表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

大国様シリーズ

大国様が本気で義父を攻略するようです・十六

作者: 八島えく

注意:このお話は、男性同士・義父と息子同士の恋愛描写が含まれております。閲覧の際はご注意ください。また、こういったお話が苦手な方は、ブラウザバックをおすすめします。

 街を歩いていると、あっという間に時間が過ぎる。家族へのお土産はどうしようとか、他に足を運んでみたい場所はあったかとか、そういう他愛もないことを大国と相談していると、時間の流れが早く感じられる。楽しいことはすぐに過ぎ去るからってのは本当らしい。

 今回訪れた温泉街で、行くべきところは行き尽くした。あとは新幹線の時間になるまで、話をしたり買い物したりして時間を潰すだけ。

 新幹線に乗る時間まではまだ余裕がある。でも不思議と退屈じゃない。いやむしろ刻一刻と迫っている感覚さえ覚える。

 隣の大国と一緒にいる時間を、少しでも長く感じていたい。時間が止まってくれたら、もっとたくさん味わえたんだろうか。


「お昼にしますか、お義父さん」

「え、ああ……もうそんな時間だったか」

「長く買い物をしていましたから、気づかないのも無理はありません。近くの店で、昼食がてら、少しお休みしましょう」

 さあ、と大国が当たり前のように手を差し伸べる。俺も当たり前のように手を取って、当たり前のように荷物を肩代わりしてやる。

 たまたま見つけた喫茶店に入る。なりは小さな店で、テーブルは10席くらい。メニュー表には定番の洋食が並んでる。うちの息子と同じくらいの兄ちゃんが店を一人で回しているみたい(実際の年齢じゃなく見た目の年齢って意味で。息子も相当長く生きているけど、外見は20をようやく過ぎたくらいの若さだったりする)。と思ったら、小さい女の子がてってってっとこっちまで水を運んできてくれた。


 荷物を席に置いて、何を食べるか悩んだり、決めたらメシが運ばれてくるのを楽しみにしたり。

 昔、姉や兄と一緒に外食に行ったことがあるけど、こんなふうに待つ時間を楽しむということはなかった気がする。腹が減りすぎてそれどころじゃなかったからかもしれない。

 手持無沙汰になって水を飲んで、ちらーっと大国を見ると、完璧な微笑でもって俺を見つめ返す。何か負けた気がするので布巾で手遊びをしていた。それに気づいた大国が、やり方を教えて下さいって聞いて来た。退屈しのぎに教えてやった。手先が器用なのか、綺麗に兎を作ってた。羨ましい。


 テーブルに運ばれた食い物からはいい匂いが漂い、湯気が立っている。空腹も手伝って、料理を口に運ぶと一気に幸せな気分になれる。がっついたりしないように気をつけて、なるべく行儀よく食べる。目の前の大国がいるから、子供みてーな態度とって呆れられたりおかしそうに笑われたら生きていけない。義理の息子に微笑ましがられるなんてもってのほか。ここは義父らしく威厳くらいはないとな。


 ――とか思ってるけど。

 思った以上に腹が減ってた俺は、無意識にがつがつしてたらしい。ふと前をみやると、おかしそうに微笑む大国が座ってる。

「あんだよ」

「いえ、美味しそうに召し上がるなあと」

「実際美味いからな。……ガキっぽいと思ったか」

「まさか。可愛らしいとは思いましたが」

 聞くんじゃなかった。


 義父の矜持として昼飯代は俺がふたりぶん支払った。困ったように首をかしげる大国を見て、ざまあみろと思ってしまう。悪い義父だなとは自覚しつつ、止まらないんだから仕方がない。仕方がないのだ。


 昼を食べ終わったら、たまたま通りがかった神社に足を踏み入れる。ふたりして挨拶にお参りしたら、腰のまがったじいさんが出迎えてくれた。また来てくれと、手土産にみかんを受け取った。新幹線で食べることにした。


