16.学院に大司教だけじゃなく、大帝までやってきちゃいました
大講堂はぎゅうぎゅうだった。いつもだったら生徒が整列しているけど、警護の騎士以外の人はこの大講堂に集まっているから整列しようがない。現世での満員電車を思い出した。
一体何事だろうとそこかしこで言っているのが聞こえる。
ウメちゃんに聞くとそもそも「緊急招集の鐘」を聞くのが初めてらしい。私は防災訓練みたいなものなのかなと思ったが、アビゲイル大司教も何事という顔をしていたので訓練ではないのだろう。
壇上横の扉が開く。そこから深紅の甲冑を着た兵士が4人出てきた。その瞬間、ざわついていた大聖堂が静まりかえった。
「あの制服は……」
ウメちゃんは口に手をあてて驚いている。
深紅の兵士2人は扉の横に。残りの2人は演壇の両脇を固めた。
そして扉から深紅の軍服を着た男性がマントを翻して入ってきた。
年齢は50歳ぐらい? 身長は180cmは軽くありそうで、軍服越しでも筋肉ムキムキなのが分かる。顔は日に焼け褐色で、髪は銀の短髪、口元には整えられた白く短いひげが印象的だった。
「大騒ぎになってすまんな。お忍びで来たつもりなのだが」
そういって渋い低音ボイスで笑った。
(お忍びって、そんな派手な格好したらバレるでしょうよ)
私がぼそっといったらウメちゃんが「アーネ様」と私の口を手で押さえた。
まわりを見ると、筋肉オヤジジョークに笑っている人は誰もいない。みんなまったくの無表情だった。それはそれで冷たくない?
「私のことを知らないものもいると思うので、名を名乗ろう」
筋肉オヤジは咳払いをする。
「私は、クリフ・ローズウッド大帝だ」
え? 大帝? まじ? 大帝って、皇帝より多分上だよね?
大司教の後は大帝に会えるなんて、なんて日だろう。
その後、クリフ大帝がなにを言ったかまとめると「ここにいる人間はエレメンティアの未来を担う人間だ。頑張ってくれ」
以上である。それだけ言って、去って行った。
話を聞いていたら、本気でお忍びで来たつもりらしい。赤い軍服のような服に、いかつい護衛たちに囲まれて、どうして忍べると思ったのだろう?
クリフ大帝は混乱を起こしてはいけないと思って、「俺、学院に来てるよ。だから生徒のみんなに挨拶にしにきたよ」ぐらいのノリっぽかった。それを迎える学院側の人間は大慌てで、大講堂に多くの大人が出入りしている。
ゴーン、ゴーンと鐘が鳴る。大講堂の鐘がなった。この鐘もそこそこ大きい音がするのだが、さっきの緊急招集の時とはデシベルが違う。
この鐘の音は解散の音らしい。それぞれ緊張から解放され、「初めて生大帝見たよ」みたいなことを言いながら、おのおの大講堂を出て行った。
私たちも部屋に帰ろうと、ウメちゃんと一緒に大講堂を出る。
その時背中にぞくっと悪寒が走った。
「アーネ嬢」
後ろから声。振り返ると、イオディールがいた。この大混雑の中でなぜ私を見つけられる?!
イオディールは私のびっくりした顔をスルーする。
「私についてこい」
「なんで?」
もう私はあなたの婚約者じゃない。エレメンティア学院の生徒でもない。友達でもない。まったく関係ないのだ。
「理由はここではいえない。混乱を招く」
「では私はここで」
とウメちゃんが帰ろうとする。待ってウメちゃん!と言う前にイオディールが止めた。
「ウメ嬢、あなたにも来てもらいたい」
「私もですか?」
「そうだ」
「……かしこまりました」
ウメちゃんもよく分からないまま了承した。
イオディールを見ると当然のごとくマスクの男・カインがいた。さっきまでいなかったのに。
そのカインの後ろからちらちらと栗色の髪がのぞく。
「ソニアちゃん……?」
「アーネ様ぁ」
アーネが飛び出して、私に抱きついてくる。不安で今にも泣きそうになっている。
「どうしたの?! マスク男に変なことされた!?」
ソニアちゃんはゆっくり首をふる。そして私をぎゅっと抱いた、
「失敬だな」
カインが一瞥する。マスク越しなんだけど、雰囲気でわかる。
「行くぞ。ついてこい」
イオディールは私たちの返事を待たずどこかへ歩き始める。
私たちはイオディールの後ろをついていった
朝食のいざこざがあったので、金輪際イオディールと話すことはもうないと思っていた。彼も私と話したくなかったと思う。
それでもイオディールは私に声を掛けた。
そしてどこかに行こうとしている。彼にとって嫌なことをしてまでも。
……絶対いいことは待っていないよね、それって。




