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15/19

15.これ以上のピンチはないと思っていたら学院長兼大司教に呼び出しをくらいました

 ソニアちゃんの朝食を食べて元気いっぱいなのに、イオディールにいろんなものを突きつけられて、なんだか船酔いをしているみたいな気分。部屋に帰ってきたけど椅子に座っているのが辛くて、ベッドに横になった。

 ウメちゃんが心配そうにベッドの横に座る。

「大丈夫ですか? アーネ様」

「大丈夫。ウメちゃんも顔色悪いよ。自分の部屋に戻って大丈夫だから」

「ご心配にはおよびません。ありがとうございます」

 そういって微笑んだ。その笑顔に、ちょっと疲れが見えた。

 ソニアちゃんと一緒に寮に戻ってきて部屋の前で分かれたが、ソニアちゃんも結構しんどそうだった。せっかく美味しい朝食を作ってくれたのに、台無しにしちゃった……。ちょっと休んで元気が戻ってきたら会いに行こう。


 ガンガンガンと音が響く。いつの間にか眠っていたらしい。ウメちゃんもベッドに持たれて寝ていたらしく、目がうつろだ。

 またガンガンガンと音がする。扉を叩く音だ。なに? そんなに強く扉を叩いたら壊れちゃうよ。

 ウメちゃんは少し崩れた服を直しながら扉の前に行く。

「どなたですか?」

「エレメンティア聖騎士団だ」

「? エレメンティア騎士団?」

「扉を開けたまえ」

 ウメちゃんは“エレメンティア騎士団”の名前を聞いて少し動揺している。

 国名の「エレメンティア」の名がついている騎士団ということは、相当エラい騎士団のだろう。

 ウメちゃんが扉を開けると、全身銀色の甲冑姿、まさに騎士!といった人が2人立っていた。

「あなたがアーネ・パリサンダー様ですか?」

 ウメちゃんは、違いますという。かといって私の名前を出さない。私がなにかに巻き込まれるのを直感して、かばってくれているのだろう。

 私はベッドから起き上がり、騎士の前に立った。

「私がアーネ・パリサンダーです」

「アーネ様」

 ウメちゃんが私を手で制しようとするが、大丈夫と頷く。別に何も悪いことしてないし。

「エレメンティア騎士団がなんのご用ですか?」

「アビゲイル大司教様がお呼びです」

「あ、アビゲイル?」

「申し訳ございません。少々お待ちを」

 ウメちゃんは私がアビゲイル大司教のことを知らないことを察して、腕を引っ張って部屋の奥に連れて行く。

「ソニア様、アビゲイル大司教様はエレメンティア学院の学院長であり、エレメンティア正教のトップの方です」

「エレメンティア正教のトップって……とってもエラい?」

「とってもエラいです。この国の“最高権威者”です」

「それがなぜ私に?」

 といってが思い当たる節はある。婚約破棄だ。大司教にまで耳に届いたのだろうか?

