屋敷編後編(神々の言葉未完成)
神々の言葉訳すの終わってません!ごめんなさい!<(_ _)>
笑い声は屋敷中に谺した。
黒い薔薇の花びらが舞い散る。その中からまず見えたのは鮮烈な紅と黒。髪の外側は黒で、内側が紅い。その目は真紅に染まっていた。黒いクリノリンドレスの女性が、黒い薔薇の花びらが吹雪のように舞う中、5人と顔のない執事達、メイド達の眼前に現れた。
「お出ましじゃな」
パルがハシェルとノアに臨戦態勢をとれ、と暗に伝える。
その後、焔で鳥を生み出し、どこかへ飛ばした。
ノアは毒球を体から作り出し、ハシェルは万能バッグの中から剣を引き抜いた。切れ込みの入ったクリノリンドレスの紅い隙間から艶かしい足が覗く。美しい曲線を描く身体つきが官能的だが、今はそれさえ恐ろしい。
「んーーー久しぶりねぇ。何十年ぶりかしら?」
ランタナと同じように扇子を片手に持ち優雅に仰いでみせる。
「あら。ココったら死んじゃったの?」
そしてハイヒールでココの胸の薔薇の紋章を踏みつける。
「まぁまぁ。しかも自分で死んじゃったの?」
オーキッドはその行為に呆気にとられ、ランタナは怒りのあまり口をわなわなと震わせている。
「その足を退けなさい!」
ランタナが泣きながら言うと魔女はゆるゆると脚を退けた。
ランタナは足が退かされた瞬間、亡骸を守るようにしてココの上半身を抱き抱え、魔女を睨みつけた。
「はぁい、当主様の仰せのままに、なんてね。」
くすくすと笑いを漏らしながら魔女はランタナを見据えた。
「それにしても今回の当主様は強気ね。前回もその前でも、私にひれ伏して泣きながら許しを乞うてきたのに。」
その瞳の中には光などない、ただ暗黒の闇が広がっていた。
にんまりと笑みを浮かべランタナに囁くように話す。
「ねぇ、当主様、そしてオーキッド。あなた達は本来私の生贄になるはずだったのよ?」
「……どういうこと…?」
ランタナは掠れた声で尋ねる。
すると魔女は言っちゃおうかな?どうしようかな?とはしゃぎ始めた。ノアはランタナとココを守るように毒球を2人の周りに出現させる。
「おあそびはここまでじゃ。」
パルは瞬時に指先から焔を噴出させ錬成陣を描く。
床の大理石でできた、八芒星の描かれた弓矢が何本も魔女へ向かう。魔女は黒い魔力を大きな壁として出現させ、全てを黒い薔薇の花びらへと変えてしまった。
パルは片眉をあげる。
「八芒星がきかんとは…まずいな」
すると魔女は笑みを深め、ランタナを見もせずに髪を流しながらパルに向かって言った。
「私はお茶会をしに来ただけ。敵意はないわ。」
彼女は真っ黒なレースの手袋を嵌め、爪が見えないようにしていた。彼女は手を挙げ、敵意がないことを示した。
「あぁ、私の名前がまだだったわね。失礼。私はestollwa。」
「estollwa…じゃと…?」
パルは顔を青ざめさせた。ハシェルはどこかで聞いたその響きを、頭の中で反芻する。estollwa…神々の言葉では確か…。
「平たく言えば、そうね、…」
「《支配の魔女》、か」
パルが魔女を睨んで言う。
魔女は返事をする代わりに、扇子をパタパタと仰いで笑んだ。
ノアが尋常でないパルの雰囲気にチラチラと横見しつつ問う。
「ねぇ、パル。この魔女、そんなやばいの?」
ハシェルは思い出す。
この世界には4の法則というものがあるのだ。
太陽、月、星、石の4大魔力。そしてそれぞれ、4大天使、4大魔女、王家の星、4大貴石。
四大天使のミカエル、ラファエル、ウリエル、ガブリエル。
そして4大魔女の病、戦争、飢餓、そして…支配。
4大魔女に対抗できるとすれば四大天使、4大貴石、王家の星のどれかしかない。つまり詰み。パルでさえも勝てない。
