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告白

「秀一、美奈子ちゃんが来たわよ」

 ヘッドホンをして音楽を聴いている秀一の耳には声が届いていない。

「お兄ちゃん」

 ポンと肩を叩かれビクリと身体が反応し振り返ると制服姿の美奈子がそこにいた。

「びっくりした?」

「ノックくらいしろよ」

「したけど」

「男の部屋に無用心に入るもんじゃないだろ」

 いかがわしいことをしている現場を押さえられたら美奈子には頭が上がらなくなる。

「私のこと女として意識してるんだ」

「それはない。全くない」

「お世辞くらい言ってよ」

「はいはい、可愛いかわいい」

「何かというとそればっかり」

 美奈子はベッドに腰をおろす。絨毯に座っている秀一は美奈子を見上げる事になり、目の前には脚があってスカートの中が見えそうになる。秀一はテレビをつけ面白くもない情報番組を漫然を眺める。

「何しに来たんだ?」

「うん……」

 美奈子は用件を言わず時計の針が進む。

「美奈子ちゃん。お茶入れたわよ」

 黙っている二人の空間にお盆に湯のみを二つ乗せた母親が部屋に入ってきた。

「美奈子ちゃん。男には気を付けないといけないわよ。油断したらだめだからね」

「母さん、自分の息子くらい信じろよ。美奈子ちゃんには何もしないよ」

 秀一ははっきりと断言する。

「母さんは美奈子ちゃんなら仲良く出来るわよ」

「妹みたいなものだろ。そんな気起きないよ」

「えっ! だって秀一は女子高生の格好をしたヌード雑誌ベッドに下に隠してあるわよね」

(おーい)

 隠し通せると思ってるの? とでも言わんばかりにニヤニヤしている。

「じゃあ、私はお失礼するわね。青少年」

 お盆を脇に抱え去っていく。掛ける言葉はかけらも浮かばない。美奈子は少し表情が硬い。

(ほら、ドン引きした)

「安心しろ。俺はお前を女としては見てないから」

「……それも辛いよ」

 いつもの元気は何処か遠くに買い物にでも行ったのか、目が暗い。

「何があったんだ。俺に相談しに来たんだろ」

「うん、実はね……私、告白されちゃった」

「へえ」(隆のやつ以外に早く行動に出たものだ)

「それでね。その、こんな事初めてだからどうしたらいいのかなって」

「もてない俺には難しい相談だな」

「お兄ちゃん、かっこいいよ!」

 自虐のギャグで行ったつもりなのにそこまで食いつかれると哀しくなる。

「それで、美奈子ちゃんの気持ちはどうなんだ。ごめん。ちゃん付けは呼びづらいわ」

「呼び捨てでいいよお兄ちゃん。好きでもないし嫌いでもないの。だってよく知らない人だもの」

「知らないからこそ付き合うんじゃないかな」

「そうだけど……相手のこととかお兄ちゃん聞かないんだね」

「それは野暮ってものだろ。聞いて欲しいのか?」

「ううん」

 美奈子は首を振る。ポッチャリとはしているのに脚は意外に細い。黒のニーソに包まれた脚を見て秀一は思った。

「あのさ美奈子、ベッドから降りたほうがいいぞ」

「どうして」

「お前はスカートはいてるだろう。見えそうなんだよ」

「サービスだよ。おかずって言うんでしょそれにしてもいいよ」

 美奈子が下ネタを言うとは正直驚いた。でも考えて見れば秀一だって中学時代からその手の話は友人としていたし、そういう事は女の子のほうがませているともいう。

「残念、俺は年上好きだ」

「さっきおばさんが言った雑誌は?」

 一本取られてしまった。

「まあ、なんだ本題に戻るとしよう。人生経験だと思って付き合ってみればいいんじゃないか」

(隆よ、俺はアシストをしてやったぞ)

