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18/19

18.この国の「権威」と「権力」に睨まれて、私は走馬灯を見てしまいました

【作者“いわてかいわれ”の、内容とは関係ないミニコメント】

 年末ですね。みなさん、もうお正月休みですか? 学生さんは受験の最後の追い込みだと思います。

 私は死ぬほど勉強して、死ぬほど心が折れて、真っ白になって受験に失敗しました。

 その失敗は今の糧とはなっていますが、トラウマとして今も残っています。夢に見るほどです。

 受験生、がんばれ! 今こそがんばれ!

 お悩みがあれば、コメントに書いてもらえるとお返事します。

 おそらくVIP以上のVIP、VVVIPしか入れない部屋。

 その真ん中にある円卓にはおじさん2人。その近くに私とウメちゃん、ソニアちゃん、イオディール、カインが立っている。私以外は不自然なほど直立不動だ。

 それもそのはず、おじさんズの1人はエレメンティア国の「心」であり「権威」であるアビゲイル大司教、もう1人はエレメンティア国の「体」であり「権力」であるクリフ・ローズウッド大帝だからだ。


 イオディールは膝をつき、右手を胸に当て、礼をする。

「お久しぶりです、クリフ大帝」

 私たちもイオディールにならって、頭を低くし挨拶をする。

「学院生活を楽しんでいるようだな、イオディール」

 クリフ大帝がイオディールに言葉をかける。低く響く声が私の体まで震わせる。「イオディール、お前ヤンチャしてるみたいだな」というニュアンスが入っている感じだった。イオディールもそれを感じ取ってか、体をカチコチにしたまま、

「日々勉学にいそしんでおります」

 と答える。その四角張った真面目っぷりにクリフ大帝は苦笑する。

「私は自由に楽しんでほしいんだ。お前はここの生徒だ。アストリア家の当主としてやらねばならぬことはあるが、最小限でいい」

「ありがとうございます。しかし少しでもクリフ大帝のお力になればと」

「なにを。もう十分に力になっている。力になりすぎて私の仕事がなくなって困るぐらいだ」

 といって歯を見せ笑った。その歯はクルミを殻ごと食べちゃいそうなほどひとつひとつが太く強く、さすが大帝と私はへんなところで感心した。

 これがエレメンティア国の「体」かあ。そしてイオディールもその「体」の一部になっているのだろう。


 ウメちゃんの言ったことを方程式のようにまとめる。

 まず

 「クリフ大帝」=「体」=「権力」

 そして

 「イオディール」=「体」の一部

 この式を1つにまとめると

 「イオディール」=「権力」の一部


 私は「権力」の一部とケンカをし、婚約破棄です!とタンカを切ったのか。 そりゃ水晶も赤く光るわな。


「お前が、アーネ・パリサンダーか」

 油断していたらクリフ大帝が私を見ていた。

「はい。お目にかかれて光栄でございます」

 あわててカーテシーをする。わざわざ無礼を振る舞ったりする迷惑配信者のようなメンタリティを私は持ちあわせていない。

「こやつは私になかなかのことを言ってきてな」

 アビゲイル大司教が長いあごひげを触りながら話す。

 ちょいまて。私は「権威」からすでに退学処分をくらっている。このうえ「権力」からも嫌われたら、3回ぐらい転生しても死亡フラグはピンピンに立ったままになっちゃう。

「ほう、それはどんな?」

 クリフ大帝は興味深そうに大司教に聞く。

 アビゲイル大司教はにんまりと笑う。

「結婚ぐらいで世界が平和になると思うな、といったのだ」

「それはなんと!」

 クリフ大帝は芝居がかっているのかというぐらい体を大きくのけぞらせた。

 終わった。でもまだ諦めない!

「失礼ながら、私はそんなぶっきらぼうないい方ではしておりません」

 なんとか転生3回のところを2回ぐらいにできないかと言い訳をした。

「アーネ嬢、そんなことをいったのか」

 カインがカットインして私に話してくる。そのマスクはショックで割れそうだった。ウメちゃんもソニアちゃんも半ば白目になっており、イオディールはうなだれるようにうつむいた。

「そういうことを言ったんだな」

 クリフ大帝が私の言動を抑え直すようにゆっくりという。厳しい顔だ。


 こーれはマジで死んだな。こんな短期間で2回も死ぬのか。

 次はどこへ転生するのか。いや転生できただけでラッキー。次は無間地獄か暗黒世界か。

 私は顔を引き締める。そしてあることを思う。


 ――最期なら、自分らしく生きよう。


 「転生前」のアーネ・パリサンダーもそう生きていた。私が来る前から、彼女はまっすぐ生きていた。

 いま、私は彼女と一緒に生きているから分かる。


 この世界はいろんな権力闘争、派閥争いがある。

 その権力がいま目の前にある。

 そして権威は私をこの学校から追放した。


 私がなにをしたの?

