19.大帝と大司教の前で、化学派の婚約者王子から正式に婚約破棄を言い渡されました
【作者「いわてかいわれ」のミニコメ】
2025年大晦日、よい年越しをされていますか?
2026年元日、いい新年をすごされていますか?
私はこつこつ小説の続きを書いております。(「悪役令嬢なのにヒロインを溺愛しすぎて、王子たちにブチ切れがちです」の略称、考えていなかった)
スローペースですが、2026年3月には最後まで書き切りたいと思います。
小説って楽しいですね。自由ですね。
ハッピーにいきましょう!
イオディールは私のこと、相当バカだと思っているだろうな。なんの考えもなくしゃべり、大司教と大帝にたてついている。
「平和について貴様はどう思っている?」
イオディールが私に問いを投げる?
「平和ですか?」
「そうだ。平和は、勝手に振ってくるものだと思っているのか? 聖域戦争をそれこそ必死の思いで決着させたアビゲイル大司教とクリフ大帝のお気持ちを分かっているのか?」
私は戦争を体験していない。現世でも、この世界でも。
大司教と大帝は聖域戦争という長い戦いを終わらせた功労者だ。
私の考えは子どもっぽい。私の見えている世界のことしか考えていない。
でも、と思う。その見えている世界をなんとか幸せにしようと思うのはダメなことなのだろうか?
手の届く範囲だけでも守りたいと思うことは、愚かなことなのだろうか?
そんな自由は許されないのだろうか?
「私は……自分と、自分の大切な人たちを守りたいだけです」
イオディールは私の言葉には応えず少し黙り込む。そしてクリフ大帝の方を向きひざまづいた。
「クリフ大帝、アビゲイル大司教、恐れながら申し上げます。クリフ大帝、先ほど私に『自由を楽しんでほしい』とおっしゃいました」
クリフ大帝の片眉が上がる。
「確かに言ったが」
「私はそもそも『自由』とはどんなものなのか、理解できませんでした。いえ、正しく言えば、私がやるべきことは山積し、それを遂行することが私の『生きがい』でした。そしてこれからもそれは変わることはありません」
「生きがい、か。曖昧なものだな」
アビゲイル大司教の低く響く声で呈される疑問に、イオディールはまっすぐ答える。
「私の生きがいは、この世界の平和を維持し、平和を広げる事です。具体的に言えば魔法派と和平を維持すること。そして反政府勢力である“レベルティア”を壊滅させることです」
クリフ大帝とアビゲイル大司教はイオディールを見据える。その迫力は空気までも凍るのではと思うほどだ。だけどイオディールは淡々と述べる。
「でも今、『自由』というものが少しわかったような気がします。――クリフ大帝、許された『自由』を少しだけ謳歌させてください」
「ほう、どういうことだ?」
「私は、『私が愛する人』を妻にしたいです。政略結婚は性に合いません。『結婚の自由』をいただきたいと存じます」
そういってイオディールが小さく笑った。今までみた彼の表情の中で一番柔らかだった。
……え? なんか、私フラれてる?
イオディール結婚ルートから外れたら、私、本当に死亡ルート大爆走しちゃうんだけど。
そんな私の気持ちなんか知るわけもなく、イオディールがいう。
「私からもアーネ・パリサンダー嬢との婚約を破棄したく存じます。これはアーネ嬢から言われた意趣返しではありません。前から婚約を取り消したいと考えていました。ゆえ今回、ちょうど良い機会を彼女からいただきました」
「ちょっと! それ、後出しじゃんけんでしょ!」
私はイオディールに詰めよる。イオディールも私を迎え撃つ。おでことおでこがくっつきそうな距離だ。
「それで平和が保たれるのか?」
クリフ大帝が私たち2人を飲み込むように言う。
「化学派と魔法派の政略結婚、それが一番確実で、平和な方法だと思うが?」
イオディールは私への目線を切り、クリフ大帝に向ける。
「クリフ大帝、あなたは私の父親代わりとなって強く優しく育ててくださり、皇后陛下は私の母のように大きな愛で包んでくださいました。どんなに感謝をしてもその恩を返そうと思っても、到底できないことでしょう」
私は急展開に驚く。
「ちょっと待って。父親代わりってどういうこと?」
「父親代わりとは、そのままだ。父は私が幼い頃に亡くなった。クリフ大帝は父なき後、私を支えてくださった」
待って。それって親子同然っていうこと? となるとイオディールは皇太子みたいなものってことになっちゃう?
