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制服が冬仕様になってから、ひと月がが経とうとしてた。
いつものように玄関を出ると、日中はまだ陽射しは暖かいというより暑いという方がしっくりくるレベルだ。
まだまだ暑いのに上着着るのかぁ……。異常気象なんだから10月はどっちでもいいっていう事にして欲しいぜ。手に持ってたら邪魔で仕方ない。かといって、前みたいにバッグに放り込んでしわくちゃにしようものならオカンに「嫌がらせ」をさせられるからなぁ。
その「嫌がらせ」というのは、弁当を幼稚園児だったら狂喜乱舞するような「デコ弁」にされる事だ。しかも俺の好物ばかりを使いやがるから、絶対食わねぇ!という抵抗は俺の腹の虫が許してくれる訳がなくて。
ここの高校に入学してから初めてこの嫌がらせをされた時には、ツレに大ウケされ、女子には携帯で写真を撮られまくったりでさんざんの1日だった。この日から、「デコ弁 空斗ちゃん」と言う全く嬉しくもない二つ名がついてしまった。
「空斗っ! おはよ!」
学校までの道程をのろのろと歩く俺の後ろから軽快に走ってきて声をかけてきたヤツがいる。
朝からハイテンションなこいつは俺の幼馴染の真彩。
生まれた病院も一緒で、新生児室では隣同士にしないとなかなか泣き止まなかったという、嘘か本当か分からない昔話を親から事ある毎に聞かされていた。まさか高校まで一緒になるとはな。
「ね、そろそろ今月のオカ研の活動しない? 悠樹と隆宏からも、聞いといてくれって言われたんだ」
俺はオカ研……オカルト研究会の会長をやらされている。4人だけしかいないから、同好会なんだけど。
「あ、すっかり忘れてた。それに何も考えてねえ」
俺の起動スイッチはまだ入ったばかりなので、思考回路がまだ十分に作動していない。
「もうっ。あいかわらず朝はダメダメでダルダルなのね」
真彩は呆れ顔で少しふくれたが、すぐにニッと笑った。
「でも、そう言うと思ったから私考えたんだけど、『肝試し』はどうかなあって」
俺はなんとなく嫌な予感がした。
「もしかして……それを俺んちでやる、っ事? しかもこの時期に?」
「ピンポーン♪ だって、今年の夏は夜も暑くて結局肝試しはしなかったじゃない? 空斗んちなら他の人に迷惑もかかる訳ないしねっ」
悪気はない発言だけに、性質が悪い。
「あのなあ…… じゃあ俺んちには迷惑かかってもいいってか?」
俺がげんなりして言うと、真彩は首を横に振った。
「そんなんじゃないよ。だって、空斗のおばさん、いつでも遊びに来てねって言ってくれてるよね? だったら問題ないと思うけどな」
「でも夜だぜ? お前んちのオカンが止めとけって言うに決まってる」
「それは大丈夫っ。 うちの母さんと空斗んちのお母さんも幼馴染だから。信頼度100パーセントだよっ!」
……全く。こいつと言い合いで勝った事はなく、今回の事案も真彩の言いなりになっといた方が無難だ。
「しゃあないな。それじゃあ、真彩はいつがいいんだ?」
白旗を揚げた俺の言葉を待っていたかのように、真彩は目を輝かせた。
「もちろん、今月の月末。ちょうどハロウィンでしょ? うってつけだと思わない? 時間は19時に空斗んちに集合って事で」
「ハロウィンに肝試しなんて聞いた事ねえし。それにもうあさってじゃないかよ……。ったくもう、仕方ねぇな。とりあえず今日学校で話しとく。忘れていなければ」
適当な感じで流そうとしたら、真彩が俺の正面に真顔で回りこんだ。
「絶ーっ対忘れないでよ? でないと空斗の二つ名が、また増える事になるかもよ?」
……そうだった。こいつには弱みを無数に握られているんだった。俺って、何故かこいつの前では無防備になるんだ。
「分かったよ。会ったらすぐに言っとく」
「よろしい」
真彩はにんまりとして、鼻歌を歌いながら俺の前を歩いていった。