A FLUTE PART'S SENIORS
「えっと、まず最初は何処に行きたい?」
部長さんが、私達に訊いた。皆、ちょっと迷ってる。
よし、今のうちだ。
「あ、あたし、フルート行きたいですフルート!」
「ああ、フルート? そうだね、行ってみようか」
部長さんが、勢い良く挙げた私の手に反応する。
「よっしゃー!」
「俺も、フルートで」
女子力低い私のガッツポーズの横で、一人の男子が小さく呟いた。確か、三組の子だったような……。前へ倣えで一番前だったから覚えてる。名前は……なんだったっけ。いいや。
「よし、フルート行こうか。階段降りるよ」
階段を降りている途中で、部長さんに話し掛けてみた。
「ちゃんと喋れたんですね」
ああ、と返事をして、部長さんは頭を掻いた。
「流石にちゃんと喋れるよ。ただ、皆の前に立つと、どうしても上がっちゃって。楽器弾いたり叩いたりしてるときは大丈夫なんだけどなぁ……」
変な話だよね、と部長さんはまた頭を掻いた。
「ここが普段フルートが練習してる教室ね」
音楽室がある最上階の四階から降りてきたのは、二階の三年一組の教室だ。一階は職員室関係の階だから、自然と練習出来る場所はここから上になるのだそうだ。
「若草さん? 仮入部来「来たぁぁーー!! 生成、桜ちゃん、仮入部来た!!」ちょ、若草さんやめて、肩揺すらないで乗り物酔いになるっ」
び、びっくりした……。「来たぁぁー!!」って三年生の……若草先輩? の声で、一年生全員の肩がびくりと動いた。フルートって、清楚な人達しかいないもんだと思ってた……。
<吹部あるある★★★清楚だと思っていたフルートパート>
「うぅ、気持ち悪……えっと、この三人が、フルートパートの先輩達です」
「じゃあまずはあたしから。あたしはみどり。若草みどりっていうの。パートリーダーやってんだ、よろしくね。ほら次、あんた」
私達に向かって爽やかな微笑みを披露した若草先輩が、隣に立っている三年生男子の脇腹を小突いた。小突いたっていうか、殴った。若干怖い。
「痛ぇよ!!」
「ほら、早く」
三年生男子の先輩は、納得いかないような顔をしながら、自己紹介をはじめた。
「オレは衣笠生成っていいます。隣のこいつに対抗出来る人種募集です痛い痛い痛い!! 腕捻るな!!」
なんか、この人もオラオラ系だ。私のフルートパートに対するイメージって一体……。
<吹部あるある★★★「私のフルートパートに対するイメージって一体……」>
次に挨拶したのは、丸眼鏡に三つ編みの、ほんわかした雰囲気を醸し出している人だった。
「一年生の皆様、こんにちは。わたし、ピッコロを担当させていただいてます、二年の大橋桜と申します。皆様、宜しくお願い致します」
優しそうな物腰で挨拶を終えた大橋先輩は、にこりと微笑んだ。ああ、やっと私のイメージ通りの先輩がいたよ。
<吹部あるある★☆☆逆に清楚な部員がいることが驚き>
「それじゃ、僕は横で待ってるから、楽器体験始めて」
そう言うと、部長さんはなにやら小太鼓のバチを取り出して、パタパタと虚空で動かし始めた。何やってんのこの先輩。
<吹部あるある★★☆パーカッションの手首慣らしの動きは、知らない人が端から見たら正直意味不明>
取りあえず、これからフルートが吹けるんだよね。私にもちゃんと吹けるのかな、大丈夫なんだろうか。やってみるしかないんだけど、さ。