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三話

 ふー。落ち着こう、そう落ち着こう。例えるなら素数を数えてみてまるで冷静になれないと気付いたときのように、朝日を見るのは寒いということを知ったときのように、落ち着こう。まるで最近は無駄思考をしていなかった、それだけファンタジアが面白くて必死になれるということだったが、そんなの私らしくない。ゲームだ、ゲームなんだからもっと気を楽にしてゆっくりと楽しもう。

 まずは敗因の分析からだ。ブラックホークは何をした? 確か最後……加速だ。ブラックホークの突撃は通常の速度、減速するパターン、そして加速するパターンの三種類あったのか。勝手に二種類だと思い込んでいた私が悪いな、反省しろ。先ほど自分に喝を入れるといったのがまるで意味をなしてなかった。どうやったら勝てる?









 あえて言おう、私はむきになっていた、こだわり過ぎていた。カウンターなど狙わなくてもいいのだ。


「付与、筋力 付与、生命 付与、敏捷 付与、器用」


・ブラックホーク


 ブラックホークは三種類の突撃パターンがあるのは分かった。だが逆にいえば突撃以外の攻撃手段が向こうもないのでは? とも思える。そして、突撃してくるしかないなら…………私はブラックホークの突撃姿勢を確認するとボーンナイフを軽く投げ、全速力でしゃがんだ。私が思うに、ブラックホークは速度の違いがあれど、まっすぐに突撃してくるだけのモンスターだといえる。そして、確実にこちらへ向かって高速で突撃するなら私がいる場所にナイフを軽く(空中に)置いて自分が躱せば、ブラックホークはナイフにへ勝手にぶつかってくれる。


 どうでもいいが運営的に考えると、ホーク系は不遇になりがちな弓スキル(銃スキルもあるらしい)の救済及び盾スキル持ちのカウンター習得を兼ねているモンスターなのでは? と私は推量した。


 そんなことを考えながらすっきりしたと笑っていると


・ブラックファング 


 エラー


「は?」


 鑑定がエラー? 意味が分からないと思ったのは一瞬。その咆哮で危険度を感じ取った私は速攻で逃げ出した。




 


 次のログイン。ブラックホークを狩っているとレベルが7になったので、あのブラックファングの様子を見に行くことにする。あれは間違いなくボス、パーティ推奨だろう。私はパーティで戦うのが得意な人間では、吸血鬼ではないが、ソロであれを倒せるほどまだ強くない。でも戦ってみたいとは思うが。

 隠密を取ってないけど取っている気分になって匍匐前進で遠くから様子を伺うと、確かにブラックファングの姿を確認することが出来る。五匹のブラックウルフに囲まれているみたいで、ブラックウルフを最近倒せるようになった私では荷が重い。撤退しよう。





・ブラックウルフ


草原の狼、推奨レベルは6~8。夜限定モンスターの一種。


「付与、俊敏 付与、生命」


 私が思うに、ブラックファングを倒すためにはブラックウルフ相手に安定して勝てるようにならないと不可能である。というわけでニードル禁止、付与術一部禁止でブラックウルフ相手に連戦してみることにする。付与術は全部禁止にしたいところだが、それだと付与術のレベルが上がらないので俊敏と保険の生命に絞った。

 まず一匹目、咆哮は止めないことにした。間に合うかどうか微妙な位置ではあるし、これからの連戦で止められない時もあるだろう。ならば、最初から咆哮の効果がある前提でやった方がいい。レベルが上がった鑑定の効果を実感しながら三連撃を全部回避する特訓に入る。ブラックファングは五連撃くらいするかもしれないし、ガードするたびにHPが削られていては問題だろう。こんな時あのハーフヴァンパイアが使っていたステップらしきスキルが欲しいものである。一撃目は避け、二連撃目はナイフを投げて回避、三連撃目も回避。一見良さそうに思えるが今のは駄目だ、ブラックファングがナイフで怯んでくれるとは思えない。そもそも今回もナイフで怯んでくれるかどうかは半々くらいの確率だろう、さあもう一回いこう。










「よし! これでいいか」


 まず私のレベルが8に上がる。そして片手剣はスキルLVが10突破によりSPに1追加。付与術は後半からブラックウルフにも掛けたこともあって、レベルは8。さらに一度に二人(ただし一つまで)付与できるようになった。ブラックウルフ相手にもノーダメージで切り抜けられる程度には特訓したから今回のログインはもう終わろう。




「なあ妹よ。」


「何?」


「ボスとかの報告はないか?」


「ああ、確かファングとかいうボスがいるらしいね。今作戦会議中で、私もそのうち倒す予定。もっとも、兄さんは無理だと思うけど。多分もうすぐ一陣の風が倒すよ」


「じゃあ、こっちは別のボス討伐する気はないか?」


「やっぱ兄さんとしては悔しい………………え?」


「今までのモンスターは(スライムを除く)全てに上位種がいるだろ? つまり」


「ボスも上位種がいるの? いいね!」


「んじゃ頼むぞ、集合はゲーム内での明日18時な」






 





「えっと。そっちがマリアでこっちがトドロキで貴女は?」


「始めまして、シャルです」


「竜人でうちのタンクを務めてるの、前回いなかったのは竜人の欠点として足が遅いから」


「ん。失礼ながらスキル構成を聞いてもいいですか?」


「盾と身体能力強化です」


身体能力強化?