確かな死の予感にハシェルは思わず震えが止まらなかった。
ハシェルとパルの様子を見て、自体の深刻さを把握したのか、ノアは無意識に後ずさった。
オーキッドは3人の様子を見てランタナの方に手を乗せ、きっ、と魔女を睨む。が、魔女は気にも留めず、欠伸をした。
「何度も言うわ。私はお茶会をしに来ただけ。本当に敵意はないわよ。今回はね。」
そして指をパチンと鳴らした。すると今まで亡くなった4人の遺体を除いた全員が次の瞬間には紅い月が浮かぶ広大な夜のお茶会の会場へと招待されていた。
「ど、どこだここ!!?」
オーキッドが焦りの声をあげる。ランタナは自らの手に抱いていたはずのココがいなくなりココ、ココ…!と呟く。
パルがハシェルとノアに言う。
「ここは魔女の結界内じゃ、いわゆる心が生み出した空間と言ったところじゃろうか。」
すると魔女が恥ずかしそうに言う。
「でもお茶会するために少し手は加えたのよ?それに全員、私の境界内で息をするのも許可してるしね。」
「息…許可…ってどういうこと?」
ノアが聞くと、魔女はノアに笑顔で答えた。
「言ったでしょう。私は支配の魔女。私の境界内では全ての生死も私の支配下にあるわ。…勿論、それに準ずる呼吸さえも」
ひっとノアが声を上げた。声はあげずとも全員が目の前の魔女に対して恐れを抱いていた。あのパルでさえ魔女の一つ一つの動向を注意深く見ている。あの聖女の時とは大違いだ。
「さ、座って話しましょう。お前たち、椅子」
すると全員の体が強制的に動き出す。
顔のないメイド達は四つん這いになり、椅子になった。
魔女は椅子にどっかりと座りみなの様子を見ている。
「なにこれ!?体が勝手に!」
「嫌ぁ!!」
ランタナは必死に抵抗し藻掻くがそれも無に等しい。
「許さない…!今まで何人も殺しておいて、人をイス代わりにするなんて……」
ランタナのその様子を見て魔女は喜ぶ。
「今度の当主様は反骨精神があっていいわぁ。
人間、そうでなくちゃね」
ハシェルやパルは無駄な抵抗をせず、なされるがままだった。席に全員が着席すると、魔女は手を叩き命令した。
「さぁお茶会を始めるわ。用意して。」
顔のない使用人たちが一斉に動き出す。執事は軽食を、メイドたちはティーを用意し、みなのティーカップへ注ぎ入れる。
ノアは依然ふつふつと毒球を体の周りから霧散させている。
ランタナは食いつくように尋ねた。
「お茶会なんてどうでもいいわ!それより、さっき、本来は私とオーキッドが死ぬはずだったって言ったわよね。あれはどういうこと?やっぱり姉さんが当主だったの!?」
すると魔女は光の無い目でにんまりと笑い、扇子を広げた。
「……まぁまぁ、お茶を飲んでからでもいいでしょう」
「勿体ぶらないで!」
ランタナが叫ぶ。それは姉と兄、そして父親と母親を殺された者の悲痛な叫びだった。
「そうねぇ」
魔女はまるで鈴の音を転がすように朗々と笑い、ティーを1口口に含む。そしてゆっくりと話し出す。
「…そうよ。当主様の推察通り、あなたのお姉さんが本当は当主になる予定だった。」
「じゃあなぜ、姉さんを殺したの!」
ランタナは食い気味に聞いた。
「ココよ」
魔女は単純明快にサラッと言った。
「どういうことですか?」
言ったあとで、ハシェルはある考えにたどり着いた。
まさか、でも、どうして。
魔女はみなの顔を一瞥してにんまりと笑い言い放った。
「当主様と、オーキッドのふたりは、ココの子供よ」
ランタナはその意味を瞬時に理解した。
ココは、自らの子供を守るために犠牲になったのだ。4人の頭数を合わせるためにダリアとウィスタリアを殺して。
だが意味がわからない、ココが母親?
ラベンダーではなく?
