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9.心のオアシスを見つけストレス解消をしていたら、死亡フラグが折れていたみたいです

 自分が泣くなんて予想外だった。転生前の時はあんまり泣かなかった気がする。剣道で負けて悔しいときもあったけど、それは自分の実力不足だから仕方がない。次、勝つために練習するのみ!というメンタルだった。

 でも団体戦のときは泣いたな。大将戦で先輩が負けて、自分の学校が負けてしまった。先輩は泣いているのを見られたくなくて面を外さなかった。先輩がどれだけ練習しているのかを知っているから、私も泣いた。後輩に泣かれるなんて先輩は望んでいないのは分かっているけど、泣いてしまった。

 イオとカインの前で泣いてしまったのは、ソニアが疑われ、バカにされたからかもしれない。バカにしているかどうかは私の主観かもしれないけど、ソニアのことを軽く見ていると思った。私は自分より、人のことで泣いてしまうのかもしれない。


★★★★★★★★★


 執務室は暗く静かだった。

 イオディールは机の横に立ったまま。カインも同じく後ろでたったままだった。

「なにか傷つけることをいってしまったのだろうか」

 イオディールは独り言のようにいった。

「私は、至極当たり前のことをいったまでだが」

「イオディール様はなにも悪くありません。私が強く言いすぎただけです」

 ケインがイオディールをフォローするようにいう。

「イオディール様の命は、自分だけのものではありません。化学派のシンボルでありエレメンティアの未来なのです」

 イオディールはため息をついて椅子に座る。

「カイン、2人きりの時は『イオディール様』呼びはやめろといったよな」

「ああ……すまない。学校生活が始まると、人前にいることが多くなってつい」

 イオディールは、ふっ、と口元がゆるむ。

「どうした? イオ」

「いや、アーネが俺の事をイオって呼んだことを思い出しただけだ。お前以外で俺の事をイオって呼んだやつはいない」

「アーネ様は急に人が変わったようでした」

「イオ呼ばわりして、婚約破棄を突きつけられた」

 今度ははっきりと笑顔になる。

「俺は自分のことを特別な人間だと思いすぎていた。増長していたな。人間とは対等なものだ。みんな、俺とカインのような関係性になればいい」

「それは、化学派と魔法派の歴史がなかなか許してくれないでしょう」

「相変わらず固いな、お前は」

 今度はさびしそうにイオディールは笑う。

「対等になる……それは理想論なのは分かってる。でも、その理想の形を今し方、アーネがしてくれた」

「婚約破棄とアーネ様の涙と引き換えになってしまいましたが」

「そこを考えないとな」

 イオディールはついさっきまでアーネがいたところを見つめた。


★★★★★★★★★


 泣いて目が腫れているのは自分でもわかった。このまま教室に戻るとなにがあったのか聞かれるだろう。

 どうしようかと学内を歩いていたら、中庭を見つけた。そこは教室からも、講堂からも、訓練場や馬術場などがある大きな運動スペースからも死角となっていた。中庭というより校舎裏といった方が正しいかもしれない。でも校舎裏というにはスペースは広く、木登りしたくなるほどよい木々が生え、テーブルやベンチが2組、さらに手入れの行き届いた池もあった。池は太陽を反射し自分を照らした。


 思い返すとイオディールにいろんなことをいった。

 婚約を破棄するっていっちゃったよね。


 ……。

 …………。

 ………………。


 私は頭を抱えて座り込んだ。やってしまった、よね?

 でもイオディールのあのいい方はない! 私は悪くない!

 あの時のイオとカインにいわれた言葉を思い出して、なんかモヤモヤした気分になる。

 池のそばに木が落ちているのを見つける。なにかひかれるように池のところまで行き、木を拾う。長さは1mぐらいだろうか。剣道をやっていた癖で、棒状の持つと剣道の構えを取ってしまう。木を両手で軽く搾るように握り、中段の構えを取る。

 すると木が手に吸い付くように馴染んだ。シンデレラフィットというものかもしれない。私は伝説の剣ならぬ伝説の木の棒を手に入れてしまった。

 私はメンッ!と気合いを入れて素振りをする。気持ちいい。しばらく動かしていなかった肩と肩甲骨まわりの筋肉が動くのが心地よい。私は前後に足を捌きながら素振りをした。

 ほどよく汗をかき、息も少し上がる。来ているドレスを脱いで胴着と袴に着替えたかった。ドレスっぽい剣道着とか作れないだろうか。

 素振りをしていたら、実際に打ち込みをしたくなってきた。まわりを見たら私の目線と同じぐらい、ちょうどいい高さに枝が伸びている木があった。枝に私の伝説の木の棒を当ててしまうのは木が可哀想なので、目印にする。

正面から振り下ろす。右斜めから振り下ろす。左斜めから振り下ろす。そしてまた正面から振り下ろす。

ふと鐘の音が聞こえた。何時の鐘だろうか? 見ると日は高く、昼前ぐらいになってそうだった。かなり夢中に振っていたみたいだった。そのおかげもあってか気持ちがすっきりしていた。

 少し休もうとベンチに座る。遠くで生徒の声が聞こえる。あの貴族の世界から離れ、心が穏やかになっているのが分かる。ここ数日、死亡フラグを折るために必死に動き回っていたから、攻撃的になっていたのかもしれない。元々攻撃的気質ではあるけど、寝ても覚めてもだと私でも疲れてしまう。

 死亡フラグで思い出す。水晶! イオディールにあんな罵詈雑言をぶつけてしまったのだ。赤いどころか高温でマグマのようにとろけるか、パキンと砕け散ってもおかしくない。

私は慌てて胸元に入れたネックレスを出す。

 水晶は透明になっていた。熱くもない。

 なぜ? イオにケンカを売ったのに。婚約破棄を突きつけたのに。

 でも水晶は透明だ、死亡フラグは回避できたということだろうか。

 ……ま、いっか。よくわからないけど、結果オーライになったみたい。

 まだ水晶と死亡フラグの関係性は分かってないけど、あれだけ真っ赤だった水晶が透明になっているということは、たぶん良い方向にいっている、ということにしておこう。


 久々に体を動かして肉体的な心地いい。このまま池の水面を見つめボーッと見つめる。サウナにいったことはないけど、これが“整う”ということだろうか。素振り1セットでこれだけ心地良いなら、2セット目行くかと思う。

 その時、気配は消そうとしているが、素早く移動している足音が聞こえる。それはこちらに近づいていた。この中庭はどこからも見られない。逆に言えば、ここにいれば誰からも見られないということだ。

 学校内で物理的に攻撃されるということはないと思う。思いたいけど、その足音からかなりの手練れだということは分かる。もしかしてこういうパターンの死亡フラグってあるの?

 すぐそばの建物の陰で、足音は止まった。

 私は伝説の木の棒を持ちながら、音が止んだ方に視線と意識を集中させた。

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