「SP15で取れる、前衛には欲しいスキル。兄さんが取れるのは当分先だろうけど」


「なるほど。ではSPは余っている、そういうことでいいですね?」


「え? まあそういうことになりますが、必須スキルがあるのですか?」


「いや…………ブラックウルフの三連撃を避けられれば必要ないです」


「「「え?」」」


「なるほど」


トドロキさんとは話が通じそうだ。








「これ、きつくないですか!?」


「んなこと言ったってこれができないと」


「ちょっと貴女の兄さん厳しすぎます!」


「でも、兄さんはこの三連撃を避けるんだよ? これどうにかできないとタンクの存在意義がないじゃん」


「これでカウンターを習得したら、ブラックホークで練習させるから」


「いやそれないでしょ、ついこないだまで知り合いでもない他人にこんなこと。 轟もそう思うよね?」


「普通ですね」


「だよな」


「裏切った!? マリア助けて最後の砦!」


「(ニコッ)」


「うわーないわ。マリアが隠れSだったとか、回復するときのテンションで気付くべきだったわ」


 ギャーギャーうるさいが、竜人にブラックファングの練習をさせた方がいいと思い練習させているだけだ。聖魔法での回復役、他のモンスターが近づかないように警備役、ついでに防御力も上げてやる付与役がいて何が不満か。実際、性格は別にして筋はいいと思う。というか、盾と身体能力強化だけでダメージソースがないのにこれからどうするつもりだったかは謎だ。



「人間頑張れば案外どうにかなるもんですね」


「「「「・・・・・・」」」」


「何そのこいつ何言ってんだ的なノリ」


「本日は結局ブラックファングとの戦闘が出来なかったので、またゲーム内での明日、同じ時間に集合でいいですか?」


「問題ないよー、轟は?」


「同じく」


「私も問題ないです」


「じゃあ決定で。では解散」


「・・・・・・」







「さてと妹よ、作戦会議だ。どうする?」


「釣りが効果的だと思う。このゲームはあんまりいきなり何もないところからモンスターがポップしたとか聞かないし、ブラックウルフを排除してもすぐには出現しないと思う。」


「なるほど、ではどうする? 妹の魔法か?」


「助っ人を呼ぶ」










「えー、今回女帝さんにヘルプで呼ばれた獣人フクロウのミルです」


「よろしく」


「では今回の作戦を説明します。射程距離がそれなりに長い弓でブラックウルフを釣り、ブラックファングを倒すのが目標です。」


「釣れなかった場合、もしくは集団移動してきた場合は?」


「その時はプランBで」







「えーこちら女帝、今からプランBを実行してください」


「「「了解」」」」


 プランBは二方面作戦だ。より射程距離の近い魔法を使いそちらに誘導し、後ろからブラックウルフの数を減らす。誘導班が妹・マリア・シャルで、強襲班が私・轟・ミルの担当である。はっきり言うとシャルの負担が大きいが頑張れ。


「付与、筋力 付与、俊敏 付与二、筋力 付与二、生命」


他にも掛けたいがMPに余裕がないのでここで終わりだ。


「”チャージ”」


 まずミルがブラックウルフに先制、怯ませる。


「”スマッシュ”」


 続いて轟が斧で決める、豪快な一撃はブラックウルフのHPを全損させるが、同時に隙も発生する。硬直時間を狙い撃つようなブラックウルフの三連――いや、モーションが微妙に違う。


「”ニードル”」


 だから。一撃目を放つのに合わせて、強引に口へニードルをぶち込む。こっちのHPが一気に五割以上減ったが、時間は作れた。ミルがもう一矢を放ちそこから吸血に入って、最後はまたも轟が止めだ。


「行きましょう」


 吸血してなお足りないHPをポーションで回復させる。このゲームでは市場経済が採用されている? のでポーションも高騰していたので買わなかったが、少し安くなったこともあり購入した。さて、シャルは生きてるかな?  







