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ロマンチスト×リアリスト

作者: 綾月 奏

 ――桜の木の下には、死体が埋まっている。

 あの、妖しい美しさは、人の血を養分にしているから……。


 なんて。

 そんなこと言ったって。


 あの薄桃色の色素に、ヘモグロビンは成り得ないと思うんだけど。

 大体、『妖しい美しさ』なんて主観的過ぎて、お話にもならない。

 ていうか死体遺棄だし。犯罪だよ。日本中の桜の下に死体が埋まってたら大変だよ?


「もぅ。相変わらずゆうちゃんはリアリストだなぁ……」


 私の手首を掴んで前を歩く翔輝(ショウキ)が、溜め息をつく。


「あ! じゃあ、これは? 小学校の裏手の丘の上におっきい桜の木があるでしょ? 満開の花の下で告白して付き合えたら、永遠に結ばれる運命なんだって!」


「それってなんか変だよ」


 思わず即答してしまった。


 だって、告白してOK貰ったってことは、両想いだったんでしょう? そりゃ結ばれる(?)でしょ。

 告白に至るまでに色々頑張るんだろうに、そこを“運命”なんて、自分たちの預かり知らぬ所で初めから決まってたみたいな言い方は間違ってる気がする。

 大体“永遠に”って……、命は有限なのに。破綻してるし。


「もー! ゆうちゃんがそういう性格なのは知ってるけどさ……」


 言いながら拗ねた様子で口を尖らせる。

 そんな可愛くしても私の考えは変わらないからね? 「変だ」って言っちゃったのは失言だって認めるけど……。


 翔輝は「乙女か!」っていうくらい、ロマンチックな話が好き。“そして王子様とお姫様は、永遠に幸せに暮らしました。”で泣ける人なんて初めて見た。

 一方私はあんまり好きじゃない。“運命”とか“永遠に”とか、努力や能力を無視した言いぐさが納得いかない。


 お互い解ってるのに、なんでわざわざ言ってくるかなキミは。


 手を引かれて歩く道は、さっきから上り坂になっていて、息があがってきた。

 でも、拗ねながらどんどん歩く翔輝が、私の手首を掴む手に力をいれてくるから、引かれるがままに早足で歩く。


 初めに行き先を聞いた時は「良いとこ!」としか答えてくれなかったけど、さっきの話で気づいてしまった。

 小学校とは別の方向から来てるけど。この坂を登った先には……。


「ゆうちゃん、目、閉じて」


 前を歩いていた翔輝が突然振り返った。さっきまで拗ねていたのが嘘みたいに嬉しそうに。


「へ?」


「良いから目、閉じて。驚かせたいから!」


「ぅひゃ!」


 後ろにまわって、両手で目隠しをされた。


「自分で閉じてるから、手は離して〜!」


 これじゃ歩けないからと言うと、アッサリ手を離してくれた。

 行き先なんて、もう判っちゃったんだけどな。

 そうは思いつつも、素直に目を閉じる。一瞬、にーっこりと微笑む翔輝の顔が見えた。



◇◆◇◆◇



「ゆうちゃん、もう目を開けて良いよ」


 それから少しだけ歩いて、どうやら目的地に着いたらしい。


 そっと目を開けるとそこは。


「わぁ! 綺麗……!」


 予想通り、丘の上にある桜の木の下。だけど、満開の花の綺麗さには、完全に予想を裏切られて。

 上を見つめて惚けていると、翔輝に正面から両手を握られた。


「ゆうちゃん!」


 真剣な声の翔輝と目が合う。


「ゆうちゃん……唯花(ユイカ)さん。好きです。ずっと大好きです。ずっと、隣に居ても良いですか?」


 …………はい?


「ねぇ……翔輝?」


「なぁに? ゆうちゃん」


「私たち、既に付き合ってるよね?」


 去年の今頃から。

 私、告白された記憶があるよ?


「うん。だけど、だって言いたかったんだもん。これからもずっと、僕と一緒にいて下さい。」


 そんな可愛く首を傾げられても。

 にっこり笑う翔輝に、架空の耳と尻尾が見える気がする。

 翔輝って、ゴールデンレトリバーに似てるなぁ……なんて、関係ないことで現実逃避を試みる。

 だけど完全に無駄で。

 私いま、絶対に真っ赤だ。改めて言われると恥ずかしすぎる。

 絶句する私に翔輝が続けた。


「あのね。さっき、つい言っちゃったから気付いてると思うけど……ここで告白して付き合い始めると、永遠に結ばれるんだって。ゆうちゃんがそういうの好きじゃないのは解ってるけど、でもやっぱり僕は好きだし……」


 だんだん声が小さくなって、俯いていく翔輝。

 反対に私の手を握る力は強くなってくるから、そっと握り返すと、翔輝はまた顔を上げた。


「それにゆうちゃんが何と言おうと、僕とゆうちゃんが出会ったのは運命だって思ってる」


 翔輝は「だから、えっと……ホントはもっと格好良く言うつもりだったんだけど」とかもごもご言いながら、私の手を離して、上着のポケットから、小さな箱を取り出した。


「僕と結婚して下さい」


 箱の中には、銀色の指輪。


 なんで。

 なんで翔輝は、恥ずかしい台詞も簡単に言えちゃうんだろう。


「ねぇ、そんな事を言う為だけに、私をここまで連れてきたの?」


 私の言葉に、翔輝の顔が曇る。

 違うの。そうじゃなくて。あんまりにも翔輝らしくて。

 いつもの私なら、シチュエーションと結果は無関係だから無駄だって言うところなんだけど。ロマンチックな場所じゃなくたって、例えばリビングでも、車の中でも、答えは同じだって言うんだけど。

 翔輝がここに、永遠に結ばれるという場所に、私を連れてきてくれたということが、翔輝の最大限の愛情を表しているって解るから。

 嬉しくて、涙が出そう。翔輝ににっこりと笑いかけた。


「バカだなぁ……。こんな所まで来なくても、答えは変わらないのに。……私も、大好きだよ。ずっと一緒に居たい」


 私の答えに嬉しそうに微笑む翔輝。やっぱりゴールデンレトリバーみたいだなんて一瞬思った。

 涙が出そうで俯くとギュッと抱きしめられて、余計に涙が溢れた。



◇◆◇◆◇



山桜の花言葉は

「あなたに微笑む」


 ねぇ翔輝。


 根拠はないけど私、“運命”も“永遠”も信じられる気がするよ。

 翔輝が私に笑いかけてくれる限り。



end×××



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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読させて頂きました。 ほんのりと心が温まる感じで、良い作品でした。 段落あけ、三点リーダー、ダッシュなどの使い方もちゃんとしていて、読みやすかったです。 通りすがりの者です。あまりお気に…
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