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俺は家の外門に出た。10月も終わりになるともう結構夜は冷える。

 門の上についている白熱灯を頼りに時計をみるともうすぐ8時。そろそろオカルト研究のメンツが集まる頃だ。

 「空斗っ、来たよ」

 時間と同時に真っ先に着いたのはでかいリュックを背負った真彩だった。

「おまえ、何持ってきたの?」

「だってハロウィンでしょ? おかしがいーっぱい入ってんの。後でみんなで食べようね」

 うきうきした声で後ろを向いてわざわざパンパンになったリュックを俺にむけた。こいつはまだまだおこちゃまだ。

 はしゃぐ真彩の背後から、カランコロンと現代に似つかわしくない音がしてきた。

「あいつがきたな」

 俺は暗闇に目を凝らした。

「ういーっす。久しぶりの肝試し、楽しみだな。今度こそ妖怪にお目にかかりたいもんだぜ」

 やってきたのは年代物の下駄を履いた自他共に認める妖怪マニアの悠樹だ。日本の妖怪のみならず、外国の妖怪……というかモンスターまで幅広く網羅しているんだ。幽霊にも興味はあって、一度生で見てみたいと切に思っているらしい。

「もうみんな集まっているのか。意外と早かったな」

 最後にやってきたのは隆宏。

 こいつは妖怪や幽霊なんてこの世には存在しないと信じて疑っていない。オカ研に入ったのだって、妖怪や幽霊がいない事を証明する為だとか。

「よし、みんな揃ったな。んじゃ行くとするか」

 俺が声を掛けると、3人は懐中電灯で下から自分の顔をライトアップしながら答えた。

「おっけー」


 俺んちの庭は、寺の境内でもあるのでほとんどが墓地だったりする。

 外門から玄関までのじゃり道沿い……といっても50メートルくらいあるんだけど、墓石がずらーっと並んでいる。

 夜になると、結構真っ暗で、途中にポツンとある灯りも切れかけてるのかチカチカしている。

 自分ちだとは言ってもここはあんまりずっと居たい場所ではない。

 今は玄関の灯りがついているからまだいいけど、真っ暗だとちょっと引いてしまう。特に学校で怪談話をした日とかは。

 俺たちが肝試しに行くのは、道からずっと左奥の墓地のはずれある慰霊碑のとこ。主に無縁仏を祀ってあり墓地から少し離れた所にあるし、その向こうは川と林に囲まれているので本当に真っ暗だ。

 しかも行く手には最近親父もおかんも法事やら葬式が立て続けにあって、慰霊碑の方まで手入れが行き届かないらしく俺の背丈ほどの草が生い茂っている。

 草刈を業者に頼んでも、何かしらの理由がついてキャンセルされたりしている。昔はこの辺りに土葬もしていたらしいから、何かいわくつき的なニオイを感じるのは俺だけだろうか?


「それじゃ、ひとりずつこの白菊を持って。順番に慰霊碑に置いて帰ってくる事っていいな? ちゃんとお参りするんだぞ。 石畳の一本道だかけど草で見えにくくなっているから道からはずれるなよ」

「よし、とりあえずトップは俺だな、っと。行ってくるぜ」

 始めに行ったのは悠樹だった。

「気をつけていけよ」

「りょーかいっ」

 悠樹は妖怪を題材にしたお気に入りのアニメの主題歌を口ずさみながら暗闇に消えていった。


 下駄の音が遠ざかってから、もう30分になろうとしていた。

「ねえ空斗。いくらなんでも遅いんじゃない?」

 真彩が不安そうに俺に言った。

 いつもなら5分ちょっとで帰ってくるんだけど、今日は遅すぎる。

「危なそうなとこはないはずだけどなあ。強いて言えば昔の土葬の跡が陥没した穴があればだけど。今までなかっただろ?」

「石畳から外れなければ、だけどな。あいつほんのちょっとの距離で迷えるスーパーウルトラ方向オンチだから」

 隆宏がさらっと毒舌を吐いた。ていうか、この距離で方向オンチなんてありえないだろ!

「とりあえず、俺が見てくる」

 俺は懐中電灯がつくか確認して、慰霊碑の方へ向かった。

 慰霊碑に向かうにつれ、だんだん草が生い茂ってきて、前を照らしても慰霊碑は見えない。

「悠樹! いるかあ!」

 俺は途中で立ち止まって叫んでみたけど、辺りは静かで返事はなし。奥からかすかに聞こえる川の流れが人気のなさを演出しているような気がする。

 さすがに俺も不安になって、後ろを振り返ってみると、うちの灯りが草にまだ見え隠れしているのでちょっとほっとした。

 その「ほ」がいけなかったんだろう。

 いきなり目の前で草がガサガサッ!と揺れて、俺は声もなくその場で腰を抜かした。

 草の間からぬっと顔を出したのは悠樹だった。

 でもその顔は真っ青で、手の懐中電灯は消えていた。

 俺は悠樹の様子を見て、何かただならない物を感じた。

「大丈夫か?」

 俺の掛けた声で、悠樹は我に返ったようだ。

「おっ……奥に誰かいるんだ! 何人かでしゃべっているみたいなんだ」

 悠樹は珍しく慌てている。

「そんなはずない。うち、外門の鍵はついさっき開けたばかりだし。塀があるし林の向こうは川の流れがあるから誰も入れないはずだ」 

 俺は悠樹の言ってる事がどうにも信じられなかった。

「俺、見てくる。時期住職として不審者をほっとく訳にはいかないからな。お前は戻って、あとのふたりに待ってるように言っといて」

 俺は気を取り直して懐中電灯を握りしめると、奥へ向かった。

「何かあったら叫べよ!」

 悠樹が心配そうに声を掛けてくれた。

「分かった」


 少し奥へ行くと、ぼそぼそと話声が聞こえてきた。

 やっぱり、誰かいる。しかもひとりじゃない。

 実際は、お化けよりも不審者の方がちょっと怖いかも。

 お化けはいても不思議じゃないけど、不審者がここに居る事はありえない。人間だから、何をしてくるか分からないし。

 でも姿を目視で確認したくて一歩踏み出した時。足元でカラン、と何か乾いた物が転がった音がした。

 木かな、と思って足元を照らす。

 灯りに浮かび上がったのは……一本の骨だった。

 これはたぶん、上腕骨だな……ってなんで冷静に見てるんだ俺! こんなとこに骨なんて……こっちはありえなくもない。

 この辺もひと昔前までは土葬してたから、動物が入り込んで掘り返したのかも。たぬきがいるの見た事があるから、川を渡って動物が入ってくるのは実証済。

 うーん、どうしたもんか。

 とりあえず戻って、親父にこれ見せて、不法に侵入したヤツがいると警察に連絡してもらおうか。

 手近に桐の木があったので葉っぱを一枚ちぎって骨をくるんだ。

 そして戻ろうとした、その時だった……!




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