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初恋の人はこちらを向かない

 事を終えた秀一はベッドに仰向けになり天井とにらめっこをしている。裏切りの罪悪感、不貞の自己嫌悪、沙月の顔がちらつき目をぎゅっと瞑る。隣に寝ている明子の温もりは心地良く、その彼女の身体と性技は秀一に快楽を教えた。

 憧れの女性と交合するのは人の理想であるが、それが他人の妻であるのはよろしいことではない。だが背徳行為は正常とは異質の精神の興奮を呼び起こし、秀一は真っ白な頭で一心不乱に肉体の悦楽を貪った。

「秀ちゃん、たくましくいわね」

 この言葉は成長をたたえたものではなく性的な意味を表したもので男としては誇らしく喜ばしいこと。

秀一のモノはまた求められても良いように既に血が滾り怒張している。

「また大きくなってる」

 秀一の身体に脚を絡ませている明子は情欲の色を隠さない。色気に満ちたピンク色の肌と潤んだ瞳はどんな男さえもその気にさせることが出来るであろう。

「俺、姉ちゃんがまだ好きなんだ」

 閨の余韻の勢いのまま秀一は二度目の告白をした。

「それは言っちゃダメ」

 明子は人差し指で秀一の口をふさぐ。

「それならこんな事しないでよ」

 駄々っ子のような子どもじみた言い草で明子の顔を目を吊り上げて見つめる。秀一とて今回の彼女との事は彼女にとって遊びに過ぎないとは分かっている。しかし明子の身体を征服したという無意識な思いが秀一を感情的にしている。

「主人のことは嫌いになれないわ。秀ちゃんの気持ちはとても嬉しいけど私は主人のものなの」

「それなら浮気なんかするなよ」

『主人のもの』という一言は現実だが口にして欲しくはないもの。秀一は嫉妬心をさらに明子の主人に抱いた。一度目にしたことがあるその男に自分が劣っていたとは思えない。自分が社会人になれば明子を幸せにできる自信が秀一にはある。あと五年早く生まれていれば人生のルートは明子と共に歩んでいた確信もある。

「秀ちゃんだっていい思いはしたんだから私をそんなに責められるのかしら? 彼女が居ながら私を抱いた事は事実でしょ」

「姉ちゃんには言われたくはない。俺は別に結婚しているわけでもないし」

 自身の後ろめたさを庇うために言い聞かせるように強気な発言をする。

「声が上ずってるわよ」

 明子は余裕の笑みをたたえる。清楚だった明子は今は昔、人妻となり旦那との月日を重ねた彼女は肉欲への恥らいを消失している。

「お互いに黙っていれば誰も損をしないんだからいいじゃない」

「旦那さんに悪いとは……」

 またもや明子は秀一に唇を重ね、秀一の言葉を遮った。

 哀しいかな、秀一は一度知ったその快楽に肉体が溺れる。否定する言葉を脳内で検索し何度も念じても身体は明子を求め、彼女の細い身体を強く抱きしめ、愛撫し交合する。

………………

 夕方になり帰ってきた両親に挨拶を交わすと明子は旦那と暮らすマンションへ帰っていった。秀一に残ったものは明子の携帯番号と彼女の身体の温もり。


 月曜日、ブルーマンデー……秀一は疲れを残した身体のまま早起きをして沙月を迎えに行った。

「おはよう。ナイト」

「姫、ごきげんうるわしゅうございます」

「ナイト、目が赤いわよ」

「結膜炎かな」

 昨夜の晩、秀一は涙にくれていた。初恋の人と身体を重ねたのにその人の気持ちは自分に向くことは一向にない。明子は寂しさを紛らわせるために自分を利用したに過ぎないことの屈辱感は彼女が家に戻り時間が経過するごとに強固なものになっていった。忘れ去りたい情念がたった一日にして再び秀一を悩ませる。

「手を繋ごうか?」

 秀一が提案をすると沙月は黙ったままその手を握り閉めてきた。

「そうだ、姫。美奈子のことなんだけどどうなったか知ってる?」

「うーん、詳しくは聞いてないです」

「そう」

 秀一は美奈子に告白した物好きはどんな奴なのかは気になっている。

「まあ、直接本人に聞いてみるか」

「それがいいです。美奈子ちゃんはナイトの言う事を一番聞くと思います」

「いや、いまは彼氏のいうことが一番になったんじゃないかな。付き合っていればの話だけど」

「そうですね」

「俺の一番は沙月ちゃんだからね」

 沙月はこの背筋の凍るような気障なセルフにもニッコリとはにかんだ笑顔で答えてくれる。秀一はそんな沙月への愛おしさが少しずつ着実に土台を形成しつつあるが昨日の明子との情事が頭をかすめてしまう。秀一は頭を振りそれを忘れようとする。

「ナイト、どうしたの?」

「頭が痛くてね」

「風邪でも引いてるのですか?」

「そうじゃないけど」

 沙月に昨日のことを言えるはずもない。

「姫、好きだよ」

 ごまかしにまた気障な事をいう。

「そんな恥ずかしいこと言わないでください」

 真っ赤な顔で怒ったふりをする。でも手はしっかりと握ったままだ。

 校門に近づくと手荷物検査が行われていた。秀一と沙月は握っていた手を離しそれぞれの学年担当の教員の元へと向かった。


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