二話
人間だもの、主人公だって失敗するさ。
伯爵は比較的理性的な? キャラで通していますが、相性の悪い相手も居ます。
さて、今日は妹たちと狩りだ。妹に迷惑をかけないようにしたいが、私がそこまで気を使うのは無理だな。攻略組とやらの実力もみたいし、PVPでも吹っかけるかな。
「兄さん、こちらがエルフのマリアで」
「鬼人の轟です」
「トドロキさんね、多分覚えた。この面子だと盾役がいないように思えるけど?」
「今はまだ必要ないかなーーなんて」
「分かった。で、攻略組は?」
「あっち」
妹が指さす東の方角を見ると、確かにいた。作戦会議?
「兄さんが来る前に先行して偵察と死に戻りをしたみたい」
「あっそ」
人が案内をしてやるというのにまったく…………その心意気はいいと思うが。攻略組のリーダーらしき人物に声を掛けてみる?
「そうです、私がリーダーです」
「あっそ」
やっぱり興味が失せたので帰ってもいいですか? が、リーダー(仮称)は土下座してきた。
「いや、すみませんでした。名前はライル、一陣の風のリーダーをしています。レベルは6で片手剣と盾を使っています」
「へぇ……」
こちらはまだレベル5なのだが。人間と吸血鬼の必要経験値には差があるとはいえ、レベル6に到達しているのは凄いな。
「伯爵さんから見て必要なスキル、道具はありますか?」
私は後ろを見てみるが、灯りがいくつか。ひょっとしてスライムで死に戻りか?
「夜目があればいいですね。なければ聖魔法で代用できると思います。だから私の案としては――」
結局聖魔法使いを囮にする案は即座に却下され、有用なスキル持ちがスライムと遭遇しないようこっそり進む方針になった。そのため攻略組+夜目持ちと隠密持ちと探索持ちの少数精鋭である。少数?
「あれがブラックラビットです」
「先ほどのブラックドッグのように強くなっていると考えていいですか?」
「そうですね。さらにいえば、行動パターンに変化があります。今から実演させた方が分かりやすいと思うので見てください」
このパターンは二回する方だな。溜めの瞬間をニードルで突いてもいいが、それだと意味がないのでモーションを待つ。まず一度目の飛び蹴り、軽く避ける。そして兎はもう一度飛躍し飛び蹴りを決めにかかるが、それも分かっていれば問題ない。難なく避け、地面に激突した兎に止めを。
「とまあ、この兎さんは二段ジャンプしてもう一度飛び蹴りするわけです。夜目持ちなら違いが分かるかもしれませんが、二段ジャンプするときとしない時がありその場合ジャンプの高度が違います。倒し方については、飛び蹴りをしようとする溜めを狙い撃って仕留めるのがお薦めです」
「なるほど」
後ろからなるほどじゃねーよとか聞こえるが無視しよう。どうせあいつらのほとんどが非戦闘要員だ。他の奴らには納得しているのもいるし問題ない。ただ、驚いたのはさっき言ったことを一度で再現するリーダーの戦闘スキルの高さだな、ライルだっけ? 覚えよう。
「ウルフが四匹出たぞっ!」
「行きます、伯爵さんも戦います?」
「いえ、見学で」
だからか。彼のパーティも少し気になってしまった。まず四匹のウルフを魔法で分断、まずメンバーが挑発で憎悪値を高めその隙にライルが攻撃――――ん?あれは必殺技のように思えるが。ライルは私と同じ片手剣を使っているはずだが、あのモーションは明らかにニードルではない。まあいい、後で確かめよう。他のパーティを見て、興味をひかれたのは獣人の付与術使いだ。付与術が使えないと言われた要因として憎悪値をかなり集めることと、MPの消費が大きいことがあげられる。だが、彼女は憎悪値の上昇を使って攻撃を集めている避けタンク? MPの消費が大きいのも敏捷値上昇に絞っているから…………。敏捷値?ひょっとしてスピードじゃなくて敏捷値? これからスピードはやめよう。
戦闘も危なげなく(正確には無理に付いてきたパーティが一つ壊滅したが誰も気にしていない)終了しとりあえず帰ろうと思った矢先、探索役が死に戻りした。
「ブラックウルフだ!!」
しかも二体。勝てるか?ブラックドッグも何匹か現れ、状況はかなりまずい。ふと気になって隣のライルを見ると笑っていた。そんな姿を見て、私のゲーマー魂が燃えたのか知らないがライルと同時に切りかかっていた。
「”スラッシュ”」
「”ニードル”」
最優先は咆哮の阻止。もし、咆哮をさせたら後ろの方のブラックドッグも攻撃力が上がるかもしれないしそうなったらやばい。だから最低限その隙を作らないようにしなければ。
「付与、筋力 付与、敏捷 付与、生命 付与、器用」