「アイワンチューヘルプミー!!!」


「お前誰だ」


 良かった、普通に生きてたわ。やっぱあの訓練のおかげか、うん。とはいえ残りHPは二割を切っている、よく生きていたな。ブラックウルフを一体片づけてくれたみたいであと二匹とブラックファング、気を引き締めて行こう。

 陣形を整える。HPが減ったシャルは後方に退避、代わりに私と轟が前へ。轟はブラックファング、私はブラックウルフ担当だ。轟は武器の相性からして一対一が望ましいからだ。私はブラックウルフ2体を後ろを狙わせないように、戦わなければならない。まずブラックウルフの三連撃を避けるからの、後ろのブラックウルフにナイフを投げて二連撃目を避けて、微妙なタイミングで飛んでくる一撃目をガードして、そこにすかさず三連撃目が飛ぶからしゃがんで回避したら、やっぱり四連撃目があったけどちょうど矢が間に合ったのでぎりぎり回避…………疲れる!


「伯爵さんは本当にそれで回避スキル取ってないと? 人間失格ですね」


「私は吸血鬼ですから!」


 ミルに突っ込まれるが、今は気にする余裕がない。適当に返して私のアイテムボックスから鉄の剣を取り出す。


・鉄の剣 品質C


レベルが低めの冒険者にはちょうどいい品、片手剣。NPCが作った。


「”ニードル”」


 さてニードル、正式名称はアクションスキルというらしいこのスキルは欠点がある。おそらく意図して作られたものだろう、プレイヤーがアクションスキルに頼りすぎになるのは喜ばしくないだろうから。ニードルは突きの威力は高めるが、他の斬るなどの動作には大きくマイナスがかかる。さらに、突撃などに使用するとこちらもそれなりの反動を受ける。ガードされない前提の一撃にしか使えない技だ。

 しかし何事にも抜け道というのは存在する。私が考えた結果、ニードルには剣の加速や攻撃範囲縮小の効果があり、攻撃範囲が縮小してしまうことによって相手の突撃がカバーしきれず、ダメージを大きく受けるとみえる。ならば、剣を投げてしまえばいい。一度限りだがニードルは優秀な投擲スキルとなる。



「スイッチ!」


 ブラックウルフを一体に減らすことに成功した私は、すぐさま交代することになった。轟はもう限界のようで、ブラックウルフはシャルがまた担当するようだ。しかしいつか限界はくるだろう、ファングのHPはまだ7割残っている。傷からして真正面にスマッシュを受けたとみえるのに7割。戦意は衰える気配がない、ここで大きくHPを減らすことが勝利への必須条件だろう。

 足を集中的に狙う。ウルフ系は機動力が高い、それを下げられれば大きく勝利に近づく。


「ファイア」


 妹の詠唱はブラックファングの動きを先読みして行われる。それがどれほど凄いかよく分からなかったが、炎に直撃したことによってブラックファングは足を止めた。それによって生まれる隙は、私に足へと攻撃を可能にした。それををいつまでも許されるはずがなく、爪が飛ぶ。右から振るわれた爪は早さこそあるが狙いは雑、とりあえず避けると左からも同じ攻撃が来た。そのくらいは予想が出来たので同じように躱すと上から攻撃が迫っていた。爪と牙の二段攻撃、私は前方に飛び込んだ。ニードルを打ち込んですぐさま離脱。


「ウオオオオオオオオオ!!」


 そして。これは残りHPが三割を切ったときにファングがしたらしい咆哮と酷似している。多分これを許してしまうと、有利に傾いている戦況が一気に戻ってしまうのでここで決める。成功確率は未知数だが…………?


「行くぞ!」


付与、俊敏を掛けた私がシャルの盾に乗り、蹴る。カウンターが発動して――――


「ウインド」


 そのままでは足りない飛距離はウインドにより加算。


「”ニードル”」


 自由落下を始めようとする私の体を、強引にシステムアシストで移動。まだ足りない!


「”ニードル”」


 だが剣は二本あった。もう一本! ブラックファングの背に飛び移る。ウルフを見た時点から考えていた案は、今ここに成功、止めだ。


「ファイア!」


「”チャージ”」


「”スマッシュ”」


 なおも抵抗を続けようとする狼に止めを刺すのは私だ。吸血によって塞がっている口を、声にならない言葉を出しながらゆっくりと動かす。先ほどのように、システムアシストは有用に活用することができる。今度はシステムアシストに動作を追加、あの投擲した時のように今度は回転させる。

 回転が掛かった針はブラックファングの首を貫通し、私はその背から投げ出されながらレベルアップの祝福の音を勝利の余韻にひたりながら聞いていた。だから。地面に落ちたときに死に戻りしなかったのは幸運だった。

ネーム 伯爵 種族 吸血鬼LV8

スキル 吸血LV5 片手剣LV11 付与術LV8 夜目LV6 鑑定LV4

残りSP12(レベルアップでSPを4入手、片手剣がLV10になったことでSP1、さらに裏エリアボス撃破よりSP6、初回撃破ボーナスでさらにSP1追加された)

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