オーキッドも同様なのだろう、困惑していた。
「アスターはココとそういう関係だったの。で、ラベンダーが2人の関係とその子供たちの存在を黙認した。って感じかしらね。
そうそう、ココが私に接触してきたのよ。どうすれば、あなたとオーキッドを助けられるかってね」
「だから教えてあげたわ。抜け道を。」
「抜け道?」
ノアが尋ねると魔女はノアを見て笑いながら言う。
「ええ。私の課した代償は、当主が生まれる度4人が死ぬ、という呪い。それは自殺他殺事故死は問わないの。だからどういう理由であれ4人が死ねば呪いに自動的に加算される。」
ランタナは青ざめた。自分が姉を殺したようなものではないか。ココが自分とオーキッドを守るため、殺したのだから。
「ぅううぅぅ…」
もっと早く気づいていれば何か変わったのだろうか。ダリアとウィスタリアが死ぬ前に、なにか出来たのだろうか。ランタナは泣き崩れた。
すると魔女は恍惚の表情でランタナに歩み寄る。
顎を手でつかみ引き寄せ、あぁ…と感嘆の溜息を漏らす。
「いいわ。凄くいい。貴方を生かしてくれたココに感謝するわ。こんなに素晴らしい表情を見せてくれるなんて。」
ランタナは鬼のような形相で魔女を睨みつける。
魔女はくるりくるりと回りながら語り出す。
「私ね、好きな子がいたの。」
まるで恋話でもはじめるかのように語り出す。
「当主様みたいに反骨精神が強くて、私の言うことなんかこれっぽっちも聞かない、強い子よ」
「だからね、たっぷり可愛がってあげたわ。骨が出るまで鞭打ちして、骨を砕いて、身体の中で抜けるところは抜いて、豚と交尾させて、喉元を割いて、叫べなくなるまで叫ばしてあげて。 友達に直してもらっては壊して、直しては壊して、」
ハシェルは虫酸が走り、パルが舌打ちをして吐き捨てた。
「反吐が出る。やはり魔女じゃな」
ノアはむち打ちされていたあの日々を思い出し恐怖に震えていた。自分が鞭打たれたときでさえ骨なんて見えなかった。それに抜けるところは抜くとはどういうことなのだろうか。
「爪と歯…?」
気づいた瞬間、1歩も動けないこの状況で無意識的に身体が震え出す。それを尻目に魔女は今度はパルに近寄る。
「これはね、あなた達も可愛がってあげられるってことを、忘れさせない為よ」
魔女は動けないパルの首筋をなぞった。
パルは睨みながら言う。
「儂は3000歳を越しとる。それしきの脅し無意味じゃぞ。」
魔女はお腹を抱えて笑う。
「そうなの?あぁ、でも、そんなことより、あの子の話をしていたら気分が上がってきたわ。あなた達の全ての私への不敬も全部許してあげる。」
「死ね!」
ランタナは強い言葉で非難した。
「人にそんなことをするなんて異常だよ!おかしいよ!」
「それを嬉々として語れる精神性も、じゃな」
魔女は人差し指でしぃ、と示した。
「私は心がとても広い支配者だから全て許してあげる。でも、ね?加減を間違えると私だって加減を間違えちゃうかも」
するとハシェルの体が勝手に動き出した。左手の大剣がハシェルの喉元に迫る。慌ててパルが焔で錬成陣を作り出し、大剣に向かって石を錬成し投げ飛ばし、コツンと当たるも剣の静止にはいたらなかった。切っ先が喉仏にあたる、刹那。
「やめて!」
ノアが大きな声で叫ぶ。瞬間、ぴたり、と止まった。
「なんて、ね?」
魔女がくすくすと笑う。
ハシェルは剣を向けられても臆することなく、話し始めた。
「先程からとても楽しそうですね。そんなに、人を苦しめるのが好きなのですか?」
「ええ。とっても楽しいわ。」
「ここには、お茶会をしに来たんですよね?」
「そうよ。」
「では僕たちが紅茶を飲み、話をすれば帰って頂けますか?」
「そのつもりよ。」
今度はパルが言葉で圧をかける。
「…ならば身体の拘束を解いてもらおう」
魔女がそれもそうね、と頷き指をパチンと鳴らすと全員の体の硬直がふっと解ける。皆が一斉に動き出す。
「紅茶を飲みましょう」
ハシェルのその言葉で、ランタナとオーキッド、ノアが震える手で一気に紅茶を飲み干す。パルとハシェルも全て口に含む。
「僕たちはあなたに帰っていただきたいです」
すると魔女は心残りがあるような顔をした。
「あら、残念。もっとおしゃべりしたいのに。」
「富と名声はいらないから、あんたが授けた魔道具も返すから、だから、この家の呪いを解いて…」
魔女はランタナが絞り出したその言葉にニヤリとした。
「いいの?当主様、私が呪いを解いても?