イオディールは王子キャラじゃなくて、本当に王子様じゃない! 私、すごいところにケンカを売っちゃったみたい。そりゃ水晶も真っ赤になるか。
「途中になりました。クリフ大帝、正式にこの婚約、なかったことにしてください」
イオディールは頭を下げる。そしてゆっくりとあげ、大帝と大司教を見る。
「結婚に頼らずとも、私がこの世界の平和を創造していきます」
イオディールは胸を張った。彼はクリフ大帝やアビゲイル大司教と同じくらいの威厳――いや威厳と言うより“光”を放っているように私は見えた。
「その礎として、私たちの世代、レベルティア学院にいる生徒たちをひとつにしてみせます」
……やばいな。死亡レールからなかなか離脱することができない。生き残るためにはさっき言っていた反政府勢力・レベルティアに行った方がいいのか? でもそれもやだな。ウメちゃんとソニアちゃんを悲しませることになるだろうし。
パン、と張り詰めた空気が弾け、温かい風が入ってきた。
アビゲイル大司教が口を大きく開け笑っていた。
クリフ大帝も相好を崩す。
「これは2人とも聞きしに勝るだな」
「だろう?」
アビゲイル大司教は大帝を見る。クリフ大帝も大司教を見て、目が合う。
そして2人同時に笑った。快活に笑った。
私はぽかんとした。結構間抜け顔だっただろう。イオディールも私のようなぽかん顔ほどではないが、気が抜けた表情をしていた。それはカインたちもそうだった。
クリフ大帝がニッと笑う。精悍な顔だからこそ生まれる愛嬌があった。
「我らがこの新しい国を作り上げねばと思っていたが、知らぬ間に下の世代がたくましく育っておった。私がこの国を守らねばならぬ。それは自分しかできぬこと。そう思っていたが、その考え、若き世代に蓋をしていたな」
「畏れ多きお言葉。まだまだいたらぬ未熟者、これからも政だけではなく、人として大帝および大司教様から今後も学ばせていただきます」
「まだ負けてはおられんからな。私もやりたいことはある」
クリフ大帝はアビゲイル大司教を見る。大司教は満足げにうんうんと2回頷いた。
クリフ大帝はイオディールを見る。
「イオディール・アストリアとアーネ・パリサンダーの婚約は正式に解消する」
「私も、そのむね認める」
アビゲイル大司教も同意した。
「ありがとうございます」
イオディールはうやうやしく礼をした。
本当に終わったんだな、と私は身に染みて感じた。
「しかし」
クリフ大帝は肘掛けに体重を乗せる。
「父・ジョン王に似てきたな。頑固なところも、一途なところも」
イオディールは、表情をほころばせ、少し笑った。ちょっと幼い表情になった。
で、ジョン王って、誰?
ウメちゃんに聞こうとすると、「あとでお教えします」と私の動きだけで気持ちをくみ取ってくれた。まま、自分がこの世界のことをあまりにも知らなすぎることを、ここでひけらかすこともないか。
ふと、自分の気持ちが落ち着いていることに気づく。
胸元を見る。水晶が透明になっていた。死亡フラグが折れたみたい! 心の中でガッツポーズをした。
でもなんで? 婚約が正式に解消されたのに。
イオディールとクリフ大帝、アビゲイル大司教の3人が談笑をしている。
そのイオディールの横顔をみて、彼が私の死亡フラグを折ってくれたんだと感じた。彼と結婚しないと死亡フラグは折れないはずだったのに、婚約破棄することで死亡フラグが折れるなんて、このゲームを作った人は思ってもいない“バグ”だっただろう。
談笑が終わり、クリフ大帝が私たちを見る。そしてソニアちゃんのところで目が止まった。
「そなたは?」
「ロジャー・シャンティの娘、ソニア・シャンティと申します。大陸の片隅にある家にて、クリフ大帝はご存じないかもしれませんが」
「シャンティ家……そうか、あの場所は自然が豊かであったな」
「はい! ご存じなんですね。父からは農業などたくさんのことを教わっています」
「家を離れて寂しくはないか? エレメンティア学院に入って文化の違いに困ってはいないか?」
「田舎育ちでこの学院に来たときは不安でいっぱいでしたが、アーネ様と出会って、本当に楽しいです」
「そうか。それはよかった」
クリフ大帝は、優しい目でソニアちゃんを見た。あと、ちょっと悲しい成分もあったような気も。気のせいだろうか?
胸元に違和感を感じる。見ると水晶が「青」く光っていた。え?! なに!? 青ってなに
「アーネよ」
「はい!」
私はクリフ大帝に名を呼ばれ、反射的に大きい声で返事をする。現世の剣道部の習慣が体に沁みていた。
クリフ大帝はジッと私を見る。が、なにもいわない。
なになになに? 急に死亡ルートに行かないよね?
クリフ大帝は考え事をするかのように小首をかしげ、目を閉じる。そしてまた私を見た。
「そなた、人を見る目だけは濁らせるな。そのままでいたまえ」
「は、はい」
返事はしたものの、クリフ大帝の言葉はなにか禅問答のようでよく分からなかった。でも私を励ます言葉だったと思う。たぶん。
クリフ大帝は立ち上がる。
「アビゲイル、久々にあったのだ。酒でも飲もう」
「そうだな。酔い潰れるまで飲むぞ!」
「潰れるのが先が、城から酒がなくなるのが先か、どっちだろうな」
2人は笑い、部屋の奥にある扉から出ていった。
残された私たち5人は、とりあえず困難をクリアみたいなので、ホッとした。今になって体が小刻みに震える。
「よかったです!」とソニアちゃんとウメちゃんが私に抱きついた。その温かさで私の震えも消えた。
イオディールとカインは一言二言、言葉をかわし部屋を出て行く。その時、イオディールが私を見て、少し頷いた。そのアイコンタクトは「ミッションクリアしたな」という風に感じた。うん、とりあえずクリアできた。よかった!
ぎゅるるるるるるる。
安心した途端、私のお腹が鳴った。
それを聞いてソニアちゃんが「あ!」と言って笑う。
「もうすぐお昼の時間ですね。ランチ作ります!」
「ほんと! やったあ!」
「私も、美味しい紅茶を淹れます。とっておきのがあるんです」
「やった! ウメちゃん、楽しみ!」
そういって私たちもVVVIPの部屋を出る。
その時、水晶のことを思いだした。
水晶を見ると透明に戻っていた。あの「青」はなんだったのだろう……?
19エピソードまで読んでいただき、ありがとうございます。
“悪役令嬢”アーネは少し一段落ついたみたいです。エレメンティア学院を“平穏”に過ごせるのかな?
ウメちゃん、ソニア、イオディール、カイン、シグレイ、ダミアン
書いていくうちにどんどん愛着が湧いてきます。
読んでいる方に、ひとりでも推しキャラがいると嬉しいです。
いま続きを書いていますが、さらに愛が深まりますように。
2025年大晦日 いわてかいわれ




