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暗闇の中、俺たちが行こうとしている方向の草が揺れているような気がした。
誰か、いる?!
どきどきしながら懐中電灯を俺たちの前の方から、草がガサガサかき分けられて誰かがこっちへ向かって来るのがはっきりと分かった。
やべ! 見つかった?!
っていうか、これじゃまるで焦ってる俺の方が不審者だ。
またさらに大きく、草がガサガサッ!と揺れたのと同時に、不審者(?)がぬっと俺たちの前に顔を突き出した!
ヤバイ! 見つかった?! 思わず、ぎゅっと目をつぶったんだけど、相手は何もしてくる気配はない。こうなったら、開き直ってにらみつけてやる! そう心に決めて思い切って目を開いた時……!
……それは人相の悪いおっさんでもなく、かといって綺麗なお姉さんでもなかった。 一応人間の部類にははいって『いた』んだろうと思われるもの。それが俺の目には映っていた。
理科室の標本そのものの、頭蓋骨が、空洞のはずの目のとこに?マークが見えてるように首をかしげて俺たちを見つめて?いた。
「ぎゃああぁああっ!」
声の限り絶叫する俺と隆宏と悠樹。
「ひょええぇえっ!」
素っ頓狂な声をだしたのはガイコツさん。
「きゃ~~~~っ!」
どっかのアイドルのファンが叫ぶような声……真彩だ。っていうか、いつの間に側まで来てたんだ?! それぞれが、それぞれに悲鳴をあげて腰を抜かしてその場にへたりこんだんだ。約1名を除いて。
「骨だわ~っ! この洗練された白さっ! すべすべの手触りっ! しなやかな曲線を描くフォルム! もうなんて完璧なのっ! 理科室のレプリカなんて遠く及ばないわっ!」
いつの間にか、ガイコツのそばにとんできて、何度も頬ずりしてるのは、自称『ホネフェチ』の真彩だった。
くっつかれたガイコツは、なんか固まってるようだ。……無理もないよな。
「ま、真彩? 平気なのか?」
気を取り直した俺は、真彩とガイコツを見比べた。
「やあね、こんな素敵なガイコツさんが何か悪さをするように見える?」
いや、俺にはお化けガイコツにしか見えないけど……と言いたいとこだけど、ホネフェチ真彩の耳には入らないだろう。
がっくりうなだれて、脱力してた俺は、無意識に持ってた骨を、ポロッと落とした。「あ! これや! わての腕! なんやこんなとこにあったんかあ。どこ探しても見つからへんはずやわ。おおきにぃ」
硬直から解けたガイコツは、とても嬉々としてその骨を腕の位置に何事もなかったようにくっつけて、ぐるぐる回してみせた。
「……あんた、もしかしてお化け?」
「お化け……なぁ。ま、そんなもんなんやろけどなあ」
つるっとした頭を、これまた骨だけの指でポリポリ掻きながら言った。
表情があったら、きっと苦笑いしてるだろうと想像できるしゃべり方だ。
「この姿はなぁ、霊力で実体化させたもんなんや。結構苦労したんやで。拾うてもうた、その骨もほんまもんと変わらへんでっしゃろ?」
今度はちょっと得意気に胸を張った。
「ま、霊魂でおる方が楽なんやけどな、最近仲間になったヤツが、今日はなんや外国は『はろうぃん』とかいう祭りやってゆうから、わてらもマネしよかって事になってん。日本の盆は辛気臭いで、あっちの方がよっぽとおもろそうやろ?」
「ははは……。まあね」
それにしてもよくしゃべるガイコツだ。まるで関西のお笑い芸人みたいなヤツ。骨だけでどうやってしゃべるのかは謎だけど、突っ込むだけ無駄のような気がする。
「そや! なんやったらあんさんらもわてらと一緒に『はろうぃんぱーてー』やらへんか? ここで逢うたのもなんかの縁や。久しぶりに生きた人間さんとしゃべりたいしなぁ」
「『わてら』……っていう事は、他にもお仲間さんがいるとか?」
悠樹が目をキラキラさせてガイコツに聞いた。妖怪マニアのスイッチが完全にオンになったようだ。
「おるで。まあこっちに来いや。他のヤツらに紹介したるさかい」
なんて感じで、お気楽に誘われてしまった。
真彩は行く気満々で、まだ腕の骨にすりすりしている。
「ん~、もう手放したくないわ! このガイコツさん」
うっとりした表情で真彩は呟くと、表情のないはずのガイコツの目の所が、でれっとしたように見えた。
「ひゃははは。死んでから初めてモテたわあ」
「……俺は帰る」
そう言って、くるっと背中を向けた隆宏を、悠樹が腕をつかんで引き止めた。
「まあまあ、そんな事言わないでさあ。こいつらがほんとに幽霊なのかを確かめるチャンスじゃん? それになんか楽しそうじゃん。ほれ、お前も」
悠樹はすっかり脱力してしまっていた俺の腕も引っ張った。
そしてさっさと歩き出したガイコツと真彩の後を追って、俺たちを強引に引きずるようにして自分も歩きだした。