貴族じゃなくなっちゃうかもしれないわよ?」
今度は姉に代わりオーキッドが魔女の目を見て言った。
「もう、誰も死なせたくない。顔のない使用人たちも、要らない。俺は姉貴と二人で1からこの家を立て直す。だから…」
その言葉にランタナがオーキッドを思わず見る。
「オーキッド……」
「大丈夫だよ、姉貴。俺たちならきっとやり直せる」
その様子を見て魔女は不服そうな顔をしたが、闇の魔力で契約書を渋々取り出した。 その契約書の中には4つの魔道具と顔のない使用人を貸与することなどが記載されており、その中にはオリバーの署名もあった。
「人間とのお茶会も楽しかったけれど、もう飽きたしね、」
魔女は契約書を破り捨てた。ランタナとオーキッドが安堵のため息を着く。次の瞬間、テーブル上に黒い小さい薔薇の紋章が3つ、大きい薔薇の紋章がひとつ現れる。小さい薔薇の紋章からは破棄したはずの手紙、壊れなかった時計、金庫に閉まっておいた拳銃、そして、大きい薔薇の紋章からは銀杯が5つ出現した。魔女がそれらをそれぞれ手に取る。
「懐かしいわ…オリバー……それにアスター……。2人とも素敵な男性だったわ。それに何より、この家の名前…ローズ。」
パルははシェルに何かを耳打ちした。
ハシェルは驚きの表情をしたが、魔女は気づいていない。
「私は薔薇が好きなの。美しいけど刺があるでしょう。
それがとってもいいの。だから私、美しくて刺がある人大好きよ。あなたもそうよ、ランタナ」
初めて名前で呼ばれ、ランタナは嫌な顔をした。
「だから」
魔女はにんまりと笑った。
「あなたの絶望した顔が見たいわ」
「…呪い《だけ》消してあげない。」
その言葉にランタナが憤慨する。オーキッドが焦って言う。
「さっき契約書を破り捨てたじゃないか!!」
「あぁら残念。4人の生贄の契約書はまた別にあるのよねえ」
そしてヒラヒラと新たに闇の中から取り出した契約書を見せつける。一方でハシェルはノアに何かを囁いた。
ノアは不安げな顔から途端に驚きの表情に変わる。
だが魔女は気づくことなく満足そうにランタナとオーキッドを見つめていた。
「契約を結ぶ時ってお互い代償が必要だけどお互いが一方の契約の解除を望めばそれ『だけ』解除できるのよ?
お勉強しなきゃね、おバカさんたち」
魔女の足元に仄かに光が灯る。だがしかし、魔女は気づいていない。
ゆっくりと土が▽に─のマークを形作る。
その外側の仄かな光が、8芒星を象る。
「まぁせいぜい苦しみなさい。今度のお茶会では、貴方たちにはもう、会わないだろうけど。あっはは!!
死ぬ時は私の顔を思い出して……」
『fu waie ru a ya!!!(聖なる天上の光よ!)』
「「毒蔦!!!」」
パルが突然立ち上がり、大声で祝詞を唱え、ノアとハシェルが声を揃えた。鋭いトゲの生えた蔦が魔女の足に絡みつき致死性の毒が棘から飛散する。と同時に鋭い光が8筋も足元から迸り、魔女を焼き付くさんとする。魔女の上半身が腕も含めて消え失せ、代わりに薔薇の花びらが舞い散った。
魔女は首だけになり、一気に、黒く染め上げられていた空間が元の屋敷のダイニングルームに変わる。
「なによこれ…」
魔女は嫌な顔をし、飛び散った黒い薔薇を再度集めて身体を戻そうとしていた。パル、ハシェルはオーキッドとランタナをそれぞれ掴み後ろへ飛び退いた。
ノアは一生懸命神々の言葉を唱える。
「rrus…asta…om…esshe(毒…槍…権限…給え)!!!」
ハシェルは大剣を構え、そこにパルが太陽神の加護をかける。
「(太陽の恩寵をこの剣に与えよ。
光となりて魔女を討ち滅ぼし給え)」
一方で魔女は体を直し、残ったバラの花弁が魔女の頭上に集まる。そしてその魔女の絶大な魔力を示すかのように黒い円環へと変化する。ハシェルが魔女へと向かい、魔女が出現させた薔薇の蔦を何本も切り落とす。
「本当のおバカさんたちは5人いたみたいねぇ。」
魔女の身体中から黒い魔力が漏れ出る。
その魔力は屋敷中を這い回り、四人の遺体を巻き込んで包み込む。
「ココ!!」
ランタナが叫ぶ。ランタナがココを取り戻そうとするが時すでに遅し、黒い魔力に取り込まれた後だった。
魔女は完全にキレていた。
「私に逆らう愚か共物だったみたいねえ?
