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一話

 ひんやりとした空気が体を包む。夜の始まりと終わりの町は少し、違って見えた。灯りがあちこちに見られ、空気に比例しない陽気さだ。とりあえず閉店しないうちに武器屋へ向かう、NPCの店だって二十四時間営業をしているわけではない。ベータ版とまず違うのは所持金、3000Kしかない。よって、鉄の剣を買うと500Kしか残らない。稼ぐためにも夜の草原へ向かう。


ブラックラビット  

 

 吸血鬼が敬遠される理由は主に3つ。吸血鬼の真価は夜発揮されるのでプレイ時間がある程度固定されること。吸血という行動に嫌悪する人、または必要経験値が多いので見送る人。種族によってレベルアップに必要な経験値は違い、吸血鬼は人間の140%必要だ。そして最後は夜の敵が強いこと。吸血鬼もそれなりに強いが、夜限定モンスターなど夜の敵は強化されている。


「付与、スピード」


 ベータ版では避けきれなかった攻撃も付与と吸血鬼の身体能力ならどうにかなった。ブラックラビットの飛び蹴りからの二段ジャンプしてからの飛び蹴りには驚いたが所詮初見殺し、一度目とそう変わりはなく避け切った。


「付与、パワー」


 その所為で大きな隙をを見せているブラックラビットを剣で突き刺し、吸血に入る。抵抗するモンスターに吸血するのはなかなかの背徳感があるが気にしない、飛び蹴りの自滅ダメージも入っていたらしいので問題なく倒せた。次へ行こう。


スライム


 夜であろうとスライムは雑魚、その認識を覆すのは奇襲を受けてからだった。急に二割程度HPが減った、しかし敵は見えない。よく辺りを見渡すとなんとスライムだった。そこで、やっとこのスライムの強さが分かった。このファンタジアでのスライムはゼリー状、アメーバというわけではない割と普通のデザインだが、スライムは透明だった。夜になると、見えない。ただでさえ先ほどのブラックラビットでも見えずらいと感じていたのに、このスライムになると奇襲を受けないのはおそらく難しい。仮に倒しても、分裂されるとさらに厄介だ。そう感じた私は残りの500Kを灯りの購入に費やし、いざ再挑戦!

……テンション上げてみたけど面倒なものはやはり面倒だ。







「聖魔法なら…………このゲームでの吸血鬼は本当に不遇だった」


 もしも、聖魔法を持つのなら魔法で闇を照らせただろう。だが吸血鬼は聖魔法が習得不可、灯りを買わなければ突破はまず不可能。いや、夜目を習得すればいけるか?どっちにしろ灯りもしくは夜目が夜の種族なのに必要なのは悲しいな。無駄思考を切り替えて、今度はスライムの集団に囲まれたときの対処を考えてみる。なんと、灯りはスライムを引き寄せる効果があったのだった。パニックになりたいが私はそういう人間じゃない…………今は吸血鬼だったか、そういう人種じゃないので考えてみる。多分、助かるだけなら灯りを放り投げれば問題ないが、500Kが飛んでく。今は宿代すらないのだからそれはあり得ない。


「付与、パワー 付与、スピード 付与、ディフェンス! 」


 今唱えられる付与術を掛けられるだけ掛けて、スライムを切り刻むしか方法はなさそうだ。逃げ道を塞がれたら一巻の終わり、兎に角常に移動できる場所を確保しながら30分以上スライムと戦った。



 結局ある程度戦って限界を悟り、灯りを投げ一目散に逃走した。多分、スライムのドロップで500Kくらいは稼げているはずなので、元は取れているから大丈夫だろう。




 「合計で1300Kです」


 本当にスライムのドロップが500K程度にしかならなかったのは若干の驚きを私に感じさせたが、その分ブラックラビットとブラックドッグの皮が高く売れたので±0だ。どうやら、スライムは供給過多らしい。市場経済をゲームで再現されても少し困るが、ブラックラビットなどの夜のモンスターが高く売れるなら問題ない。あるとすればポーションが高騰しないか程度、あまり夜をメインに狩る人は少ないだろうし。


 SP6で習得可能な夜目を習得すれば役に立つだろう、その考えのためにレベルを4まで上げるのが今日の目標だ。レベルアップにつきSPは2増えるのでそこにたどり着くために、私は灯りを持ってスライムの大群に朝が来るまで何度も挑んだ。