 まだ足りないかもしれない、足りなくなるかもしれない、という妙な不安が立ちこめ、俺と大国は抱えきれなくなるってくらいにお土産を買いまくった。食べものはもちろん、嫁や姉には髪飾り、兄には手ぬぐいとか猫飯とか(兄はみたらし団子の色した猫を飼っている)、出雲の子供達には着物がいいだろうか、とか何とか考えては買い込んでしまう。さすがに俺ひとりじゃ持ちきれなくなって、できるだけ軽い荷物を大国に持ってもらう。


「ははは……買いすぎましたかね」

「うん、俺もそう思う……」

 旅行から帰って夜を明かしたら、ふたり仲良く筋肉痛だなこりゃ。

「明日、くたくたになっているんでしょうか」

「なるだろうなあ……。俺と大国で、昼まで寝てて、クシナダとスセリに呆れられて、起きなさいーって怒られるんだよ」

「ふふ……それはそれで楽しそうですね。ずっと寝ているなんて、経験ありませんから」

「一度やるとやみつきになるぞ。試してみたらどうだ?」

「そうですね、この旅行から帰ったら、早速。お義父さんもご一緒に」

「しょうがねーな。付き合ってやる」

「ありがとうございます」


 買い物をしてたらちょうどよく時間がつぶれた。後は新幹線に乗って、終点を目指すだけ。

 夕方の駅は人でごった返している。俺は荷物を器用に担いで、空いた手で大国の手を引いてやる。

「おっと、っと……」

「はぐれたらかなわん。ホーム、あっちだっけ?」

「ええ、そちらです」

「……あんだよ、変な顔して」

「いえ、お義父さんから手を繋いでいただくとは思いませんでしたので」

「嫌なら離すぞ」

「とんでもない。ずっとこうして頂きたいくらいです」

「……。あっそ」

 腹いせに強く握り締めて、ずかずかホームへ向かってやる。


 目的の新幹線がちょうどホームに着いていた。切符で席を確認して、一緒に乗り込む。

 荷物をおろして座席にどっかり座ると、一気にどっと疲れが出てきたみたいだ。肩がいてえ。

 となりに座る大国は肩を揉みながら深く息を吐く。こいつも相当疲れてたらしい。

 ほどなくして、新幹線が発射した。社内で販売してた弁当を買って、大国に一つ渡す。

 すぐに弁当は空になった。思った以上に腹が減っていたらしい。飯を食ったあとは席に全身預けてのんびりしていた。


 肩に、大国の頭が乗っかって来る。

「……大国?」

 試しにそーっと呼んでみるけど、答える気配はない。寝てる。気持ちよさそうな寝顔してて、ちょっとむずがゆくなってしまった。

 肩に乗っかる重みは気にするほどじゃない。起きるまで肩を貸していてやろう。義父らしいことがまた一つできて満足する。


 ――と、一人得意げになるのもつかの間、さすがの俺にも眠気はやってきた。

 くたくたになるまで歩いたし、温泉に浸かることもできたし、大国へのお土産もちゃんと買えたし、いい日だった。


 どうせ終点まで行かなきゃらならないのだ。寝ていたって問題はない。


「また行こう、大国」

 どうせ聞こえてないんだ。こういうときくらい素直になってやってもいいだろう。あいつの目が覚めてる状態だったら絶対にやらないけど。

 ちらーっと横をうかがうと、頷いたみたいに大国の頭が少しだけ揺れた。新幹線の振動で揺れただけか? と思ったがそうじゃない。


 だって、大国の手が、俺の手をいつの間にか握ってたんだから。

(こいつ、狸寝入りだけは達人だよな……)

 今の俺は眠くて体に力が入らない。本来ならそのやわい手を握りつぶしてやるところだが、今回は勘弁してやる。ありがたく思え馬鹿息子。


 今度、旅行にいくときは、お前が全部用意するんだからな。荷物持ちくらいはしてやるが、切符の手配とか宿の予約とか、観光地めぐりとかそういう難しいことは任せる。


 そしたら、まあ……いつだって付き合ってやらんでもない。

 

 そんなことを考えながら、俺も終点まで眠ることにした。

温泉に思いを馳せた結果、私の代わりにスサノオと大国様に温泉旅行してもらおうと思ってできたお話も、今回でひと段落しました。本当は続き物の予定はなかったのですが、意外と長く続いた不思議。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