「もうよろしいか。大司教様が待っておられる」

 騎士が私を急かす。

「わかりました」

「私も随行してよろしいでしょうか?」

 ウメちゃんが私の後ろにぴったりくっついて、騎士にいう。

 騎士2人は顔を見合わせる。

「まあ、入り口前までならいいだろう」

「ありがとうございます」

 ウメちゃんは深々と頭を下げた。ごめんね、ウメちゃん。いつも迷惑ばっかりかけて。


 連れられたところは、エレメンティア学院のさらに北、大理石作りも大きなドーム状の建物だった。ウメちゃんにここが大聖堂ですと教えてくれた。

天井は高く、大きな声を出せばあたりに響き渡りそうだった。柱はロココ調かバロック調かよく分からないがそういう感じで、壁や天井には宗教画っぽいものが描かれている。

 扉の左右には騎士が立っている。私たちを連れてきた騎士がカシャンと剣を右手に持つ。すると扉の騎士がかかとを鳴らし、扉の方に向く。そしてゆっくりと扉を開けた。

「私はここまでです。この奥にこの国の『権威』アビゲイル大司教様がおられます」

「権威?」

「はい。ですが遠慮なく……もし何かありましたら躊躇なく私を呼んでください」

 ウメちゃんは私を見てうなづいた。ありがとう、行ってくるね。


★★★★★★★★★

 私は大聖堂の奥の部屋に入って私はさらに驚いた。

どういう作りになってるのだろうか? 天井横の窓すべてから光が差し、中央の机(祭壇とかいうんだろうか)、そこに光が集まっている。

 なにより驚いたのはその祭壇にいる大司教だ。

 体は2メートルはあると思う。そしてゴリゴリのマッチョだった。長い帽子を被り、白い祭服を着ている。服は胸筋で盛り上がり、祭服から出ている腕は除夜の鐘で突く棒の3つ分ぐらい太い。

 少しシワが刻まれた顔にダークブラウンの目、そして口とあごにはサンタさんのような白いヒゲがたくわえられていた。

 宗教のトップっていうけど、軍隊のトップの間違いじゃないだろうか? 腕をぶるんと振っただけで10人ぐらいなぎ倒せそうだ。

「アーネ・パリサンダーだな。近くに参れ」

 私は祭壇に向かって歩いて行く。

 後ろで扉が閉まる音が聞こえる。振り向くと、ウメちゃんは扉の向こうで見えなかった。

 祭壇に続く廊下の左右には、騎士団が槍を持って立っている。威圧感すごい……。

 私は祭壇の前に立つ。

「アーネ・パリサンダーです。初にお目に掛かります」

 そういってカーテシーをした。

 近くにくると大司教の迫力はなおさらだ。山脈みたいだ。

「アーネ、あなたはイオディール・アストリアの婚約を一方的に破棄したみたいだな」

 ……一方的? その言葉に引っかかった。

「大司教様、お言葉ですが一方的ではありません」

「……どういうことかな?」

 低い声が私の体の中から震わせる。

「この離婚破棄は、私とイオディール様、2人の意志です。イオディール様は私との結婚を求めておりません」

「それはそうであろう。この結婚は“和平条約”だからな」

 また出た。和平条約。

 大司教は白いあごひげを触る。

「私は魔法派でも化学派でもない。中立な存在だ。だからこの2つが和睦することは聖職者としてとても幸せに感じている。聖域戦争であまりに多くの人が死に、多くの人が苦しんだ。私はその争いを止めた」

 ……うん? この大司教、自慢話してる? でもそれだけの戦争を止めたのなら立派なことか。あのマッチョだったら力尽くで止められそうだ。

「そしてこの平和を永いものにするため、魔法派と化学派の若者が婚姻をし、和平の象徴とする。18歳になれば結婚もできる。私が司祭として2人の結婚の証を与え、国を挙げて祝福する。私の求めていた平和なる世界だ」

