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SILVER  作者: finale
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A GIFTED FIRST GRADER

「だから、ここの指はここじゃなくてここだっつーの!! 何度言やぁ分かるんだよ!!」

「痛い痛い痛い、指つる、指つる!」

 ちなみに、この衣笠先輩と部長さんのやりとりはフルートの指使いを教えてるところ。部長さんは開始一分後に早くも頭部管を卒業して、指使いに移っていた。

 そうなってくると、フルートの適性は、どうやら部長さんの方が私より上だったみたいだ。うん、泣ける。

「え、何、フルートって普段こんなキツい指使いしてんの!?」

「そーだよ、軽いからって楽できていいなとか思うなよ大間違いだ! 実はチューバと同じくらい息使うんだよ知らなかっただろバーカ! 分かったかパーカス!」

<吹部あるある★☆☆フルートだからと言って楽できる訳ではない(フルートパート談)>

 衣笠先輩の鼻息荒い楽器説明にちょっと笑ったその時、

「みどり先輩っ、この子凄いですフルート習ってたそうです!」

 という、悲鳴にも似た大橋先輩の声が聞こえてきた。誰のことだろうと思って振り返ったら、さっきの背の順一番前の三組男子だった。

 え、この人前からフルート吹けたの?

「どれ! ちょっと君、どれくらいフルートやってたの?」

「……小学校入学直前くらいからです」

「うわぁ長ぁ! ちょ、吹いてみてよ!!」

「先輩、この子ビブラートも運指もわたしよりうまいんですよおぉ」

 再び三組男子君の音を聴くことになって、大橋先輩がふにゃふにゃした声を出す。そんなに凄かったのかな。

「なんでもいいから、さ!」

 先輩二人に囲まれて、三組男子君は露骨に嫌な顔しつつも少し考えた後で、スッ、とフルートを構えた。うわ、キレイな構え。

 そして、フーッという、微かな息を吸う音。

 深い息継ぎの後、そのフルートから流れてきたのは何処かで訊いたことがある曲だった。すごく親しみのある曲だ、絶対聞いたことある。なんだっけ。

「――――パッヘルベルの、カノン」

 部長さんが、小さく呟いた。

 ――そうだ、カノンだ。元はバイオリンか何かで演奏されてた気がする。小学校の卒業式で流れてた。

 そう、そうだ。思い出した。確かこの後に、すごく速いとこがあったような。

 そう思っていたら、記憶通りに速い部分に差し掛かった。三組男子君は大きくかつ素早く息を吸い直し、すらすらと連符の続くところを吹いていった。

 みどり先輩や大橋先輩、一年生や部長さん、更にはさっきまでふざけていた衣笠先輩まで、教室中の皆が彼の演奏に釘付けにされている。

 さらに曲は進んでいく。速い動きの後は、まるで歌っているかのような伸びやかなメロディーが続いていく。

 そして、終局。ゆっくり、ゆっくりテンポが落ちていって、最後には消えるように音が無くなった。いつ無くなったのか、気づかなかった位。

「――お、おぉ……」

 辺りからは、なんと言葉にしたらいいのか分からない、みたいな、不思議な雰囲気が漂っている。

 と、ふいにどこからか、

 パン、パン、パン、パン、

 という、スローテンポな拍手が聞こえてきた。周りを見渡しても、拍手している人は一人もいない。

「いやぁ、なかなか良かったね今の。君、銀杏(いちょう)君っていったっけ」

 いきなり外から声が聞こえると思ったら、モモキ先生が教室と廊下の間の壁にもたれ掛かるようにして立っていた。

 ってか、そっか。この人、銀杏君か。……変な名前、って思ったのは黙っておく。

「でも、まだ足りないところも沢山あるね。希望とか旅立ちとか、そういうのが見えるっていうのが、この曲の良さだと俺は思ってるんだけどもね。そこら辺は、特に大橋さんが上手いから参考に教えて貰いなさい。――ところで、肝心なこと聞き忘れてたけど君、入部するの?」

 「入部するの?」の後で、顔という顔がザッと銀杏君に向けられる。当の銀杏君は、大して気にも留めてないみたいだけど。何故か漂う大物感。

「あ、はい、一応」

 銀杏君の答えに三年生二人、ガッツポーズ。大橋先輩、複雑な顔。そりゃそうだ、これからフルートに入ろうと思ってる私だって、複雑な顔してるし。なんなんだこいつは……。

<吹部あるある★★☆たまに入部する時点でもう天才的に上手い奴がいる>

「――ところで皆、忘れてると思うけどそろそろ時間なんだけどな。もうほかのグループとパート音楽室戻ってきてるんだよね」

 今度は、二三年生の顔がザッとモモキ先生の方に向けられた。

<吹部あるある★☆☆仮入部のタイムリミットは、故意か否か結構忘れられる>

「……片付け……するか」

 ボソッと呟かれた衣笠先輩の一言で皆我に返ったのか、そこから皆慌ただしく動き始めた。

「一年生は僕に付いてきて! 階段あがるよ! 楽器はそのまま置いてきてねー!」

「おい水無月、お前には後できっちり後片付けまでやってもらうからな!」

階段を一段飛ばしで駆け上がりながら、私はこれから大丈夫なのか少し不安になった。


 

速い「部分」、速い「ところ」、と、亜紀ちゃんのいかにも初心者~な感じを出すために「パッセージ」という単語を使えなくて、こちらとしては結構辛かったです。オリエンテーションの時に部長さんが叩き合わせた「ドラムのバチ」も「スティック」と書けなくて、こちらも結構もやもやしました(笑)


パッヘルベル作曲 カノン

https://www.youtube.com/watch?v=MOBYK_reo-4&feature=youtube_gdata_player


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