多分こっちが正しいんだろうなぁと思いつつもとりあえず付与術。ライルさんには筋力だけ上昇させた、下手に敏捷を上げても体感が狂うだけだ。ライルと私でブラックウルフを一匹ずつ受け持つ。あ、
「三連撃!」
これで伝わるかどうかは微妙だが噛みつきが三回あることが伝わればいい。届いたかどうかは分からないがまずライルは噛みつきを避け、その後の追撃もガード、最後のはスラッシュで弾きながらのもう一度スラッシュで反撃、あの三連撃を見事捌いてみせた。ならばこちらも負けられない。一度目の噛みつき、ガード。下手に避けると二連撃目が難しくなることは学習した。HPが一割減るが必要経費、二度目の噛みつきに合わせて
「付与、敏捷」
付与する相手はブラックウルフだ。先ほども言及した感覚の狂いが引き起こされ、そこに隙が出来る。器用値も上昇させることによって、より集中が高められ――――
「”ニードル”」
カウンターとなった必殺技はブラックウルフの残りHPを全損させた。
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました。フレンド登録しません?」
あまりフレンドを増やすつもりはないが、ライルならいいだろう。そう今夜の戦闘で思わされた。
「ところで…………PVPをやってくれる人いませんか?」
聞いたところだと経験値も入るらしい。もう少しでレベルアップしそうなことや、他の面子の実力が知りたいこともあり、対戦相手が欲しい。
「では、ミーシャいっきまーす!」
さっそく第一号の勇者が来たと聞こえるが無視だ。それだったら私は魔王か?見たところ種族はハーフヴァンパイアか?ハーフの場合昼でもダメージを受けないが代わりに昼は魔法が使えないとか。しかも吸血は任意習得、ぶっちゃけハーフの方が使い勝手がいい。一応、吸血鬼の方がステータス的には勝っているが。
『ミーシャさんからのPVP申請を受けますか?』
勿論イエス。先行は譲ったが槍だった。突きを避けて懐に入ろうとするが不思議な動きをされて躱される。これ見たところステップのスキルか何かだろう。
「付与、筋力 付与、敏捷 付与、生命 付与、精神」
しかし見切ってしまえば問題ない。まだレベルが低いのもあって割と単調な動きではあったからタイミングを合わせられた。
「”ニードル”」
「ウインド!」
が、これでは終わらなかった。狙っていたのか至近距離での魔法は見事に当たった。HPが三割削られる、あっちは二割か。だが分かってしまえば簡単、雑になっている槍めがけて剣を投げ、槍を奪い突き刺した。
「兄さん、次は私とやろ?」
ミーシャに勝利した次は妹が仕掛けてきた。
『女帝さんからのPVP申請を受けますか?』
「妹を切る趣味はない」
「ええー」
「だいたい何でキャラクターネームが女帝なんだよ」
「兄さんが伯爵だから?」
「よく分からん」
あんまり細かいことを気にしても無駄だろう。一応、申請された以上は受ける一択だ。
「ファイア!」
っと………さっきにしろ今にしろまだPVPの始める瞬間に攻撃するというのがまだ慣れてないな、次から頑張ろう。とりあえずファイアを避けとく。
「付与、筋力 付与、敏捷 付与、器用 付与、精神」
爆撃のように飛ぶ妹の魔法は、確実にこちらのHPを削る。あちらのMPがどれだけ持つかは分からないが今仕掛けないとジリ貧なのは間違いない。チャンスを作るため投擲スキルを持っていないのに片手剣を投擲し、ダッシュスキルを持っていないのに全力疾走。早くスキルが欲しい。飛んでくる火球は完璧には避けない。ただ、三割持っていかれるだろうダメージを少し体をずらして二割に軽減する。HPはイエローゾーンだが妹のもとに到達した。
「まだ諦めてないから!」
接近戦では不利な魔人だが妹は自爆覚悟で魔法を使用する。まだあちらのHPは全快、こちらは三・四割。精神が高いこともあり、削りあいでは向こうが有利? んなことはない、こっちは吸血鬼だ。妹の首に牙を突き刺し吸血する。吸血と魔法ではHPの吸収込でも吸血の方が不利だが、吸血はMPも吸い取る。こちらのHPが一割になった時点で妹がMP切れで勝利だ。勝利のファンファーレと共にレベルアップ時の効果音が聞こえる。二連勝により気分が高揚している私だったが、妹が冷たく「行こうか」と言い放ったことにより機嫌がプラスからマイナスに転落した。もういい、行こう。
「この子はフェアリーのマイン」
「よろしくです」
「よろしく。(ですってなんだよ)」
いや、ほんとなに? こういうどうでもいいことに拘れる人間であるからには、考えなければいけない
「そざいはなんですか?」
おっと。もうやめよ、不毛だ。何があったかな……鑑定スキルとか持ってたら分かることも増えるか?