「結婚で平和になるのはいいですが、私の気持ちはどうなるのですか?」

 私はつい反論してしまった。アビゲイル大司教は静かに言葉を返す。

「あなたの気持ちは関係ない。平和が最も尊い。イオディール・アストリアも平和の尊さを知っている」

 確かに、この結婚に好きとか嫌いとか関係ないみたいなことをいっていた。でも私は納得いかなかった。だから婚約破棄を申し出たのだ。


 大司教は私を見据える。

「アーネ・パリサンダー、エレメンティア王立学院の退学を命ず」

「……え!!?」

「婚約破棄をした罪は重い。そして破棄したあなたと、イオディールが同じ学院にいることはまかりならぬ。

 即刻学院から出て行き、パリサンダー家に帰りなさい」

 胸の水晶が、今までの中で一番赤く光っている。熱さを感じるぐらいだ。

 完全なる死亡フラグだ。大司教の威圧からして返すのはなかなか困難かもしれない。

 だったら、いうだけ言ってやる。

「なぜ私だけ退学なんですか!」

「なぜ?」

「さきほども申し上げましたが、婚約破棄をしたのは私の一方的なものではありません。イオディール様も婚約破棄を求めているはずです」

「それはにわかに信じがたい。イオディールは自分より和平を望む人物だ」

「そんなことはありません!」

「それは本当か?」

「本当……だっけ?」

 イオディールは愛がなくても結婚はするみたいなこといってたような……。

 その時の気持ちがよみがえってきた。

「そう! 彼は私のことをスパイ呼ばわりをしたのです。そして私の大切な友達も同じく疑いました」

「それがどうしたというのだ?」

 大司教は表情をひとつも崩さない。

 私の気持ちは関係ない。

 きっとイオディールの気持ちも関係ないのだろう。

 和平条約、それが彼の一番大切な物。

 聖域戦争で苦しんだ人々を助けるための答えなのだろう。

 これまであった現実が自分に押し寄せる。

 なんか、体中の力が抜けた。

「――大司教様、退学の件、承りました。これはきっと“死刑宣告”と同じなのでしょう」

 この国の「権威」のトップに「退学」を言われた。

 それは「権威」で守られている学院の外へ私は弾かれたということだ。私は“神のご加護”を受けることはできない。

 だったら――

「最後に申し上げます。結婚ぐらいで世界が平和になると思わないでください。結婚を破棄し、大司教から退学を命じられ、私は茨の道を進むでしょう。でも私は生きることは諦めない。そのことは覚えておいてください」

 私は大司教を力強く睨んだ。

 私の後ろにいる騎士が動く。振り向くと、騎士全員が私に槍を向けていた。

「やめなさい」

 大司教の一言で騎士は槍を戻す。

 大司教は少し困惑しているようだ。

「アーネよ、あなたはこの結婚を望んでいたではないか。何があったんだ?」

 そうか。このゲームの世界に入るまでの“アーネ”はイオディールとの結婚を切望していた。でもこの数日、私が“アーネ”になってから状況は一変した。

「何が理由があるのか? さきほどいった“大切な友達”と関係があるのか?」

「関係ありません」

 つい感情にまかせて、ソニアちゃんのことまで言ってしまった。私のせいでソニアちゃんまで退学にしてはいけない。

 胸の水晶が赤く皓々と光っている。

 私が死んで、ソニアちゃんとイオディールが結婚するルートに入っちゃったのかな。それはそれでいいか。

 かといって、私も簡単に死ぬわけにはいかない。2度も死ぬのはごめんだ。

 実家のパリサンダー家に帰るフリをして、違うところに逃げようか。たしかレベルティアという第三勢力があるみたいなことをいっていたな? そこに逃げ込もうかしら。

 なんて思っていたら、ガランガラン、ガランと鐘の音が鳴る。大聖堂のてっぺんに鐘があるのだろうか、その真下にいるので大爆音だ。びっくりしていたら、大司教もビックリしていた。

鐘は2回鳴って1回、2回鳴って1回を繰り返す。ガランガラン、ガラン。ガランガラン、ガラン。

「これは……」

 大司教は眉をひそめ、怪訝な表情をする。

「さがってよい」

 そう言い残して大司教は正面横にある扉から出ていった。

 さがってよいといわれたので、また騎士の間を通って大聖堂を出た。

 扉を開けると泣きそうな顔をしたウメちゃんがいた。


「ご無事でしたかー!」

「まあ、あんまりご無事じゃないんだけど、この鐘がなったとたん、大司教様はどこかにいっちゃった」

「これは緊急招集の鐘です。エレメンティア学院の人間全員が大講堂に集まれという合図です」

 まわりを見ると、みな小走りで急いで大講堂に向かっている。

「アーネ様、向かいましょう」

 ウメちゃんはそういって私の手を取って連れて行く。

 私、退学になっちゃったんだけどなあ、と思いながらもウメちゃんについていった。

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