五話
第二の町の狩場として、三種類報告がある。一つは森、これが一番簡単らしい。次は湿原、火属性は厳しい? 最後は洞窟、調査隊は即全滅したとかしてないとか。
「夕闇の森か」
ちなみに、護衛をするさいに通るのもこの森である。百聞は一見にしかずなので向かってみるべし。
・バット
暗いところを好み生息するモンスター
バットか……まったくもって捻りがない。大雑把な説明では分からないが、このモンスターは三種類のマップ全てに出現する雑魚? モンスターである。攻撃手段は吸血、時々超音波。というか吸血鬼に関連性がありそうだ。よく考えると、吸血鬼に不利な日光の要素が少ない夕闇の森と洞窟は吸血鬼救済マップなのだろうか?
バットは滑空して私の肩へと向かうが、投擲の練習として使われる哀れな運命だ。外したとして、吸血に成功したバットの末路は私に吸血し返される。
・スパイダー
糸を攻撃手段とするモンスター
・マッシュ
胞子をまき散らす植物型モンスター
ぬるい。例えるなら人肌以下の、と感じたのはこの森を軽く回って出てみた結果だった。新しいモンスターはいる、新しい攻撃パターン、例えるならスパイダーが糸で妨害するとか、そういうのはあった。けどぬるい。何かが足りない。この森は思ったより長く、持久戦になると不利だと思われるが私には吸血がある。適当に補給しておけばとりあえず心配などない。それに、モンスターは皆そろって火に弱そうなのばかり。湿原マップでは不利だから? だとしても甘い。アイテムをそれなりに用意すれば簡単にクリアできる。
気付いたのはログアウトして、何気なく夕日に見て黄昏てるなと思ったときだった。昼じゃないか、夕闇の森は昼でも暗く吸血鬼に優しいしようなので昼行ったが、夜を確認していない。まさか、夕闇の森が本当に恐ろしいのは夜か? 夜なんだな。よし分かった、なら吸血鬼らしく夜の夕闇の森踏破を目指そう。
・ブラックバット
夜限定モンスター。バットとの違いは超音波攻撃。
攻撃? 疑問はすぐ解消された。探知の手段でしかなかった超音波は私のHPを少しずつ削っていく。急いで一匹倒すとまた一匹、それを倒したら今度は二匹。奥を見るとなんと10匹!
「くそっ」
一匹ならともかく10匹分の超音波攻撃など受けたらまずい、急いで逃走するが私は倒れていた。
・ブラックスパイダー
夜限定モンスター。スパイダーとの違いは罠など。
倒れている私に近寄るはブラックスパイダー。糸はスパイダーのものより細く、強く、そして見えない。
「付与、しゅん……失敗!? 詠唱妨害効果もあんのかっ!」
どうにか足を動かして私は森の出口に向かう、こうなった以上は一時撤退を――
・ブラックマッシュ
夜限定モンスター。マッシュとの違いは胞子の性能。
気付けば麻痺、混乱、毒の状態異常。なすすべもなく神殿へ死に戻っていた。
「ハハハ……」
「兄さん?」
「私に喧嘩を売ったことを後悔させないとな!」
「……兄さん??」
よろしい、こうなったら夕闇の森を完全攻略するまでは諦めない。熱くなっている体を冷まし、深呼吸をして冷静になっていく。こういう時、ただ怒りに任せるのは今のところなしだ。どうやったら攻略できる? 火属性? 論外だ、どうせ使ったとたん集団で襲われてジ・エンド。必須スキルに夜目は入るだろう、隠密なんかもいいがそれを取れるSPがないから却下。つまり、今あるスキルでどうにかしないとどうしようもない。 あの森はじわじわ削るがコンセプトと見たので、一体の戦闘に時間をかけるのはよろしくない。というか隠密で一体ずつ狩っていくのがやはり有効だと思われるが? よし、基本ヒットアンドアウェイで行こう。周囲の状況に気を配るのは最低条件、潜むブラックスパイダーやブラックマッシュを厳重警戒するのがポイントか。一体はそんなに強くない、さまざまな要因が重なり合って強くなる。ならば、その要因を一つずつ解いていけばいいのだ。
・トレント
人面樹。稀に人の顔そっくりな模様を持ったただの木である。
ふう。一番気を使うことは鑑定で周りのモンスターを警戒して、囲まれないように注意すること。そう、思ったから木も鑑定してみたらモンスターだった。ますます油断ができない、全部の木に鑑定をしなければ安心できない。