・ブラック三種の毛皮、肉。ドッグとウルフは牙、ラビットの場合は耳がドロップした。
「これがブラック~と名がついてるやつから取れたものだが、品質とかは分かりますか?」
「こっちの牙がC-で……」
本当に品質があるのか。鑑定スキルの重要性が高まったな……鑑定スキルに必要なSPは5か。欲しいスキルが多すぎる、レベルアップする分だけじゃ足りないから三番目のSPが入手できる方法に期待するしかない。
「で、代金になるんだがどのくらいかかる? 」
「そ、それはですね……」
「決められないのか?」
「いや、このレベルのそざいをかこうするのに、おかねをもらうわけにはいかないです」
は? 私は彼女の服装を見る、初期装備だ。
「なあ妹よ、確か私は装備で器用値を上げられると聞いたが」
「うん?そうだけど」
「フェアリーさんは他に装備は?」
「ないです……」
「じゃあなぜ持っていない?現時点では作れないのか?」
「いえ、つくれます」
そこだけははっきりと言われた。
「なあ……作れるんなら作れよ、大方金がないとかそういう理由だろ? 私は今最高の装備を作ってもらうために来た。ならそっちも最高の装備を作る態度でやってくれよ。腕に自信があるんだったら金を問題にならない程度にむしり取ってやればいいんだよ、遠慮もいいけどここはゲームなんだ、見苦しいんだよ。なんか他に必要な素材はあるか? それなら取ってくるから。だから、良い品作ってくれ」
私の言ったことは結局のところ的外れだった。彼女はVRMMO初心者であったし、このゲームはステータスが表示されていない(器用値などは非公式な名前)ので、まだ明確でない分影響も疑われていた。さらにいえば、この時点での生産者の差などほとんどあってないようなもので、マインはただ妹と知り合いで腕が良さそうだったから私に会っただけだ。他にも私が求めていたのは最高の装備ではなく、ただあのブラックウルフ相手に問題にならない程度の防具だったし……など、私の過失は沢山あった。私らしくないが、あのです口調によっぽどいらついていたとしか言い訳できない。でも私はこの件を振り返らない、それは自分の失敗を思い出したくないのもあるが、彼女が言ったからだ。
「はいです」
しかしなぜです口調なんだろう。すごく気になるようでならないが……
ログイン二回目、あの後すぐにログアウトしてしまった。やる気でない。とりあえずステータスの確認をしてくとメッセージがあった。
「できたので、きてください」
早っと思ったが、良く考えれば一日ある。そう難しいことではないかもしれない。とりあえず今から行きますとメッセージを返信してマインのいる場所へ向かった。
・黒狼のコート
ブラックウルフの毛皮を使ったコート。
マインによると品質はB-らしい。んなこと言われても鑑定できないから分からないが。もういい、確かSPは5あったはずだ、鑑定を取ろう。もう一度黒狼のコートを見る。
・黒狼のコート
ブラックウルフの毛皮を使ったコート。プレイヤー作。
っつ! これだけしか分からないのか。
「どうしましたか?」
「ああ、今鑑定スキルを取ったけど品質が見えなくて……。多分、見えないということは高品質ということなんだろう。」
「そうなんですか」
少なくとも、彼女の鑑定では品質などが分かるわけだ。製作者だからかもしれないが、鑑定はレベル上げしたいな。
「まあいいや……。昨日はすみません」
「いえいえ」
「作ってくれて……ありがとう。また次も頼むよ」
マインに気を使って少し早目にログインしたので、夜になるまで市場を冷やかしに回る。しかし、防具はそうにかなったが武器はどうしよう。私は片手剣を使ってはいるが、槍なり投擲なり他の選択肢も欲しいとは思っている。そういう物を作ってくれそうな職人を探すべく、あちこちを見て回ると声を掛けられた。
「あんた、夜の草原の素材を持っているか?」
「ん、確かにそうだが」
「なら譲ってくれないか? その剣を打ち直す代わりに」
鬼人か。確かにこの鉄の剣はそれなりに使えたが、少々乱暴に扱っているので耐久度が減っているか。
「悪くない、これでどうだ?あんたは鍛冶屋でいいよな」
「あんた凄いな、これだけの量の素材は攻略組でも持ってないぜ」
「まあ、毎日狩っているからな」