 朝。いつものように朝食が並ぶ風景。


「兄さん、吸血鬼はどうだった?」


「妹なら投げてたかも」


「そんなにマゾい?」


「夜の狩りがメインなのに夜はスライムが見えない」


「うわっ………」


「解決方法としては夜目の習得または灯りの購入。パーティメンバーがいるなら聖魔法で代用可能。火魔法でもひょっとしたらどうにかなるかも。ただし、不用意に灯りを使うとスライムの大群が押し寄せる。」


「で、どうしたの ?隠密でもとった?」


「隠密…………その手があったか、あー灯りを購入してと夜目と隠密を初期に取ってればスライム相手に無双できたな。」


「兄さんは灯りを買ったみたいだけど、スライムはどうしたの?」


「適度におびき寄せて適度に狩って灯りを投げて逃げてを繰り返した。収支はほぼ±0」


「兄さん…………」


「まあ、夜目ももう習得したし、もうスライム狩りはしないよ。なんか【スライム狩り初心者】とかいう称号も手に入れたし」


ガタっ、と机が揺れたように感じた。


「称号っ!? さすが兄さん。夜目を習得したということはレベル4ってことだし、攻略組に余裕で入れそう。私まだレベル3なのにー」


「どうせ何の効果もなかったから気にしない、それにスライム狩りならレベルが上がれば簡単だし。悔しかったらレベルから追いつくんだな」


 多分今回のログイン時間が終わったら妹はレベル5になっているだろう。私はレベル6だ!  とその後勝ち誇りたいがさすがに限度がある。夜の草原もまだ一部しか探索していない。少しの間は夜の草原探索に費やそう。




 さて本日一回目のログイン。今日の三回分のログインは全て草原探索に費やすつもりだ。取りたいスキルは沢山あるが、残念ながらSPに余裕などない。仲間を募るのもいいが私自身の実力をまだ完璧に把握していない、夜の探索は躊躇われるのもありしばらくはソロだ。なにより、一人が落ち着く。


ブラックドッグ


 名前だけが淡々と表示される、鑑定スキルを取れば分かることも増えるかもしれない。何にせよ今これが限度なら議論することなどない。夜目も利くようになった(とはいえまだLV1なのであまり意味はない)ので、こちらから奇襲――――失敗。相手は鼻が利くから奇襲は無意味だな。見事に避けられた。でも、積極的に行こう。今日は探索予定だから堅実な戦法はやめだ。片手剣は避けられたが頭が残っていたので頭突き――からの吸血っ! なかなか決まると気持ちがいいが、頭突きはこちらもダメージを受けたので自重しよう。通用するのは10レベル程度までだし。いや、逆か? そこから通用しないから今やるべきか? だがその無駄思考は打ち切られる。狼、が私の前に立っていた。咆哮が飛んできて麻痺が私に追加、ハードすぎるだろ。


「付与、パワー 付与、スピード 付与、ディフェンス!」


 幸いにも麻痺は詠唱に影響を与えないようだ。確か、こちらのスピードを25%ダウンだったか。狼はこちらが怯んだのをよしとみて突撃、その牙を突き立てにかかる。躱せないと感じたのでガードに切り替える。盾がないのが残念だがないものはないから仕方がない。牙に当てることは成功したが三割削られる、もう少しで武器がもってかれそうだ。すぐに下腹に蹴りを入れて……持っていかれそうなら手放すか。武器を手放して首を抑えにかかる。抵抗は激しくこっちのHPも減り半分を切るが牙をこちらも突き立てるとHPは減少を止め、ゆるやかに増加しながら八割ほどに回復したところで、狼は倒れた。


「そういやこいつは狼なのか?」


ウルフ


 さっきから勝手に狼と呼んでいたが、名前はウルフだった。どうせ変わらないし鑑定レベルが上がるわけでもないので次のログイン時には忘れていた。





本日二回目のログイン


 一応私は宿に泊まっている、というかそこからじゃないとログアウトできない。正確にいえば神殿でも出来るのだが、冗談でも誇り高き伯爵なのだからちゃんと600K払っている。そして、この出費は痛い。だが、それも序盤だからだ。それにこの出費も夜の狩りへのやる気を出すために必要だと割り切っている。さあ行こうっ!



