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17.VVVIPルームに入ったら、おじさん2人が楽しそうに話していました

「ついてこい」と言われたのでイオディールの後ろについていく。方向的には教室がある方向とは真反対だ。

 昨日今日ぐるぐると呼び回されてエレメンティア学院の位置関係がなんとなく分かってきた。


 学院を東西南北で簡単にエリア分けすると、南が教室エリア。西に女子寮、東に男子寮、真ん中に大講堂。北には生徒会がある。で、生徒会を中心に西は化学派、東は魔法派のエリアだ。この魔法派エリアにシグレイがいた魔法会議室があった。

 そして生徒会エリアのそのさらに北にVIPエリア、イオディールがいた執務室がある。そこから建物を出て、渡り廊下を渡ったところに独立して大聖堂がある。アビゲイル大司教に退学を言われたところだ。

 ちなみにエレメンティア学院の建物の外にはピクニックができそうな広大な芝生がある庭や、鳥の声が聞こえる小さな森がある。大聖堂の渡り廊下を渡るときもシジュウカラのようなさえずりが聞こえた。夜にはコノハズクの鳴き声も聞こえる。結構自然に囲まれていて嬉しい。まだまだ見てないところ、遠いところに畑とかあるのかもしれない。芋掘りとかいきたいなあ。

 あと学院の外、北東あたりに訓練場や馬術場などがある。そこからVIPエリアのさらに北にとてつもなく大きく高い建物があるのが見える。その建物はレンガのように整えられた石がみっちりと積み上げ作られている。難攻不落のお城のようだ。

 エレメンティア学院には他にも見張り台みたいな高い塔が建てられているが、それとは比べものにならないぐらい大きい。敵が攻めてきてもなんなく跳ね返せそうだ。

 その難攻不落の建物がある方向に進んでいるなー、と内心思っている。そしてそこにはろくなもんじゃない事が待っているんだろうなーと思う。VIPは“Very Important Person”、つまり超重要人物ってことだけど、じゃあこんだけ難攻不落の建物にいる人はべりーべりーべりー・いんぽーたんと・ぱーそん、略して“VVVIP”がいておかしくない。

 私は死亡フラグ確定ぱんぱかぱーん状態なので、もはや他人事のような感じだが、ウメちゃんは緊張で動きがかたいし、ソニアちゃんは今にも泣きそうだ。この2人に迷惑は絶対かけたくない。2人の背中に手を回して歩いた。


「着いた」

 イオディールが小さく言った。

 扉は地味だが重厚で、これがなおのこと“難攻不落”感を出している。そしてその扉の両脇にはエレメンティア騎士団が守衛している。

 この中にいる“VVVIP”は誰なのか? まあ予想はついているけど。

 騎士が扉を開ける。そこには大広間が広がっていた。壁にゼウスやヴィーナスや天使が裸でダンスをしているような絵があるかと思ったら、木造の部屋だった。でも部屋に入る前の壁は石造りだった。石壁の前に木を組みたてているのだろうか? それはそれでお金が掛かってそうだ。


 で、その真ん中にある円卓にはおじさんが2人いた。

 予想通り。アビゲイル大司教とクリフ・ローズウッド大帝だ。

 この国には大帝という存在はいなくて、いたのは皇帝だった。このクリフ大帝も前はクリフ「皇帝」だったらしい。でも聖域戦争を終わらせた名君ということでクリフ「大帝」と呼ばれるようになったとのこと。ここにくる途中、ウメちゃんが教えてくれた。

 そのウメちゃんは、さっきより具合が悪そう。緊張を通り越して表情が陶器のようにカチカチになっている。ソニアちゃんもそうだし、カインもそう。傲岸不遜のイオディールでさえも緊張しているのが分かる。胸元にある水晶が真っ赤っかに光っている私が一番リラックスしている。水晶があまりにも赤く光りすぎて、これは水晶ではなくルビーなんじゃないかと思うぐらいだ。

 アビゲイル大司教も「大」司教とついているからすごくエラい。アビゲイルも宗教の面から、争っていた人々の「心」を繋げていった。


 アビゲイル大司教はエレメンティア国の「権威」、クリフ大帝はエレメンティア国の「権力」だという。

 これもウメちゃんに聞いたんだけど、権威と権力の違いがいまいちピンと来なかったのでどういうこと、と聞くと、

「エレメンティア国にとって、アビゲイル大司教様は『心』、クリフ大帝は『体』のようなものなのです」

 と教えてくれた。さすがウメちゃん、わかりやすい。

 つまりいまこのVVVIPルームにはエレメンティア国の「心」と「体」が一緒にいる。なかなかえげつない状況だ。だってここに「エレメンティア国」そのものがあるといえるのだから。