・カレハチョウ
葉に擬態するモンスター。鱗粉は麻痺を誘発する。
っつ! 枯葉もか。全部焼き払わないと安心できないぞおい、手当たり次第に鑑定と二刀流で片手剣を振り回す。乱舞である。そして、前回の死に戻り地点までたどり着いた。戦略としてはブラックマッシュの群生地帯に入らない、ブラックスパイダーの罠に注意、ブラックバットと距離を適度にとるの三点か。
「付与、筋力 付与、生命 付与、精神 付与、敏捷 ”ニードル”×2」
付与を済ませて両手に持った片手剣をニードルで投擲。すぐにアイテムボックスから片手剣を二本取り出し、同じようにニードルでまた投擲する。これをさらに二度繰り返し、そこからは乱戦をする。HPが減るのを自覚しながらも、私は引かず。ブラックバットの集団を殲滅した。
「次はブラックスパイダーだ」
厄介な遠距離攻撃をしてくるブラックバットを片付けた後は、潜んでいるブラックスパイダーを見つけ出して切る。最後にブラックマッシュの群生地に火をつけて、私は撤退した。
「んー…………」
前回の戦いはそれなりの戦果があった。ブラックマッシュのドロップはかなり高く錬金術師らしき人物に買い取ってもらえたが、逆に言えばその程度。ブラックスパイダーの糸も今の私にはあまり使い道がない、ブラックバットの牙はナイフにすら加工ができない、現状でバットを狩る旨味は、稀にあるらしいレア牙(金)を狙うくらいだ。ならばもっと奥に進みたいところだが現在のレベルでは少し、厳しいだろう。一応攻略したし、別を狙いたい。
商人の護衛をするとき、特に夜。ゴブリンに襲撃されることがある。このゲームでいきなりポップしたという話はあまり聞かないから、彼らは待ちかえているのだろう。となれば、そこを叩く。襲撃イベントを楽しみにしている人間には悪いが、ゴブリンはかなり旨いのだ。経験値もそうだし戦いやすい。
「付与、筋力 付与、生命 付与、敏捷 付与、器用 ”ニードル”×2!」
最近は投擲にしか使っていないような気がするニードル。便利ではあるが、本来の使い方を見失いそうである。片手剣が突き刺さったゴブリンに蹴りを入れて止めを刺し、片手剣と武器を回収。槍もニードルで投擲できたらいいのだが、ニードルは対象外。よって、普通に投げることになる。その結果威力が落ち三割程度しか削れない、よって乱戦になる。一対多、不利な戦況にあれど私は笑う。ゴブリンの首を噛み切る、吸血する暇もないからといって吸血が使えないわけではない。吸血とは噛みつきの上位スキルなのではないかといわれているが、私もそう思う。
・ブラックゴブリン
ゴブリンの上位種
来たっ! 隠れていたゴブリンを殲滅しても、得られる武器は増えるどころか減る。彼らの武器は鉄製だが質が悪くすぐに壊れてしまう。よって、その上の武器を持っていそうなブラックゴブリンを発見した時、私の心はわずかながら震えたのだ。鑑定でもあまりテキストが見えず、それなりのレベルだと分かったのは、私の心に火を点けど消しはしない。
「付与、筋力 付与、生命 付与、精神 付与、敏捷 付与、器用」
ゴブリン相手には付与しない精神上昇の保険は有効であった、火属性魔法を使ってきたのだ。敵の構成は魔法を使ってきた奴を護るように二体、魔法使いが2体、弓矢で援護するのが一体。少々後衛が多いような気がするが、今までの敵と違って明らかに連携が出来ている。故に強敵と思っておく。弓矢を撃たれないように敵を盾とするべく位置取りに注意しながら、ブラックゴブリンの斬撃を横に避ける。後ろからもブラックゴブリンの剣が飛ぶが、逆にチャンス。背後に回り込んで蹴りを放ち、ブラックゴブリン二体を激突させる。
「”ニードル”」
そこに足を狙って投擲。二体とも足を撃ち抜かれただろう、ならば簡単だ。前衛が機能しないなら連携など取れるわけがない。
「武器は……同じ鉄の剣だな、ただ品質がいい。あの店と同等レベルだな」
さっそく戦利品を確認する。手に入れたのは鉄の剣二本と弓一つ、鉄の剣が手に入ったのはいいが、まだ求める数に達しない。せっかくのまともな剣なので他も探そう。
