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14.朝食で化学派の王子と側近につめられました

 いいお天気。青い空、白い雲。2羽の小鳥が一緒に飛びながらさえずっている。

長さが整えられた美しい芝生にテーブルに私たちはついていた。


「ごはんができましたよー」


 ソニアちゃんが朝食を持ってきてくれる。

 フレンチトーストに目玉焼き。焼いたウインナーにレタスとトマトとマッシュポテト。そこにウメちゃんがオリジナルブレンドの紅茶を淹れてくれる。

 最高でしょ? 最高じゃない。実際最高なの。どの料理も、紅茶も最高に美味しいの。


「これは……おいしい」

「はい……驚きました」

「ありがとうございます」

 そういってソニアちゃんが笑顔を向けているのはイオディールとカインだった。

私はこの2人が来ているだけで嫌なのに、ソニアちゃんとウメちゃんがテーブルについていないのが不満だった。ソニアちゃんたちの料理もないし、椅子さえもない。

「ソニアちゃん、ウメちゃん、一緒にご飯を食べよう」

「私は料理をするのが役割なので」

 ふたり、異口同音にいう。

「イオディール様、カイン様、2人からも食べるようにいって」

「ああ。私に気にせず、一緒に食べましょう」

「そんな、お気になさらず」

 イオディールの提案にまたも2人は異口同音に答えた。

 私はたまらず立ち上がった。

「イオディール様、カイン様、2人はソニアちゃんとウメちゃんの食事の準備をしてください」

「食事の準備?」

 なんのことだ?とイオディールは驚いている。

「ランチョンマットとかお皿とかカトラリーの準備です。あと椅子も持ってきてください。ソニアちゃんは自分たちの料理作っているんでしょ? イオディールたちを待っていたら冷めちゃうから、一緒に食べましょう」

「でも――」

「でもじゃない。食べるの」

 そういって私はキッチンに向かった。

「あ。キッチンどこだったっけ?」

 ソニアちゃんは苦笑しながら私と一緒にキッチンに行ってくれた。

 テーブルの準備に四苦八苦しているイオディールとカインにはウメちゃんがついて、手ほどきをした。


 丸テーブルを5人で囲んで朝ご飯を食べる。

 いざやってみると、なかなか良かった。青空の下の朝食はちょっとしたピクニック気分だった。

 食事が終わると、お皿をソニアちゃんとウメちゃんが片付けてくれた。「イオとカインにやらせましょう」と言ったが「そんな! これはやらせてください!」とソニアちゃんがかたくなに断った。

 ウメちゃんが食後の紅茶を淹れてくれる。飲みながら満足な気持ちが胸いっぱい、いや正確にはお腹いっぱいに広がった。

 キラリとなにかが光る。イオディールのバッジが朝日を反射していた。

 ふと、怒濤の昨日のことを思い出す。

 ソニアちゃんは私と会うまでどんな日々を過ごしていたんだろう。想像ことしかできないけど、ものすごく大変だったと思う。本当に「思う」ことしかできないのが悔しいけど。でもソニアちゃんはそんなことはおくびにも出さない。いつも笑顔だ。

 もしかして大変だって思う私の考え自体が間違っているのかもしれない。ソニアちゃんにはロジャー公というパパがいて、牛や馬や農作物に囲まれ、空と大地の恵みといっしょに育ってきた。私もいっしょにそこにいたかったな。そんなことも思う。

 あと、ひとつ気になっていることがあった。イオディールはロジャー公とソニアちゃんは血が繋がっていないと知っていた。魔法派のシグレイはというとそんなことは言っていなかった。そこまで調査が届いていなかったのだろう。

 化学派の方が情報網がすごいのだろうか? それともイオディールの権力がエグいから知っていることなのだろうか?

でも魔法派のシグレイはソニアちゃんの「後見人」のところが白紙になっているといったけど、そのことはイオディールは言っていなかった。そこはイオディールは掴んでいないのだろうか?