 思えばクリフ大帝直属と思われる深紅の騎士もここにくるまでにそこかしこにいた。すごい厳戒態勢だ。


 でもさ。そのエレメンティア国の「心」と「体」が、なんか大爆笑しながら話しているんだけど。普通のおじさんが仲良くお話ししてる。目の前に置かれているティーカップに紅茶ではなくお酒が入っているんじゃないよね?


「あの、すみません」

 私が大司教と大帝に話しかけると、イオディールたちがビクッとなる。

 イオディールが私に鋭い視線で刺す。

「大司教と大帝が歓談中だ。話が終わるまで待て」

「なんで? 偉い人だと分かってるけど、おじさんの話って長くなりがちじゃない」

「おまえっ……」

「見てよ。なんか勝手に盛り上げってるし」

「不敬な! その口を閉じろ」

 といってイオディールは私の口を手で物理的に押さえた。

「く、くるひい」

「静かにしろ。命が惜しくないのか」

 命は惜しいけどと言いたいことがある。その前に口をがっちり抑えられてまともに息ができない。声を出したいけど息の逃げ場さえない。

 まず言っておくけど、別に死亡フラグを折ることを諦めたわけじゃない。

 自分は「田口盛夏」ではなく「アーネ・パリサンダー」として生きるしかないということも分かってる。

 そしてちょっとずつ「アーネ・パリサンダー」がどんな子かも分かってきた。“彼女”は悪役令嬢かもしれない。でも自分らしく生きていくという信念が彼女にはある。それがある人にとっては「純粋」に、ある人には「わがまま」に、またある人には「暴力」に、そしてイオディールには「不敬」と見えている。


 でもね。「でもね」ばっかりいってるけど、でもね。

 目の前でおじさんが仲良く話しているのって、なんか萌えるのよね。エモいのよ。これは現世の“田口盛夏”の時はなかった感覚。パパはアウトドア人間で釣りの話を近所の人とよく話していた。現世にいたときは「よく魚の話でそれだけ長々と盛り上げれるなあ」とか、アジとかタイとか釣りにいってたけど全然釣れなくて「魚屋で買った方が安くて大きいのに」なんて思ってた。

 いま大司教と大帝が話しているのを見て、朝から釣りの準備をしてウキウキだったパパもよかったな、なんてちょっと思う。

 ――あれ? なんでそんなこと思ってるんだろう?

 現世がなつかし…………――――


「おい! アーネ!」

「……ん?」

 寝落ちした感じで意識が飛んでいた。

「アーネ様、大丈夫ですかっ?!」

「なにが?」

 私はなんのことかさっぱりわからないが、ソニアちゃんが私を見て泣いている。ソニアちゃんってこんなに背が高かったっけ? と思ったら、私が跪いているだけだった。

「アーネ様を殺す気ですか」

 ウメちゃんがイオディールにすごむ。そしてイオディールはそれに反発するわけではなく、謝る。

「すまない。つい力が入ってしまった」

「口をあんなに押さえつけるなんて、窒息死寸前でしたよ!!」

「イオディールも謝ってる。抑えてくれ」

 カインが間に入って収めようとしていた。

 イオディールは私が喋るのをやめさせるために口を押さえていたけど、力が入りすぎて私の呼吸を完全に止めていた。

 ……おい! マジで殺しかけてるじゃない! 命が惜しくないのかといっていたあんたが殺しに来てるじゃない! ということはあれか!? 私が見たパパの釣りの思い出は走馬灯だったのか!? 


「なにごちゃごちゃやっとる。はやくこっちに来い」

 大司教がフランクな口調で声を掛けてくる。さっき大聖堂で会った時は威厳ある感じだったが、いまは私たちに崩した言葉づかいで話しかけてくる。クリフ大帝がいるからだろうか?

 おじさん2人が私たち5人に「こっち来い」と手招きをしている。

 私以外は体をぎこちなく動かしながら、私は酸欠でふらふらしながら歩き始めた。

読んでいただきありがとうございます!

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