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深夜 ファミレスにて

深夜のファミレスの客は全員顔なじみだった。 ナミキ リョウはウェイトレスの案内を待たずに毎度同じのテーブルに腰を下ろした。

携帯の画面を睨みながらウェイトレスが近づいて来る気配を察知するとリョウはぶっきらぼうに言った。

「いつもの」

ウェイトレスは馬鹿に声を高らかにして「かしこまりー!」と答えるとその場で大袈裟にターンし、厨房の方に去って行った。

 リョウは店内の常連の確認した。このファミレスに一番出現率が高い奴らがいた。

トイレのすぐ横、一番奥に座ってテーブルに新聞とニ台のノートPCを置いて、両方を忙しなく見てるのは情報収集が趣味の男。

 とにかく何度見かけてもこの男が今見ている光景以外のことをしている所をリョウは見たことが無かった。

リョウは一度名前を尋ねていたがそいつが言うには。

「僕に名前は必要無い、必要なのはネットのIDと情報のソース、それと僕が調べたという事実だけ。 だから何か知りたい事があるなら直接僕の所に来い」

だそうだ、リョウは何度か仕事の関係でそいつと会話していたが、関係は当初と変わらず必要最低限の会話のみ。リョウはいつしかその男のことを「ムクチ」と呼ぶようになっていた。

 ムクチはマウスと新聞を手に持って、眼鏡の奥からの視線で焼き尽くす様かの様にそこから情報を集めているようだった。

続いてリョウの目に止まったのはこれも常連の客、キヨウだ。

このキヨウというのもリョウが勝手に付けたあだ名だった。

 キヨウはカウンター席に一人で座って、ウェイトレスの女の子になにか懇願している。 両手を合わせて何度も頭を下げてはカウンターにあるモノを指差してはウェイトレスに頼み込む。カウンターにはマッチで、作られた。タワーがあった。 それはなかなか上手く組み立てられていてリョウが遠めから見るだけでも長時間掛けて作成したのが分かる程だ。

キヨウのしつこさに負けたウェイトレスが頷くとキヨウはガッツポーズしてウェイトレスに握手を求めた。キヨウの興奮した姿にウェイトレスは呆気に取られされるがままに腕をぶんぶんと振られる。

キヨウは席から下りて、ウェイトレスに対して手の先をマッチのタワーに向け「どうぞ」という具合に促した。

ウェイトレスはまた頷くとキヨウに何か言っている、それに対してキヨウは何度も首を縦に振った。

ウェイトレスがマッチのタワーに向き合うと持っていたトレーを振り上げる、キヨウがリョウの席にまで聞こえる程の大声を出した。

「思いっ切りね!力いっぱいだよ!」

ウェイトレスは振り上げたままキヨウを見ると、そのまま上からトレーでマッチのタワーを叩きつけた。

店内に騒音がするがそれ以上にその騒音と同時に発っせられたキヨウの声がリョウの耳には残った。

 キヨウは快感の喘ぎの様な声を出してそのまま床に崩れ落ちた。 その声の官能的な響きにリョウはエロスを感じ取っていた。

キヨウは若い女性だった。しばらくぺたんと座りこんだまま動かなかったが、ウェイトレスが散乱したマッチを拾おうとするとそれを制止し、ウェイトレスの背中を押してその場から下がらせた。

その後キヨウはニヤニヤしながらマッチを拾っていた。


「はいっ!いつものお待ちっ」

リョウの顔の前を縦に落下して、最後は軽くガラスの音を一瞬鳴らしたそれを見てリョウはウェイトレスを睨みつけた。

「何故俺のいつものが、こんな色鮮やかで甘い香りを出す女子高生が大好きなアレになってるんだ? ナツミ、またふざけたな」


「ビッグフルーツパフェです!いやぁ、あんたがパフェ食べるとこがいい加減見たくなってねぇ。 いらないんならあたしが食べるよ」


 リョウはパフェを自分の向かい側に押しやると横に立つナツミに言った。


「何か俺に話があったんだろ?いつものピザとコーヒー持って来たら聞いてやる」


ナツミは笑顔で礼を言うと厨房に引っ込んだ。リョウのいつものオーダーをすでに用意していたらしくそれを乗せたトレーを持って戻ってきた。制服のエプロンだけを外した格好でリョウの前に座った。

ナツミとはリョウがこの深夜ファミレスに来はじめた時からの顔なじみだった。きっかけはおしゃべりなナツミが深夜に一人でいたリョウに何回も話し掛け、リョウがそれを無視すると今回の様に注文していないパフェを勝手に持ってきては強引にリョウのテーブルに座ったのが始まりだった。

リョウは結局の深夜の静けさとは掛け離れたナツミの明るさに負けて、同席を許すようになる。

ナツミは「いっただっきまーす」と言ってパフェ専用の長いスプーンを両手に挟むと礼をした。 スプーンをパフェに突き刺すと上に乗っていたイチゴが転がってテーブルに落ちた。 イチゴはリョウの前にまで転がって来た。 リョウはイチゴをつまみ、パフェの頂上に戻してやる。

「毎回、上に乗ってるフルーツ落とすなお前、俺に対するなんかの意思表示か?仮にそうだとしたらお前のイチゴ的な気持ちを深く詮索するような面倒を俺はしねぇぞ?」


「ち、違うって!っていうかイチゴな気持ちってなんかエロいイメージがするし。 あんたこそアタシにそんな気がしてんじゃないの? まぁでも今回あんたにする話ってのはイチゴっぽい、ある意味ロリポップな話ではあるかな」


ナツミはそう言いながらイチゴをパフェのアイスに押し込んだ。 スプーンの先でイチゴを弄りながら話を続ける。


「あんたに実は頼みたいことがあるのよ、仕事の依頼ってことで。実はね……」


ナツミはスプーンを握り直し、イチゴを潰した。 パフェの中に埋まったイチゴはリョウにはもう見えなくなっていた。


「女の子を預かってるんだけど、その子をあんたに守って貰いたいんだ」


ファミレスの店内ではカウンターのキヨウがまた一からマッチのタワーを組み始め、奥の席のムクチは相変わらずパソコンと新聞を交互に見ている。 リョウはナツミを見つめ、言った。


「久しぶりにハードラックな依頼な気がするな、詳しく話せ」


物語が始まる。

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