「うん……」

「乗り気じゃないんだな。取り敢えず付き合ってみろよ。駄目なら別れたらいいんだし」

「そう……しようかな」

「俺は応援するから」

「うん」

 美奈子は吹っ切れない顔をして、少し冷め飲みやすくなったお茶をすする。

「それからね、お兄ちゃん。これ」

 美奈子はメモ用紙をスカートのポケットから出した。秀一が受け取ると紙には数字が列挙してある。恐らくはというか絶対携帯番号だ。

「クラスメートの楠さんがお兄ちゃんに渡しておいてって私に預けてきたの」

「どんな娘?」

「大人しくて清楚な子だよ。明日、お兄ちゃんのクラスに連れて来るね」

「俺は電話した方がいいのか?」

「どうだろう、私には分からない。じゃあ私帰るねお兄ちゃんありがとう」

「どういたしまして」

 美奈子が帰った後、秀一はベッドに仰向けになり暫くメモの数字とにらめっこしていたが顔も知らない娘に電話は止めておこうという極めて無難な結論に落ち着き、そのメモを机の一番上の引き出しにしまった。

 

翌日

 登校すると隆が秀一の机に座って待っていた。

「社長、お早いお着きで」

「うむ、温めておいてくれてありがとう」

 隆は椅子から立ち入れ替わりに秀一が座る。

「隆、お前手が早いな。進藤さんはもう諦めたのか?」

「何いってるんだ? まだ俺は散っていないぜ」

「俺は何でも知ってるんだぜ。お前、美奈子にコクッたんだろ。証拠は上がってるんだ」

「マジで何のことだかわからないんだが」

「美奈子に告白してないのか?」

「ああ、お前に嘘ついてどうなる」

 確かに隆が秀一に嘘を付く必要はない。隆が隠している演技をしているふうにも見えない

(もしかして俺は勘違いをしているのか? だとしたら美奈子に告白をしたのは誰だ?)

 脳で検索しても候補は浮かばない。俺の知らない人なのだろうと秀一は考えた。アシストは滑ったようだ。

「お兄ちゃん」

 廊下から美奈子の声が聞こえる。そういえば楠さんという娘に会わせてくれる約束だった。秀一が隆を残して廊下に出ると美奈子の隣に縁なしの眼鏡をかけたおとなしそうな娘が伏し目がちに並んでいた。

「お兄ちゃん。楠さんだよ」

「昨日は迷ったけど電話をかけなかった。悪かったかな」

 楠に声をかけると彼女はゆっくりを面を上げる。いかにも知的なやや釣り上がった目をした少女でやけにまつ毛が長い。整った顔立ちで美奈子とは違いスレンダーなスタイルだ。評価をすると大当たり。

 それにしてもいきなり電話番号を渡すような積極性のある娘には見えない。

「楠沙月といいます。いきなりあんなものを渡してゴメンナサイ」

「いや、むしろ嬉しいよ。君みたいな奇麗な娘からアプローチしてもらえるなんて」

 沙月は顔を赤らめる。それを見るとその娘がものすごく可愛く思えた。恥じらう姿は男をトリコにする仕草の一つである。

「あの、一ノ瀬先輩。私と付き合ってください」

 沙月は深々と頭を下げ告白をする。秀一はこのことは予想の範疇であり、返事は彼女を見て決めようと考えていた。そして現れた少女は自分にはもったいないほど美しい。

「俺なんかでよかったら付き合おう」

 秀一は沙月の申し出を了承する。

「本当ですか!」

 沙月のはパッと明るい笑顔に表情を変えた。

「じゃあ、これからよろしく」

 秀一は右手を差し出し握手を交わす。

「もうすぐチャイムが鳴るね」

 美奈子はそう言って沙月と教室へと帰っていった。教室の時計は始業五分前を指している。

 勢いで付き合うと言ってしまったものの秀一は女性と付き合ったことがない。どう沙月と付き合っていこうかと頭の中は一日中その題目に支配された。


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