WELCOME PARTY
「男子バスケット、ありがとうございました。えー、次の発表は、吹奏楽部です」
生徒会の先輩の司会で、吹奏楽部員さん達が体育館前方のステージに上る。パラパラと、ティーン特有のやる気のない拍手が鳴った。
私、赤城亜希も拍手を送る。でも、他の生徒と違って、ドラマーもびっくりのめっちゃ過激な拍手だ。やっと、初めて、自分が入ろうと考えている部活の演奏を聴くことができる。そう思うと、自然にそうなった。隣のサッカー男子からくる視線がぶすぶす突き刺さってるけど、気にしない。
程無くして、部長さんと副部長さんがステージの前に出てきた。
「こんにちはーっ!」
ふたりが合図をすると、
「「すいそうがくぶでぇぇえす!」」
部員さん達全員が叫んだ。凄まじい音量。
とにかく、強すぎる個性と大きすぎる声に、本日の主役である一年生を筆頭にして、全校生徒&教師、唖然。
<吹部あるある★★★部活紹介の時の吹部のハイテンションに観客がドン引く>
二人のうちの片方が、マイクを持ち直す。
「う、えっと、あ、あぁぁあつは夏いなぁ!」
「うん、ごめん部長、何が言いたいのかな?」
こっち部長さんだったのか。テンパりすぎっしょ。あ、ちなみに、両方とも男だった。
「あ、はは、だよねぇー!じゃあここらで来年の天気予報を……」
「うん、ごめん部長、テンパりすぎ。ってか、明日ならまだしも、来年?できんの?」
「来年は……えっと、曇りのち晴れ、気温16度です!」
「言ったね?本当だな?会場の皆さん、覚えといてくださいね、来年の今日、4月19日ですよー!」
おお、副部長さん容赦ないなぁ。
「すみませんね、うちの部長あがり症なもんで。もう部活替えろって感じですよねー。あ、ごめん部長嘘。いじけないで。えー、活動報告ですが、我が夕日ヶ丘中学校吹奏楽部は、昨年夏の県大会で、銅賞をいただきました」
おぉぉー、というざわめきが広がる。私の心境も「おぉぉー」だ。
銅賞、ってことは県内3位か。すごい。
<吹部あるある★★★銅賞=「三位かぁ! 凄いね!」の誤解>
「あとは地域の行事などにも、ちょこちょこと参加させていただいております」
そこで、さすがに一人でしゃべりすぎたと思ったのか、副部長さんは部長さんにマイクを手渡した。
「はい、えー、そっ、そそっそ、そそそそろそろ準備も終わったようです、ハイ」
「何回『そ』で噛むの。もう無理耐えられない、ちょっとマイク貸して」
貸す、っていうか奪い取る、って言い方が正しいと思わせるくらい、副部長さんはさらっと司会の座を乗っ取った。
「今回発表する曲は、新入生歓迎会ということで、『学園天国』です。みなさん、手拍子をしながらお楽しみください」
副部長さんが曲紹介を手短に終えて、自分の持ち場に戻る。部長さんも慌ててあとに続く。
この人、大丈夫か?そんなことをぼんやり考えていると、部長さんがドラムのバチを叩き合わせながら、「one,two,one two three four!」と叫んだ。曲が始まる合図だったみたい。っていうか部長さん、発音良いなぁ。
打楽器の人たちが「Are you ready!?」と叫ぶ。ノリいいなぁ。
<吹部あるある★★☆打楽器パートは一度スティックやマレットを持つと豹変する>
まぁ、それに「Yeah!!」って返す一年生もなかなかノリいいんだけど。
そこからはもう本当にすごかった。部員さんたちも観客(?)もみんなノリノリ。言われなくても手拍子。すごいなぁさすが県3位、って感じだ。
考える隙すら与えないような疾走感で演奏が終わった。
「「ありがとうございましたぁー!」」
部員さんたち、再び個性発揮。「「ぜひぜひ吹部カモン!」」っていう、変な勧誘もセットだったんだけど。
楽しそうな顔をしながら舞台を降りていく部員さん達。下りる途中で色々ものを落として慌ててる部長さんに仕方なさそうに付きあう副部長さん。そして、さっきの演奏。一つ一つ考えてみて、決めた。
――うん、やっぱ、吹奏楽部入ろ。
銅賞=県3位?
違うんだなぁーこれが。
実は、吹奏楽部(吹部)にとって、そこを突かれるのは非常に痛いことなのです。
まぁ、詳細は近いうちに。