 化学派と魔法派が戦争していたなんて知らないよ。

 その戦争をおさめるためによく知らない人と結婚するなんて、やってられない。イケメンだけど性格悪いし。

 別にイオディールのことを憎んでいるわけではない。悪口は……ちょっと言ったかもしれないけど、彼を貶めたことはない。


 私は小さい頃のことを思い出した。小学生の時、通っていた剣道場で試合をした。私は何回も綺麗なメンやコテを入れたが審判は取ってくれなかった。相手の男の子はやみくもに竹刀をふって私の肩や防具のない二の腕を叩いた。

 そして彼の竹刀が私の左耳に当たる。キーンという音と激しい痛み。そんなところに竹刀を打ち込むなんて普通ない。わざとだ。私はとっさに間合いをとって、左耳をかばう。

「メン有り」 

 右耳から「メン有り」の声が聞こえた。

 審判を見ると赤い旗があげられている。相手の色だ。そして「それまで」の声。

 私は痛みをこらえながら、開始線に立ち、蹲踞そんきょをしながら竹刀を収め、立って後ろ歩きをして、礼。きちんと礼法を行い、試合を終えた。そして審判のところへ行き抗議をした。審判といっても道場内の練習試合。審判は道場の先生だ。

「先生、どこがメンだったんですか!」

 私は面を付けたまま先生に言った。耳の痛みがメン有りではないことを教えてくれる。耳のところに打撃を入れてもメンにはならない。しかし審判の先生は厳しい目で私を見る。

「メンが入っていた。打たれて分からないのか?」

「分かります! 打たれてません!」

 私は、剣道が特別うまかったわけではない。でも剣道が大好きだった。夏になったら防具が暑いとみんな言ってたけど、私は面を外し、頭に巻いた手ぬぐいも外すと手ぬぐいで止まっていた汗が顔に流れ、それを拭くのが大好きだった。冬の道場はみんな寒いって言うけど、あの凜とした空気が大好きだった。

 試合に負けて悔しくても、相手の上手さに感動し、それを越えようと次の日また練習した。

 私の夢は武道館だ。私の好きなアイドルも武道館を目指しているけど、私も剣道大会で武道館に立つのが夢だった。そのためならどんな辛いことも頑張れる。

 でもこの試合は、ただ悔しいだけだ。負けた理由をあげるなら、相手の親がお金持ちで道場にたくさんお金を寄付しているということ。こんなこと考えたくもないけど、それぐらい理不尽な判定だった。寄付することは悪くない。だけどそれを忖度して相手を勝ちにするなんて納得できない。許せない。

 だけど先生は私を無視して、次の試合を始めようとする。でも私は必死に抗議を続けた。

「うるさい!」

 そういって先生は私を突き飛ばした。私は尻餅をつく。でも誰も助けてくれない。

 先生の向こうで、対戦相手の男の子が舌を出し、ガッツポーズを見せてくる。

 私は防具をつけたまま道場を出た。面を取ると泣いている顔を見られるからだ。

 その道場を、私は辞めた。


 じん、と左耳が痛む。

 そうなんだ。私は理不尽なことが大嫌いなんだ。

 「権力」に潰されたあの日。

 剣道が嫌いになったあの日。

 そのあといろいろあって、また剣道を続けることができたんだけど、それより今、私の目の前で、「権力」と「権威」によって理不尽が通されようとしている。


 自分らしく生きよう。自由に生きよう。


「私が婚約破棄をイオディール様に言ったことは事実です。しかし化学派と魔法派の争いをなくすために私は結婚したくありません。イオディール様が憎い、化学派が憎いわけではありません。そのやり方が気に食わないのです」

 あ、後半は現世の私がでちゃった。

 私の物言いが不遜だったのか、大司教も大帝もイオディールたちも全員私を黙って見ている。

「本当に平和をもたらしたいなら、化学派と魔法派がきちんと融和すべきです。私は化学派だの魔法派だの、そんなフィルターを通して人を見ていません。イオディール様は、ちょっと意地が悪いけど、真面目な人です。カイン様は“イオディール様ファースト”過ぎるけど、頭が良いです。ソニアちゃんはかわいい上に最高においしいごはんを作ってくれる。ウメちゃんは最高にカッコいいし、あったかいし、誰よりも頼りになる。私が男子だったらウメちゃんと結婚したいくらいです」

 ウメちゃんは驚いて「結婚という言葉は」とささやく。そうか、婚約破棄の話したあとにウメちゃんと結婚したいという発言は、いろいろめんどくさいことになっちゃうか。そのあとウメちゃんはさっきよりさらに小さい声で「ありがとうございます」といってくれた。

 そしてウメちゃんはかがんだまま私より少し前に移動し、大司教と大帝を見る。鋭く、瞬きをしない目。私になにかあったら守ろうとしてくれている。

 背中に温かい感触。振り返るとソニアちゃんがいた。「私も味方です」と言って、私の前に移動する。私は、ちょっと泣いた。


 涙を拭き、立ち上がる。

「私が退学になっても、だれも憎んだりしません。ただひたすら、魔法派と化学派が仲良くなるため頑張ります」

「どうがんばるのだ?」

 大帝は表情なく言葉を発する。それがさらに怖さを増したが、負けられない。

「わかりません。でも絶対に、今ここにいるウメちゃんとソニアちゃんは守ります」

 ウメちゃんとソニアちゃんが「アーネ様」と呼び、立ち上がった。

「アーネ様を守るのが私の使命です。それはご存じですよね」

 とウメちゃん。

「私、アーネ様がいなくなるのは嫌です。アーネ様がいるから私は学院生活に色彩があるのです」

 とソニアちゃん。

 「私は、大丈夫だから」と2人にいいながら普通に泣いてしまった。


「策もないのにグダグダと」

 イオディールが立ち上がって私を冷たく見る。カインも立ち、イオディールの斜め後ろから私たちを見た。

「策はないけど、でも正直に生きたいだけです」

「その“正直”な行動、貴様の正直な気持ちが『婚約破棄』という言葉になったのだな?」

 イオディールは私の答えを待っていた。

「そうです」

 水晶がなお赤く、そして熱を帯びていた。

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