ブラックラビット


 何回か戦ううちにコツがつかめてきた。ブラックラビットの飛び蹴りには二種類パターンがある。普通に飛び蹴りする時と、空中ジャンプして二回飛び蹴りしてくる時があり、その違いは高さだ。一回だけの方は二回ある法と比べて高さが高い。夜目がレベル3くらいになってやっと分かった事実だ。他のモンスターも良く目を凝らしてみればパターンが分析できるような気もするが、まだレベル3なのでそこまでは無理だ。


 レベル5になった。だから何だであって、新しいスキルを習得できるほどSPがあるわけではない。それにスキルというのは、特定の条件を満たさないと習得できないものも多い。夜目の場合は暗闇を一定時間うろつくだった。私の場合他に投擲なども習得可能だった。というかそんな議論をしたいのではない、私はレベル5になったからもう少し先に進むべきか迷っている。狼との戦闘は二回こなした、どうやってもHPの約二割が吸血で回復しても持っていかれる。倒し方が強引だからだろうか? できればノーダメージで倒したいものだが。そんな私がこの先に待ち受けるだろうもっと強い敵に勝てるだろうか? しかし悩みは無駄になった。


「オオオオ!!」

 

 突然の咆哮に防御姿勢を取るが、それはまったくもって無意味だった。何故なら私ではなく敵、黒狼の攻撃力を上昇させるものだったからだ。噛みつきを迎え撃とうとしたがその勢いを見て不可能だと思ったので転がってみる。が、噛みつきは二連だったようで転がった先にも追撃してくる。えー……


「付与、パワー 付与、スピード 付与、ディフェンス ”ニードル”」


 片手剣のスキルLVが7になったことによって、必殺技のようなアクションが出来るようになった。システム補正に引きずられ、ニードルという突きを繰り出すも、なんとこちらがダメージを喰らって弾き飛ばされた。そのおかげでまさかの三連撃目を避けることができたが、状況はかなりまずい。まず、ニードルの使い方を間違えたんだろう。多分、ニードルは相手の首に一突きするような状況で使うもので、相手の攻撃にぶつけるような技じゃない。ならばあの三連撃を避けニードルで突き刺すだけだ。再び噛みつき、後退して避ける。続いて二撃目、ガード。一割削られる。残りは6割。続いて三連撃目


「”ニードル”」


 三連撃目は避けれる気がしなかったし、ガードしても私が弾かれるように思えてしまった。だから、噛みつきの二連撃と三連撃の隙間を探して、突いた。噛みつきはキャンセルされ、大きな隙が出来ている。吸血してこちらのペースに持ち込み、倒した。



「2600Kです」


 よし、昨日の二倍だ。これでウルフとブラックウルフ一匹分の素材は売っていないから、相当スライムは安かったのだろう。売ってない素材は、プレイヤーに持っていって加工して貰おう。あのブラックウルフの三連撃はまともに受けたらおそらく死亡、全部ガードしても三割程度は持っていかれる。防御力の増加を狙いたい。


「という訳なんだ」


「兄さんに私が麻痺効果を持つウルフ相手に大活躍した話を自慢しようと思ったのに、兄さんはその上のブラックウルフとか……」


「で、大丈夫か?」


「現実での明日6時に一回会わない? ウルフやスライムは昼でも出るから、ブラックが付くモンスターの素材を集めた方がいいと思う。職人の方は私が用意するから」


「ありがとう、妹よ」


「代わりに攻略組に夜の草原を案内して欲しい」


「あー…………一応頑張ってみる」





 本日三回目のログイン。確かに夜しかブラックの名が付くモンスターが出ないから、そっちを優先して集めるべきというのは分かる。ならば兎狩りでもするか。


「”ニードル”」


 ブラックラビットの飛び蹴りをする溜めのタイミングを見切って、ニードルを使うのも少しはこなれてきた十数回目の兎狩り。ニードルを撃ってもHPは二割ほど残るので、そのHPは吸血のレベル上げに使っている。確か、10レベルになるにつきSPが一貰えるらしいので吸血も積極的にレベル上げすべきだ。その後、狩りの対象をブラックドッグに変えた犬狩り? をしてログアウトをした。

ネーム 伯爵 種族 吸血鬼LV4

スキル 吸血LV4 片手剣LV7 付与術LV5 夜目LV3

SP残り1(レベルアップでSPを6入手、その分を夜目に使った)

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