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13/19

13.魔法派のボスは、私だけでなくヒロインまで疑っています

「……アーネ嬢、あなたには他の疑いも持たれている」

「な、なんですか?」

「……ソニア・シャンティのことだ」

 私はシグレイから裏切りの疑いを持たれている。その原因がソニアちゃんだといわれた。意味が分からなかった。

「それはどういうことですか?」

 シグレイの代わりにダミアンが答える。

「……あなたはソニア・シャンティと急激に親交を深めておられる。そのソニア・シャンティは極めて異質な存在なのだ。そもそもエレメンティア学院に生徒が編入してくるという自体が異例なこと。だから彼女を疑っている」

 ダミアンが落ち着いたテンポで話す。

「……では彼女を学院に入るように便宜を図ったのは人物は誰か? いくら調べても分からなかった。彼女の後見人は誰か探したが、存在しなかった。父親がいるのにもかかわらず後見人になっていない。入学資料を見ても後見人の欄は『空白ブランク』なのだ。入学手続きの資料だけではなく、どの教師、どの関係者に探りを入れても誰も出てこなかった」

 ソニアちゃんがダミアンに追い込まれていくのがわかる。ダミアンはさらに続ける。

「……ソニアはどこから来たのか? それはシャンティ家の名前で分かった。父親がいるとわかったのもこの時だ。ソニアの素性を調べたが、父親・ロジャーが今住んでいる家に引っ越してきた時からそこに住んでいる確認されている」

「ならいいじゃない。素性がわかってるじゃない」

 私は反論したが、ダミアンがすぐさま打ち返してきた。

「どこから引っ越してきたのは不明なのだ。どこでソニアが生まれたのか確認できない。そして引っ越した先、今住んでいる場所も問題がある」

「そんなの、どこに住んでもいいでじゃない」

「そういうわけにはいかない。シャンティ家が居を構えたところは、かつて“レベルティア”が活動拠点としていた場所の1つだったのだ」


 ……レベルティア?

 初めて聞く言葉だ。この世界にレベルティア地方というのがあるのだろうか?

「あの……レベルティアっていうのはなんでしょう?」

「――え?」

 顔はよく見えないが明らかに困惑した声色だった。

 シグレイも同様……いや、明らかにバカにした顔だった。

「……本気で言っているのか? 『カオス・コア』の原因だぞ」


 …………カオス・コア??

 さらに知らない言葉が出てきた。

 カオスそのものの意味はよく分かる。たぶん、いま2人にとって今の状態はカオスだろう。そんなことをいったらゲームの世界に入ってしまった私の気持ちだってカオスだ。


「さすがにカオス・コアはご存じだと思うが……?」

 ダミアンがおそるおそる聞いてくる。

 もちろん私の答えは――

「知りません……なんでしょう? そのカオス・コアというのは?」

 シグレイとダミアンは顔を合わせ、うなだれた。何その反応? ダメな生徒を持った教師みたいな感じなんだけど?


 シグレイは、小さく「……ああ、そういうことか」と漏らす。何かを思い出したのだろうか?

「どうされましたか? シグレイ様」

「……アーネ嬢は水牛に跳ね飛ばされたことを思い出した。そのせいでバカ……いや記憶が飛んでしまったのかもな」

 ダミアンも頷く。

「なるほど。前からバカ……いや感覚的に生きている方だと思いましたが……納得がいきました」


 なんで納得するの! ちゃんとバカっていってるの聞こえているし!

 私は立ち上がって言いかえそうとする。シグレイは私を見上げるが、その目が赤くないことに気づく。

 胸元を見ると水晶から赤い光が消えていた。


 おい! 私が「バカ判定」されたら死亡フラグが折れるってどういうことよ! 水晶まで私をバカにして!


「……どうした? アーネ嬢」

 私が突然立ち上がったからシグレイが不審に思ったのだろう。

 私はスカートを持ち一礼をする。

「少々疲れました。私に疑いをもう持たれていないのであれば、帰ってよろしいでしょうか?」

「……まあいい」

 シグレイがOKしたので、改めて一礼する。

 ダミアンにも一礼しようと思ったが、彼はいつの間にか闇に溶けていた。なんとなく彼がいたところに一礼をする。

 私はきびすを返して扉に向かおうとしたら、シグレイに声を掛けられた。

「……アーネ嬢」

 私はシグレイの方を向く。

「なんでしょうか?」

「……あなたは化学派イオディール・アストリアの婚約者だ。その立場を存分に活用してくれ。化学派に不穏な動きがあれば報告するように」


 脳内でなにかがバチバチッとスパークした。

「なんでそんなことしなくちゃいけないの!」

 2mmぐらいシグレイが引いたのが分かった。

「シグレイ、あなた私のことスパイだといったよね! ダミアン! ああもう、よく見えない!」

 私はつかつかと歩き、シグレイの横を過ぎ、カーテンを開ける。落ちかけの夕陽は強く燃え、部屋の中を橙色に染めた。シグレイとダミアンの姿もビックリした表情もよく見える。

