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5.婚約者の実家が太すぎて、死亡フラグが折れそうにありません

 鏡を見るとナギがいた。

 鏡の右上を見ると満月マークがある。前回のことを考えると通信状況はバッチリということだろう。

「ナギ! 昨日話せたのは偶然じゃなかったんだ!」

 私のテンションとは真逆で、ナギはお通夜のような顔をしていた。いやまあまその気分だろうけど。

「盛夏、よく聞いて」

 落ち着いた声で私に話しかける。

「盛夏は、“最短デスエンド”ルートに乗ってる」

「あー」

「なんでそんなのんきなの?」

「まあ、自覚はあるというか」

 婚約者に「どなたでしたっけ?」と聞けば、婚約者の不興を買っただろうし、死亡フラグはたっただろう。でも。

「たしかにダメなことをしたけど、死んじゃうまでのこと?」

「これは男女の恋愛でおさまる話じゃない。家と家の繋がり、魔法派と化学派の繋がりも関係してくるの。『エレメンティア戦争』の終結の証のひとつが、アーネとイオディールの婚約なんだから」

「ややこしいなあ」

「そのややこしいところが『マ化エレ』の面白いところなの!」

 ナギはうんうん、と頷いている。

 私はこのゲームを作った人を少し恨んでいる。転生して今も生きながらえているのはありがたいけど。

「このままデスルートにのったらどうなるの?」

「たぶん修道院に送られると思う」

「え? じゃあ死んでないじゃない」

「でも、もうゲームには出てこない。私は盛夏を見ることはもうない」

 物理的な「死」もあるが、ゲーム的な「死」もあるわけか。


 死にたくない。2回も。


「どうすれば死亡フラグを折れるの? イオディールと仲直りすればいいの?」

「そうなんだけど、強敵が現れるの」

「強敵?」

「ソニア・シャンティって子」

「ソニア・シャンティ……覚えた。その子はかわいい?」

「もちろん。『マ化エレ』の主人公なんだから」

 あ、そっか。私は乙女ゲームの世界にいるんだった。

「盛夏、あなたは『悪役令嬢』役だから。この世界は勧善懲悪。やられるためにいるような存在なんだから。そのことは肝に銘じておいて」

 昨日から肝に銘じることが多すぎて、肝臓が大変だ。

「じゃあ、その子をやっつければいいのね」

「そう。どんな手をつかってもソニアの邪魔をして、イオと婚約したまま学校を卒業して」

「学校を卒業?」

「ゲームのエンディングは学校の卒業。その時に婚約相手がいれば、卒業式の日にプロポーズをされて、ハッピーエンドになるの」

「なるほど」

 2年ってなかなか長いわね。ゲームをやっている方は1日でいけるだろうけど。それだけに失敗は許されない(これ以上は)。


 ところで。

「なんで、イオディールの顔と名前を教えてくれなかったの!?」

「だって、ゲームの世界にいるんだから分かると思うでしょ」

「私はこのゲームやったことないんだから、知識ゼロだと思って」

「分かってる。ウメとのやりとりで分かった」

「うん? さっきの会話聞いてたの?」

「ゲーム画面みたいに進んでいるのを見てた」

「え? 今もそんな感じ?」

「ううん、今はネット通話みたいな感じ。あ、そうそう、ウメ、猫飼ってたんだね」

 ナギは『マ化エレ』を隅から隅までやってる。設定資料みたいなのを読んでいるのを見たことがある。

「このゲーム、相当やりこんでるんだよね? 知らなかったの?」

「うん。アーネ目線でこのゲームを見ることはないから、裏設定まで見れるのかも。ウメはサブキャラのサブキャラだから」

 そうか。あくまで主人公はソニア・シャンティ。

 そのライバルの私、アーネ・パリサンダーのメイドの生活まで描かれることはないだろう。

「でもメイドの名前は知ってるんだね」

 ナギは苦々しい顔をする。

「このメイドが超難敵! ソニアを陥れるため、アーネの手足となって裏から表から攻撃してくるのよ。アーネより優秀なの」

 なんかさらっと私を馬鹿にされたような気もするが、ゲーム内の話だよね。


 心がもやもやしていたが、ナギが私に話しかけてくる。

「前も通信がいきなり切れたから、取り急ぎ大切なことだけを教えるね」


 金髪の貴公子の名前が、イオディール・アストリア。

 アーネ・パリサンダー(つまり私)の婚約者だ(かなり危うい状況だが)。

 彼の出自・アストリア家は化学派の貴族なのだが、イオディールはそのアストリア家の当主である。王子ではない。当主だ。だけどまだ未成年ということで「王子」ということになっている。

 父親はどうしたのかというと聖域戦争が終わった直後に病死している。母親も彼が幼いときに亡くなっている。彼はもうパパもママもいない。

 パパ、ママ、元気にしてるかな? 鏡の向こうの世界を思った。


 仮面の青髪の名前は、カイン・ブルーム。化学派だ。

 イオディールの幼なじみであり、側近であり、ボディーガードでもある。

 アストリア家とブルーム家の家格は同等だが、いざこざが起きないようにアストリア家が本流となっている。

 「江戸時代も将軍家と尾張・紀州・水戸の“御三家”があったでしょ。そういう感じ」とナギに言われたが、どういう感じなんだろう?

 とにかくイオディールのそばにはカインがいる。「影王子」というあだ名もあるらしい。光と影という関係なのかな? そっちの方が覚えやすい。


 そしてヒロイン、ソニア・シャンティ。

 始業式で出会い、私とバチバチの関係になるのだが、

「ソニアがいないのよねー」

 ナギが小首をかしげる。

「盛夏が転生したから、バグかなあ? 転生バグ?」

「ヒロインが出てこなかったら、私の死亡フラグは折れる?」

「ソニアが出てこなくても、別のヒロインが出てくるかも」

 確かに。イケメン王子なんてモテまくりだろう。


 あと化学派の「ロングコート」と「手袋」には意味があるらしい。

 ロングコートのポケットには「ケム」という、わかりやすく言えば“化学物質”が入っているらしい。それを「手袋」でとって、ケムを混ざり合わせる。すると「ケミック」という“化学反応”が起きて、火をおこしたり、回復物質を作ったりする。

 どんなでんじろう先生だよ。こわいなあ。


 鏡にノイズが入る。電波が悪くなってきたみたい。

 ナギが胸元からなにか取り出す。

 赤く光る水晶のペンダントだ。

「盛夏、私も赤く光ってる」

 自分も水晶をナギに見せた。

「繋がっているね」

「うん」

 弟がくれたペンダントだ。

 ナギがなにか言おうとしていたが通信は途切れ、アーネの姿が映っている。


 そう、私はアーネ・パリサンダー。

 私が行動したから、死亡フラグが立ってしまった。

 その死亡フラグを折ることができるのは誰?

 それは私しかいない。

 私が行動しないと、なにも変わりはしない。


 このあとソニア・シャンティなのか、はたまた別のヒロインがでてくるのかわからないけど、イオディールとくっつけるわけにはいかない。

 クラス中の生徒は私のことを「いじわるな女」と思っているだろう。そう思っていただいて結構! だって悪役になることで私が生き残れるのだから。


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