……肉親たちと殺し会うがいい」
「死体の踊り」
すると、ごぼごぼと魔女の周りに変わり果てた4人の姿が現れる、魔術によるものか、肋骨がむき出しになり、半ば白骨化している死体が動き出す。そして4人は口から黒い魔力を吐き出しながら呪詛を唱えだした。
「皆下がるんじゃ!」
その黒い魔力は渦となって動き出し幾人もの黒い人影を作った。人影はこちらへよろよろと歩いてくる。
「…ケテ………」
何かを呟きながら。そして人影は近づくと自ら爆発してきた。爆散した黒い魔力が3人とランタナにかかる。
「痛い!!」
腹を抱えてランタナが蹲る。
黒い魔力がかかったところからはバラの紋章が浮き出たかと思うとみしみしと音を立てその部分から身体の内部に何かが侵入してきた。皮膚がぼこぼこと音を立て、何かが皮膚から飛び出す。それは、薔薇の蔦だった。蔦には棘が生えており内部にも突き刺さる痛みが走る。
「パル痛いよぉ!!」
ノアも右腕を庇いながら泣き叫ぶ。ハシェルは左半身をバラに侵されながらも立っていた。パルは頬を黒い棘に刺されながら魔女を見つめていた。薔薇はゆっくりと体を侵食していく。
間にも人影がこちらへ向かってくる。
「全身黒い薔薇にまみれて死になさい。」
魔女は宙に浮いたまま、扇子を取りだし高みの見物と言ったところだろうか。パルはゆっくりと大きな杖を取り出す。ハシェルは剣を構え、ふたりは同時に走り出す。人影を杖で、剣で引き裂き霧散させる。だが数が多すぎる。
はシェルが五体、パルが10体倒したところで、2人とも息は上がっていた。
「ハシェル、痛くは無いのか」
「はい。大丈夫です…それよりこれ、勝ち目がないんじゃないですかパル…一旦逃げますか?」
「大丈夫じゃ。もうすぐ来るじゃろう」
来る?何が?そう聞こうとした時ひゅんと矢を射る音がした。矢はありえない方向に曲がり人影を5体ほど貫いた。
「遅くなったわ!ごめんなさい!まだ生きてるよね!?」
「へぇ、今日のは面白そうじゃん。」
そうして前に進み出てきたのは金髪の長身の女子と身長の低い水色の髪の少年だった。2人とも双眸に青い光を宿していた。
「星の…魔術師!」
ハシェルが驚くと少女はやぁ、と片手をあげる。
「スピカだよ」
一方水色の髪の少年はふつふつと怒りを顕にした。
「リゲルさんも姉さんも来ないなんて…
こんな悲劇があっていいのか…」
そしてわなわなと震えながら前に進み出た。
「魔女め…駆逐してやる…この僕の時間を割いたこと、後悔させてやるからな…」
「我がサダルスウドの名に答えよ」
サダルスウドは右手を宙に翳した。
「(水瓶の中の氷華の剣よ、出でよ)」
五芒星が宙に輝きその中から柄が出現した。思い切り引き抜くと氷で出来たレイピアが姿を表した。
「これは、一体…」
「魔女が現れる前、こんな事態になるかもしれんと予想して、魔術師教会に伝書鳩を飛ばしておいたんじゃ」
「私たちは軍から来た、魔女や魔獣に特化した部隊に所属してるの」
スピカが矢を番えながら言う。
すると魔女はピクリと眉を上げ、二人を見、呟いた。
「軍から…ねえ……」
一方でこちらへと迫り来る人影をサダルスウドは青く輝く剣で次々と切り捨て、スピカは青く輝く矢で何体も射った。
その様子を見て魔女はすっと扇子を広げる。
「私ほんとに今日は争うつもりなんてないの。息巻いてるところ申し訳ないけど、私は帰るわ」
呆れたように魔女はため息を着き、頭を左手で押えながら姿を消し、黒いバラの花弁となって舞散った。呪詛を吐き続ける4人の遺体を残して。