「ダミアン! あんたそういう顔してたのね! 人と話すときはちゃんと相手の目を見て話さしなさいって習わなかった!?」

 キュッとシグレイに視線をやる。

「あなたも同じ! 暗黒王子って呼ばれているらしいけど、それはあなたの肚が黒いってことなの?! さっき私にいったことは、私にスパイしてこいっていっているようなものじゃない!」

「……あれは軽口で――」

「軽口のわりには言っていることが重いの! いっちゃいけないことなの! だいたい私のこと、バカにしてたよね? バカはハサミは使いよう! 利用するだけしてやろうってわけ? 用が済んで、もしくはスパイがバレたら切って捨てようと思っていたのでしょ?! 私が死んでもなにも惜しくないものね!」

 シグレイは絶句していた。なに? 図星ってわけ?

私は後ろのダミアンを見る。ダミアンも尻込み、後ろにあったカーテンに触れ、揺らした。

「ダミアンもそう! あんたも私をバカにしてたよね? レベルなんとかとか、カオスなんとかとかいってたけど、それが私わからなくてバカにしてたよね! でもね、あなた、ソニアちゃんの何を見てたの? 血筋? 住んでいるところ? そんなところじゃなくて、ソニアちゃん自身をちゃんと見なさいよ! ソニアちゃんの得意料理、なにか知ってるわけ?!」

「……いや、知らないがそんなもの」

 ダミアンは軽く白目をむいていた。

「そんなものぉ?! あんた、ソニアちゃんの住んでいるところ調べたんでしょ? だったら予想ぐらいできるでしょ!? はい! 予想を言って!」

「彼女の家は牧場を経営していたから……牛乳……チーズ……チーズフォンデュ?」

 私は肩を入れ、ダミアンをにらみ倒す。

「得意料理は全部です!」

「なっ」

 エンジンかかってきた! 私はさらに言う。

「えっとね、別にバカにされてもいいし、二重スパイだと思われてもいい。二重でも三重でもいくらでもあやしんでいい。実際私、あやしいし、その自覚はある。でもね、ソニアちゃんを疑われたことは許せないの。そして、許せない気持ちをさっきあなたたちに真っ直ぐ言えなかった自分も憎い! 助かったと思ってすごすご帰ろうとした自分が恥ずかしい!」

 急に夕陽がにじんだ。

あ、私泣きそうだ。ダメだ、泣いちゃ。私が悪いんだから。

私は上を向き涙を引っ込める。興奮してしゃべると涙腺に来る。おちつけー、おちつけー。

 ――よし、落ち着いた。

 なんともいいがたい空気が部屋に充満していた。

 私たち3人はなんとなく見つめ合っていた。

 とりあず退散するのがいいかな。

「失礼します」

私は一礼をして、部屋を出ようとしたら、後ろから「……アーネ様」とシグレイの声が聞こえた。

シグレイは椅子から腰を上げていた。そして彼は私に頭を下げた。

「……無礼をして申し訳なかった」

 シグレイの予想外の行動におどろく。

「いや、そんな。私も言い過ぎました」

「……それを承知でいう」

 シグレイは頭を上げ、私を真っ直ぐ見た。

「……アーネ様、あなたは化学派のイオディール・アストリアの婚約者だ。魔法派と化学派の和平・融和の象徴とされているが、化学派のスパイと思われても仕方がない立場にあることだけは肝に銘じておいてください。――あなたの命にかかわることなのです」

「ああ、だったら私は100%スパイじゃないわ」

「……なぜ言いきれる?」

 シグレイは怪訝な表情で見る。

「だって、婚約破棄しましたから」

「…………えっ」

 シグレイの目が泳いでいる。

「……婚約破棄……それは本当か?」

「本当よ。イオディール本人にいったから。本人に聞いてみたらどう?」

 ……婚約破棄だと……とシグレイは小さくつぶやいた。

 ダミアンがふらりと一歩近づく。

「あなたの婚約は魔法派と化学派の和平の象徴で……」

「でも婚約していたらスパイ扱いするんでしょ?」

 ダミアンは返事をすることなく膝をついた。

 シグレイも力なく椅子に座った。

 え? なんでそんなガックリしてるの? もしかして私に潜入スパイをしてほしかったの?

 いろいろ話しかけたが、2人とも「……あぁ」と生返事するだけだった。

 とりあえず私もお腹が空いてきたので、カーテシーをして部屋を去った。

 ソニアにすぐ反論しなかったことを謝らなきゃ。

 私はそのことで頭がいっぱいだった。



読んでいただきありがとうございます!

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