1-5
月曜日。一週間の始まり。
また五日も学校に行かないといけないのかという憂鬱な気分になりながらも、仕方なく足を半ば機械的に前に進ます。
徒歩十五分の道のり。
学校まで行ってしまえば、諦めもつく。そこまでの辛抱だ。
少し歩いた所、いつも舞方と別れる分かれ道。そこには、やはりというか案の定というか、金曜日と同じく舞方が立っていた。
なんとなくいるだろうなという予感はしていたので、特に驚く事もなく立ち止まる事もせず普通に舞方の前を通り過ぎる。
そんな俺の様子に、舞方も特に気にした風もなく普通に横に並ぶ。
これから毎日あそこで待つのか、それとも今日も特別なのか、どちらにしても、今日もなんらかの話がある事は確かだろう。
「あの後、香奈枝さんと色々話してみたの」
思った通り、舞方は話を始める。視線は前を向いたまま、俺の方を一瞥もせず。
「……」
俺は敢えて相槌は打たず、その先の言葉を待つ。
「話し始めたら、拍子抜けするくらい簡単に色々な言葉が口を出たわ。それこそ、今まであんなに壁を作ってたのが、馬鹿らしくなるくらい」
「そうか。良かったな」
それでこそ、余計な世話を焼いた甲斐があったというものだ。
「……ありがとう、色々」
呟くように小さな声。だけど、その声はしっかりと俺の耳に届いた。
「友達が困ってたら助けるのは当たり前だろ?」
「友達、ね……」
舞方は俺の言葉のどこかに引っ掛かりを覚えたらしく、僅かに口元を歪めた。
「それはそうと、香奈枝さんから聞いたんだけど、笠井君今付き合ってる人いないんだって?」
話題が急に飛ぶ。戸惑いながらも、俺は舞方の問いに頷きを返す。
「ああ……。そんなのいたら、おそらくここまでお前と一緒にいたりはしないだろう。変な誤解を受けかねないし。それ以前に俺はモテない」
自信を持って言う事ではないと思うが、事実なのでここははっきり言わせてもらう。
「……そう」
舞方が突然立ち止まる。
それに釣られて、俺も足を止めた。
視線が交差する。真っ直ぐ俺を見つめる舞方の瞳に魅入られ、目だけでなく他の箇所までも動かせない。
「どうし――」
「笠井君。私、あなたの事好きよ」
絞り出すように出した俺の言葉は、舞方の凛とした声によって遮られた。
「……え?」
不意に告げられた衝撃的な台詞に、思考がうまく纏まらない。
なんだろう、この状況。まさか、俺は告白されたのか。それにしては、ひどくあっさりした物言いだった気もするが……。
「答えは、別にいつでもいいわ。ただ、私の気持ちを伝えただけだから」
そう言うと舞方は、何事もなかったかのようにさっさと歩き出す。
そして、取り残される俺。
呆気に取られるとはまさにこの事だ。
「……」
「何してるの? 早く学校行きましょう?」
振り返って俺を呼ぶ舞方。
その表情はいつも通りの無表情で、本当に何事もなかったような対応ぶりだった。
あまりの普通ぶりに、実はさっきの出来事は白昼夢か何かだったのではないかとすら思ってしまう。
「……ああ」
返事をし、舞方の元に行く。
多分、俺と舞方が付き合う事になったとしても、今の二人の関係はなんら揺るがない気がする。いい意味で、二人のペースは変わらない気がする。
……ま、そんな事を想像している時点で、俺の舞方への返事は決まってしまっているようなものだけど。