「そりゃすげえ。なんか武器を作ってやりたいとこだが、残念ながらこの牙じゃナイフまでが限界だ。片手剣使いでいいよな? 短刀スキル持ちだったら作ってみるが」
「持ってはいないが…………私は投擲スキルも持っていないのにその剣を投げまくったから問題ない」
こうしてスミスに鉄の剣の修復とナイフを作ってもらった。
・黒狼のナイフ 品質C-
黒狼の牙で作られたボーンナイフ。製作には細工レベル4以上必要、ダークエルフのプレイヤーが作った。
「ん? 私の鑑定だとダークエルフが作ったになっているが」
「いや、よく考えろ。鬼人にこんな小さい牙の加工ができるか? 無理だ! 頼んだんだよ」
「いや、無理ではないと思うが」
「俺には無理なんだよ!」
「そうか、なら仕方がない」
もともとこのゲームではSPの消費が多いから、分業制なのか? ナイフはダークエルフ、鍛冶が鬼人が担当する的な。でも私にはまだ関係ないから無視してとっとと狩りに行こう。ちなみに鑑定はレベル3になった。
「ウオオ」
防具を作ってもらったことで一番楽になったのは何故か、ウルフ戦だったりする。レベルが上がったからかは知らないが、あの麻痺咆哮をレジストすることが可能だ。多分、この黒狼のコートのおかげだと思うが隠し効果?何にせよ鑑定のレベルはもっと上げる必要があるだろう。ウルフ二体との戦闘終えた後は、さらに草原の奥へ進んでみる。
・ブラックホーク
草原を飛び回る鳥。夜限定。
フレーバーテキストが確認できる、というかブラック系はやはり夜限定なのか。そんな風に観察していて油断していたからか、私はブラックホークの突撃を避けきれなかった。とっさにガードするが二割以上持っていかれる。
「三割…………それなりの強敵だな。速いし空だから攻撃手段がない!」
そう、投擲スキルも何もない私ではブラックホークへの攻撃手段が何もない。かといって無視するのはありえない。ガードしても約三割、しなかったらおそらく五割もらう。戦闘中にそんなのをもらったら即死に戻りだ。
「付与、筋力 付与、敏捷 付与、生命 付与、器用」
狙うはカウンターだ。てか、それしか方法が思いつかない。カウンタースキルが欲しいがSPが足りない。習得条件はこの前のブラックウルフのカウンターで満たしてはいるのだが。
「付与、敏捷」
さて。結果から言わせてもらうとブラックホークを倒すことには成功した。ただし、私のHPも五割削れたのでその日はおとなしく帰った。途中ウルフに襲われたが逆襲したくらいしか特筆すべきことはもうない。
「ニードル使えば良かったじゃん」
「ニードルは刺すスキルではあるけど、突撃するためのスキルじゃあないんだよ。相手の急所を的確に狙うときに使うような、そんなのだ。…………ブラックホークどうするかな」
「兄さんのスキル構成じゃ厳しいと思う。遠距離攻撃スキル持ちならともかく、兄さんでは無理だよ。一番簡単なのは隠密のスキルを取って見つからないようにすることじゃない?」
「昼間のホークはそれで問題ないと思うけど、夜のホークは多分無理」
「どうして?」
「(ゲーマー的な)勘。なんか分かるんだよ、(クリエイターの)そうはいきませんよ的な(思惑が)」
「なにそれこわい」
三回目のログイン。今日の目標は当然ブラックホークだ、あんなんじゃ気が済まない。ブラックラビットの飛び蹴りをスルーしてブラックホークを探して走る。
・ブラックホーク
居た! 切りかかりそうになる気持ちを抑えて、静かに襲い掛かってくるのを待つ。昨日は実質相討ちだから勝つまで頑張ろう。付与も済ませ突撃にカウンターを――――失敗した。ブラックラビットの飛び蹴りも二種類あるように、ブラックホークの突撃も二種類あった。その可能性を失念した私に喝を入れたい。途中で減速した突撃にタイミングを見事ずらされ、あっけなくHPの四割を取られた。くそっ。
「もう一度だ」
失敗したならもう一度やればいい、まだHPは六割ある。成功させよう…………今だ!
「嘘だろ…………」
気付いた時には神殿に死に戻っていた。
ネーム 伯爵 吸血鬼 LV6
スキル 吸血LV5 片手剣LV9 付与術LV6 夜目LV4 鑑定LV3
残りSP0(レベルアップでSPを4入手、その分と今までのSPを鑑定に使った)