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エピローグ

 ある晴れた日の午後のこと。

 優乃はその日も長袖のドレスに麦藁帽子、日傘にサングラスのお決まりのスタイルで、広大な敷地内に新たに設けられた花畑にいた。

 いつもはふんわりと肩にかかっている髪は、作業の邪魔にならないよう、帽子の中に納められている。最近すっかり涼しくなった風が、汗ばんだうなじを優しく撫でてゆく。花々の合間を縫って軽やかに駆け回り、小さなじょうろで水を撒く彼女の表情には、もう以前のような影はない。

 美しい少女の愛を一身に受けて、こちらも美しく咲き誇っているのは、色鮮やかな秋の花の数々だ。花びらや葉にたまった露が、陽の光を反射して燦然と輝いている。優乃はひとしきり水を撒き終えると、じょうろを所定の位置に戻し、小走りに駆けて花畑を出た。地面に置いてあった篭をひょいと持ち上げ、時折立ち止まって沿道の花を見つめ、気に入ったものを丁寧に摘み取り、篭の中に入れてゆく。

 いつしか花でいっぱいになった篭を片手に店に戻ると、先日設置したばかりの電話が鳴っていた。商売をするのなら必需品だと言って、ローザが手配してくれたのだ。

 だが、自分で電話を受けたことは、まだ一度もない。優乃は篭と日傘を入口近くの棚の上に置くと、一旦奥に入って代わりに出てもらおうとトーマスを捜したが、姿が見えないので覚悟を決めて電話の前に立った。

 ここしばらくの間に、優乃の世界は自分でも驚くほどに広がっていた。ローザや役所の人たち、それに買物に来てくれたお客さん。同じ《風渡る丘》に住む人々に、開店してからは毎日のように遊びにきてくれる近所の元気な子供たち。今まで内側に引きこもっていた目を外に向ければ、そこには予想を遥かに超えた広大な世界が広がっていたのだ。

 ローザさんかしら? また仕事の協力を頼むのかな?

 それともお店のお客さんかしら? 最近は遠くに住む人たちのために、馬車で麓まで迎えに行くサービスを始めたって、トーマスが言ってたけど……。

 ちゃんと喋れるかな? 確か、お店の名前を最初に言うのよね。ローザさんと一緒に考えてつけた、私のお店の名前……。

 優乃はフッと微笑むと、受話器を取り、一呼吸おいて元気良く言った。


「はい! こちらフラワーショップ《月見草》です!」



                                −END−

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