを打ち込んだくらいで慢心してりゃ、Aチームに這い上がることなんて無理に決まってる!」

 渡辺に言いくるめられるがままの新人マネージャーは、彼の言葉の数々に、そういうものなのかと、頷き、納得。


「つか、新人。お前、名前はなんて言ったっけ?」

「ああ、渡辺先輩。申し遅れました。私、一年の【笹川ささがわ結子ゆうこ】と言います」

 笹川結子と名乗った新人マネージャーの少女は、渡辺に対して深々と頭を下げる。


「ふーん、笹川ちゃん、ね」

 そう言うと、渡辺は春奈のことを値踏みでもするように、頭の頂上から足元まで、じっとりと視線を這わせる。


「……笹川。お前、ちゃんとメシは食ってるのか? 身長は一五〇すらなさそうだし、体系もかなり華奢だよな? そんなんで、花見川のマネージャーが務まるとでも本気で思ってんのか?」

「え? いや、その……」

 渡辺からの突然の高圧的な言葉。

 これには結子も思わず涙ぐんでしまった。


「せめて、百瀬先輩くらいの肉付きは欲しいよなぁ?」

 そう言って、渡辺は百瀬の二の腕の下部をニヤニヤしながらつまむ。


「渡辺くぅーん? それ、どういう意味かなぁー……? というか、どこ掴んでるの? はやく離しなさい? それともぉー……」

 百瀬は目が笑っていないため、ぎこちないながらも穏やかな笑顔で渡辺をけん制――――けん制された渡辺は、冷や汗を流しながら即座に百瀬から手だけでなく視線も離した。


 そして慌てた様子で取り繕いながら、話を総括する。

「ま、とにもかくにも。アイツからヒット性の打球を放って浮かれている正田さんでは、とてもAチームには昇格できないってことです。そして、やんややんやと、その正田さんを持ち上げている他の連中も例外なくその程度ということですよ」


 渡辺は一通りの自己主張を終えると、彼女たちから徐々に距離をとっていき、

「そんじゃ、俺、走り込み(ロードワーク)の続きがありますんでこれで!」

 そう言って、不満顔の結子と、にこやかながらもどこか鬼の形相にも見える百瀬に見送られながら、逃げるように去っていった。


「先輩ファイトー……」


 渡辺を見送った結子は、百瀬の方へと振り向くと、即不満げな顔に変貌し、顔を真っ赤にして愚痴をたれる。

「なんなんですかー! あの人? ちょっとデリカシーなさすぎじゃありません?」

「ちょっと……で済むレベルなら、どんなによかったか」

 そう言って百瀬は小さなため息を漏らし、引きつり笑いを浮かべる。


「渡辺くんのことは、まぁ……置いといて。ボール磨き、再開しよっか、笹ちゃん」

「そうですねー……」


 結子の機嫌はいまだに直る気配を見せない。


 渡辺の話題も一段落し、球磨き再開のために練習場の出入り口から目をそらそうとしたところで、一人の女子生徒の存在が、二人の目に飛び込んできた。


 二人の目に映った女子は、グラウンド内をほぼ全域に渡って見渡しているようだった。

 そして彼女について、口を開いたのは、入部したばかりで好奇心旺盛な結子だ。


「そう言えば、百瀬先輩? つかぬことをお聞きしますが、ここって結構野球部を見学に来る女子生徒とか、多いんですか?」

「毎日ってわけではないけど……たまにいるかなぁ? あの子のこと、気になるの?」

 百瀬は、対象を自らの視線をもってして尋ねる。

「いえ、別に、そういうわけではないですが……」

 結子も再び彼女へと視線を向ける。


 二人の視線の先には、色白の肌に長い黒髪の映える――やや小柄な少女がいた。


 彼女は冬物の黒のブレザーを羽織って、スカートの下には黒のストッキングという、黒成分が高めの服装をしている。

 学年で分かれているヒモネクタイの色は――【青】――つまり、【二年生】であることが予想できる。


「マネージャー志望でしょうか?」

「どうだろうね? でも、タイの色を見る限りは二年生みたいだから、それはないかも?」


 フェンスの外にいる少女は、グラウンド全体を見渡すように見つめている。

 そして、不意に彼女のことを見ていたマネージャーの二人組と目が合うと、表情ひとつ変えることなく、彼女たちに会釈。

 そのまま長い髪とスカートを風になびかせながらグラウンドに背を向けると、どこかへと行ってしまった。


「あの人、なんだったんでしょう……? 野球部の中に、恋人でもいたんでしょうか!?」

「どうだろうねぇ? ひょっとして、Bグラウンドじゃなくて、Aグラウンドの方へ行きたかったのかも?」


 二人して、黒髪の少女について考察するも、答えが出ることはなかった。

「笹ちゃんっ! 続きやろぉっ?」

「はい!」

 こうして、渡辺に捻じ曲げられた機嫌をなんとか直した二人は、再びボール磨きを再開。


 グラウンドではなおも定期的に、軽快な金属音が鳴り響く――。

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