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38万4403kmの恋

作者: 砥和 浩

 君はこの暗い空を輝かせる月。そして私は都会の喧騒に埋もれて生きるスッポン。君は夜空からみんなを照らす。私は泥沼から君を見上げる。私は君に憧れ目指す。哀しみに討たれる。だけど私は幸せに満たされる。欠けることがない満月のように。


 そこで彼女の詩は途切れる。ヘッドフォンから聞こえていた優しい彼女の声は僕の耳に残留していた。

「どう?こういうの好きでしょ?」

「うーん。別に好きではないな。どちらかというと普通だな」

「ふーん、そう……」

少し間が空く。

「来月末に月にいくんだ」

彼女はどこか旅行に出かける感じの軽い気持ちでのべる。いや…20年、30年前に比べて宇宙は身近になったのだろう。

「どれくらい滞在するの?」

「三ヶ月ぐらいだろうって言っていたよ」

結構長く留まるみたいだ。最大で三ヶ月強。平均的には一ヶ月と聞いたことがある。

「結構長いね。やっぱり太平洋軌道エレベーターでいくのか?」

太平洋軌道エレベーター。宇宙への架け橋。固体ロケットは無用になり費用もかなり安くなった。だが地上から静止ステーションへ行くための所要時間が約一週間もかかる。

「そうだよ。静止ステーションで何日間か滞在してそれからアンカーから出発だってさ」

「ふーん」

大抵の人は静止ステーションで宇宙また月へ出るための種々の訓練を受けてから、それからアンカーから宇宙船に乗り込み出発という流れなのだ。

「もうこんな時間!もう切るね」

「うん。バイバイ」

そしてヘッドフォンから聞こえていた優しい彼女の声は僕の中に残留していた。



 「お知らせいたします。当機は月面基地行きです。まもなく出航します。お立ちのお客様は座席にお座りください」

アメリカ人の機長が冗談のつもりか旅客機のアナウンスを真似た口調でアナウンスする。しかし誰も笑わない。嫌な空気が漂っている。なにげなく窓の外を眺めてみると月が見えていた。漠然とキレイだと私は思った。なにがそんなにキレイなのだろうと少し考える。月の表面は大小の岩石や細かい砂で覆われている。つまり月は大きな石だ。宝石みたいにキラキラ光ることもなく、ただ太陽光を反射して光っているだけなのだ。だが大半の人々は『月は綺麗か?』と尋ねたらキレイだと答えてくれるだろう。

それならば月に居る彼はこの景色を見たらどう思うのだろうか。



天窓からシャトルが見えその向こうに地球が見えている。僕は地球に住んだことがない。また地球に行ったこともない。地球の海の青さも知らない。遠いここからの青い地球とネットを通じてくる彼女の言葉で幻視することしか出来ない。その彼女はあのシャトルに乗っているだろう。ここから見る青く美しい地球を彼女はどのように感じるのだろう。


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