・ブラックゴブリン
前方にブラックゴブリン6を視認。全員前衛タイプと見られ、そのうち三体は剣持ち。
「行くか」
ニードル! と付与を済ませてからのお決まりのパターンで突撃。吸血を入れて一体を倒すも二方向から攻撃が飛ぶ。とりあえずガードするも今度は後ろから、今度はしゃがんだあと頭突きを入れてからそのまま首を絞め、吸血する。前に二人居るので吸血で倒しきれずにいったん距離を取るが、吸血した個所からブラックゴブリンは出血、ゆっくりと倒れて行った。吸血のレベルアップにより、出血の状態異常を発生させるようになったのだ。
血を吸いきれなかったことに若干の欲求不満を覚えた私は、腕で刃を強引に抑え、そのまま首に牙を伸ばす。HPは急激に減るが、私は気にしなかった。吸い終わって多少満足した私は、その牙を別のブラックゴブリンに。それをするたびに私のHPは減っていく。全て倒した時には、吸血で回復したはずなのに一割も残っていなかった。どうして? そこで私が吸血ばかりしていたことに気付く。戦慄した――――辺りは自分がまき散らした血に染まっている。
吸血スキルの副作用と言うには、あまりに強すぎた。何か手がかりを探すためにステータスなどを閲覧すると、スライム狩り準中級者が消え、魔物虐殺者に代わっていた。そして
・狂化 SP6
一部ステータスの低下などと引き換えに、ステータスを上昇させる。
が習得可能になっていた。つまり、あれは凶化状態だったのか? 一部ステータスの低下、などというのがミソなのかもしれない。明らかに私の思考力が低下したように感じた。驚くべきはそんなことを可能にさせる技術だが…………意図的な思考力の低下が可能…………なら……………………
「やあ、君が訪ねてくるなんて何の病気だい? せいぜい君の妹が邪気眼になったかひきこもり化したとかそのくらいしか思いつかないが」
「私だって花粉症くらいには罹るさ」
訪れたのは知り合いの医者。なかなかクレイジーな性格をしているというのが、私のなかの評判である。
「それで? 妹さんじゃないなら、君か。ひょっとして病気とは関係ない話?」
「あるようなないような。私が最近ファンタジアを始めたのは君も知っているだろう?」
「…………続けて」
「それで、敵の集団と戦っていたときに私は吸血というスキルを使った。だが、それは敵の攻撃で中断するしかなかった。その時私が何を思ったと思う? もっと血を吸わせろだ」
「おお、クレイジーだね」
「そこからは酷い、私は血を求めて敵の攻撃を受けようとも気にせず吸血を続けた。その時の私は明らかに思考能力が低下していたと思う。そして、習得可能スキルに狂化が増えていた、というわけだ」
「つまり? 君はゲームは悪影響をもたらすから禁止しろ、とでも? まあ、君はゲーマーだからそんなこと言うはずがないのはわかっているが、確かに医者として気になるといえばそうだ。ファンタジアに関しては僕も目をつけていてね、最新の技術を使っているんだ。わかりやすくいえば脳への影響力が違うんだよ、今までとどれくらい違うかというと…………そうだな、君はゲームが描かれている小説や漫画、アニメなんかもたまに見るだろう? あれに、死んだら終わりのデスゲームものなんてのがある。ファンタジアは理論上、デスゲームを開催できる」
「それってやばくないか?」
「まあ、君が今から家に帰ってファンタジアにログインしたらデスゲームだった、なんてことはありえないと思うから安心しなよ。今は理論上だ、だがファンタジアのプレイ規約には研究のためにデータを取ることの許可について触れられている。そういうデータをとるVRゲームは珍しくないが、使われる先が中小企業レベルじゃないからね…………」
結構衝撃的なことを言われた病院帰り。ファンタジアに国が関わっているなんてどれだけの人間が知っていただろうか? 私は知らなかった。思考能力の低下ができるということは逆の可能性も生み出される、すなわち思考能力の上昇。とあるネズミと男の話を思い出すが、本当にそんなことが可能なのだろうか?