 ――ま、私はどちらが多くの情報をつかんでいようがどうでもよかった。

 そんなことよりソニアちゃんになにかお返しをしなきゃな。ソニアちゃんにいつも料理を作ってもらっている。そのお礼はなにがいいのか。そればかり考えていた。


「ソニア嬢、ウメ嬢、とても美味しかった。ありがとう」

 イオディールが軽く頭を下げる。カインも礼を言って頭を下げた。

 ソニアちゃんとウメちゃんは慌てて「とんでもないです」といって頭を下げた。

 イオディールは紅茶を飲み、ソーサーに置く。そして私を見た。


「シグレイに婚約破棄のことを言ったそうだな」

だよねー。その話もういってるよねー。イオディールならそれぐらいの情報つかめるよねー。

「まあ、つい。売り言葉に買い言葉といいますか」

 イオディールは大きくため息をつく。

「ことの重大さを分かっているのか?」

「魔法派と化学派の和平の証、ですよね」

「そうだ。その証がどれぐらいのものか、認識しておられるのか?」

 イオディールの淡々とした語り口が怖い。

「和平の証と言うことは、私と貴女が結婚すれば、戦争が起こらないのだ。ただの結婚ではない。私たちの婚姻は和平条約と同じ価値がある」

「そんな重い責任をなぜ私たちに?」

「自分たちは若い。結婚生活も長くなるだろう。その分平和も長くなる」

「……イオディール様はそれでいいんですか?」

 イオディールの目が少し揺らいだように見えた。数度まばたきをして、紅茶を飲もうとする。が、ティーカップが空だった。ウメちゃんがティーカップに温かい紅茶を注ぐ。イオディールはありがとう、といって紅茶を飲んだ。

「私の父上は、毎日戦いの日々だった。私の祖父もそうだった。その戦いで多くの人が死んだ。『エレメンティア戦争』……化学派と魔法派の領域を争ったことから『聖域戦争』ともよばれているが、100年以上続いていたその戦争を父の代が止めてくださった」

「100年?! そんなに!?」

「聖域戦争の前に、各地で同時多発的に戦争が起きている。それも考えればもっと長くなる。化学派が生まれたときから戦争は始まったという歴史家もいる」

 イオディールはソニアちゃんを見る。

「ソニア嬢の家、シャンティ家のことを調べさせてもらったが、不明なところが多かった。その理由に戦争が関係しているのは間違いない」

 イオディールの「調べた」という物言いから推測すると、魔法派が持っている情報も掴んでいそうだ。そして確実に知っている情報――ソニアちゃんがパパと血が繋がっていないことを言わなかったのは彼なりの優しさだろうか。ソニアはスカートをぎゅっと握っていた。

「数少ない情報だが、ずっとソニア嬢が生活に苦しんできたのは間違いないことだ。その原因は『聖域戦争』だ」

 イオディールの言いたいことが分かってきた。

 婚約破棄をすると、また戦争が起きるかもしれない。

 もし戦争が起きたらどうなるのか?

 ソニアちゃんのように苦しむ人が増える。

 ――お前のしたことは、自分が大好きな友達を苦しめることと同義だ。

 私はなにかを言おうと思ったが何も言えなかった。

 イオディールが斜をむきながらいう。

「結婚さえしてくれればよかったのだ。お前が浮気しようがなんでも構わない。結婚さえすれば……せっかくそこまで平和が来ていたのに……俺が平和を作ることができたのに」

「そ、それは間違いだと思いますっ!」

 震える声。ソニアちゃんの声。私は彼女を見ると、体を恐怖で小刻みに震えていた。

「私は、結婚はそういうものではないと思います! そんな結婚で平和がくるなんて思いません!」

 ソニアちゃんは私のところに来てくれて、肩をそっと抱いた。

「私は貧しくてもお父様の愛をたくさんいただきました。この学院に来てからはアーネ様からたくさんの愛をいただいています。それだけで十分です。十分すぎます。これ以上アーネ様を責めないでください」

 私は肩に置かれたソニアちゃんの手に私の手を重ねた。


「事は常に進んでいる」

 隣でずっと黙って座っていたカインが口を開いた。

「婚約破棄のことはすぐに広まるだろう。こぼれたミルクはもうコップには戻せない。“婚約破棄”の破棄はもう不可能だ。イオディール様とアーネ様が持っていた和平の“ミルク”は、もうこぼれてしまったのです」

 ソニアちゃんが私の手を両手で握ってくれる。私は、震えていた。

 カインは姿勢を変えず言葉を繋ぐ。

「これはエレメンティア国全体を揺るがす大問題だ。そのためには私はどんなことでもする。化学派とイオディール様を守るためなら」

 私の肩にもうひとつの温かい手。ウメちゃんがそばに来てくれる。

 カインがソニアを見る。

「ソニア様、あなたの出自は化学派ですか? 魔法派ですか?」

「ま、魔法派です」

 分かっている、とばかりにカインが頷く。

「ならば、イオディール様と婚約すれば、化学派と魔法派の“和平条約”が締結される」

「そ、そんな! 私は……」

「そういう考えもあるということだ」

 ソニアちゃんが膝から崩れ落ちる。私は彼女のそばに座り、抱きしめた。

 イオディールは立ち上がり、私たちを見る。冷たい目。化学派のトップ。アストリア家当主の目だ。

「それぐらい大事が起きているということだ。肝に銘じておけ」

 イオディールは翻し去って行く。カインも一緒に去って行った。

 ソニアちゃんは2人の姿が見えなくなってから、泣いた。いろんな感情がない交ぜになっているかのように、波のように泣いていた。

 私は背中をさするしかなかった。

 そのソニアちゃんの背中が赤く光っている。

 いや、私の胸元にある水晶が赤く光っていた。



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