とにかく。狂化をとってみて実際に見せてくれれば、診察代はタダにするよというのが友人の言葉だ、あまり気が進まないが、私の戦闘スタイルに割と合っているともいえる。いや、まだわからないがそんなような気がする。そしてそれをするためにはレベルを上げてSPを稼がないといけない、今回は湿原に向かってみることにした。
・ブラックフロッグ
夜限定モンスター。
黒カエル、一匹だと雑魚だが群れるとやばいシリーズである。その攻撃方法は合唱、倒そうにも一定の距離を飛んで逃げながら保つので厄介である。私の場合は投擲があるから……外した。投擲するにしても面倒な動きである。そんなに早くないのに湿原マップのせいで早く走れないのがいやらしい。ダッシュ持ちへの罠ともいっていいだろう。一応、水上歩行というスキルが入手できるという噂も聞いたが、そんな使い道が限定されるスキルをとっている余裕などない。
・ブラックアメンボム
夜限定モンスター。爆発するときもある。
アメンボムとは? 駄洒落だがこの黒パターンは通常と違い、爆発しない場合もあるというのが強化ポイントらしい。強化? アメンボムはスピードが速いがHPが少なく、投擲で石を投げれば爆発したらしいから強化だろう。しかし、それより重要なのが爆発の距離である。ダメージを与える範囲が広くなったことにより連鎖爆発しやすいのが真の特徴、どれから倒すか考えなければいけないのに爆発したりしなかったりのいやらしさ。吸血もできないから泣ける。
・ブラックマイマイ
夜限定モンスター。
マイマイはランダムに湿原各地を巡回するだが、とにかく固い。仕留めるには本体が殻に逃げ込まれないうちに畳みかけるしかないのだ。ただ、基本的にはいるだけなので無視されるのは昼の話。夜のブラックマイマイは非常に攻撃的であり、無視するのは……遅いから案外簡単だったりする。ただし、殻に籠っての回転体当たりはかなり危険。
・ポイズンフロッグ
ボスである。しかし、昼夜共通のモンスターで比較的弱い。中ボスである。多分手抜きじゃないかな、と私は思った。強化方法が思いつかなかったのかもしれない。一応、このカエルをボスとさせているのは近づくと毒になるが、魔法にはそれなりの抵抗があることだろうか。
「付与、筋力 付与、生命 付与、精神 付与、敏捷」
いつものを付与をかけていざ行かん。毒を与える体に触れないのはヒジョーに難しい、あつあつのおでんを食べてやけどしない程度にだ。ぶっちゃけステップスキルがほしい。ポイズンフロッグの体が揺れるときには毒液が飛び散り、盾もガードスキルもない私はもろに被弾。ポーションがないとやってられない。
攻撃モーション的にはブラックファングよりかなりぬるいが、その分面倒な動きである。フロッグ系の妙な動きはボスと化してますます拍車がかかっており、そのパターンは5種類ほど。それを見極めるのに時間をかけ、さらにそれが分かっても投擲で少しずつ安全そうな場所から削るはめになった。それはかなりの消耗を招き、最後には毒になるのもお構いなしに吸血したくらいである。
ポーションもいくつか使用した結果に見合ったかどうかは分からないが、SPが手に入った。撃破報酬として1ポイント、ソロ撃破ボーナスで1。吸血もレベルに10になったので合計で3ポイント。
・ツユクサ
製薬などの材料となる。
ふと、レベルアップの効果音を聞きながら珍しいものを見つけた。私は今まで敵を倒してはいたが、あまり採取などを行っていない。一応、金がないわけではなかったし、採取スキルなどもとってない。このゲームはだいたいそんな感じだ、スキルの取り方でやれることが決まる。私の場合はほぼ戦闘特化だが、このツユクサなどを使ってポーションを作る人間もいるわけだ。となると生産スキル持ちの地位は高いだろうとも思う。好き好んで生産をやりたい人間が戦闘をやりたい人間を上回るとは思えない。それか、自分で生産と戦闘をこなすのが正解か? しかし。私が生産スキルを取っていたら今、ここにはいられなかったとツユクサを見て感じた。
ネーム 伯爵 種族 吸血鬼LV10
スキル 吸血LV10 片手剣LV13 付与術LV10 蹴りLV6 投擲LV6 夜目LV8 鑑定LV5
残りSP5(レベルアップで2、ボス撃破とソロボーナスで2、吸血がレベル10到達で1)