「面倒なものを残していきよったな……。
わしは2体までしか同時に浄化できん。あとは任せたぞ」
パルは首元まで侵されている。だがしかしその目から光は失われていなかった。杖を構え祝詞を唱える。
「(太陽の恩恵によりて2つの哀れなる魂放ち給え
太陽の輝く国へ2つの魂を導き給え)」
そして眩く輝く閃光を中央の2体へ放つ。と同時にサダルスウドは人影を切り躱しながら右の一体へ接近し、スピカも呪文を唱え、左の一体へ矢を引き絞る。
青く輝く矢と青く輝く剣と白い閃光が宙を光で満たした。
それぞれが心臓を一撃で貫いていた。
4体の遺体は一気に黒い薔薇となり消え失せた。
「ココ!!姉さん!兄さん!父様!!」
薔薇の侵食が止まり激痛が病んだ途端、ランタナが思わず叫んだ。唯一黒い魔力のかかっていないオーキッドが慌ててランタナを抑えるように後ろから抱きしめる。
「皆を返して!!お願いよ!!!
葬儀もできないなんてあんまりだわ!!」
1度は区切りをつけたであろうその感情を閉じ込めることができず、泣きながらランタナは懇願する。
無傷のサダルスウドとスピカは武器をしまい、パルやハシェル、ノア、ランタナ、オーキッドの様子を見る。
「そこの人は大丈夫そうですね。あー!!魔女を逃がすなんて!!姉さんとリゲルさんは笑って許してくれるだろうけど!!不甲斐ない!!あーーー!!!」
「回復魔法が必要そうですね…ってサダルくん煩いよ」
スピカはランタナに近づき、腹部の棘に指先を重ねた。
「(恵まれた聖なる稲穂の成るように
この者に癒しを与え給え)」
すると黒い薔薇の蔦が青い光に包まれふわりと溶け始める。
「僕、回復系の魔術じゃないんで、そっちは任せます。」
サダルスウドはそう言うと、ハシェルの前に立ちはだかった。
「それよりお前だよ。」
「えっ」
「なんで魔女の魔力浴びて痛がってないわけ?」
パルはノアの腕の治療を行いながら黙ってサダルスウドの様子を見ている。
「暁の方方は分かるけど、お前たしか今度の魔術師試験でなぜか受かった魔力のないペーペーだろ?」
身長はハシェルより低いのに威圧感があり、鋭い双眸がこちらを見ている。魔術を使っていないのに青い光がまだその目に点っているかのようだ。
実際にはアイスブルーの瞳だが。
「そ…れは…。僕には分かりません……」
レイピアでも向けられているかのように言葉に詰まる。
「あの攻撃を受けて、常人なら立っていられるわけもない」
パルがこほんと咳払いをする。
「ハシェルもわしと同じように魔力負荷耐久能力が高いんじゃろう…見逃してやってくれんかのう…」
「それで説明はつかないですよ暁の方!」
サダルスウドは更にハシェルに詰め寄る。
「強制的に黒の魔力を流されているんだ、普通魔女になるか痛がるか、なんにせよおまえは異常なんだ。それか…お前も魔女なのか?」
『異常』『魔女』その言葉がハシェルに伸し掛る。
その時、回復が終わったノアが、ハシェルを庇う。
「ハシェルにそんなことを言わないで!」
自らも魔女と言われ育ったノアはその痛みがいちばんわかる。
「ハシェルの爪を見て!黒くないでしょ!それで話は終わり! ハシェルはたまたま痛くなかっただけだよ!!」
そこにランタナの治療を続けながらスピカも口添えする。
「もうそのくらいにしとけば?サダルくん。
魔女の攻撃に対してはまだ不明なことも多いし。たまたまハシェルくんには効かなかった、ってことでいいでしょ。」
サダルスウドは何かを抗議しようとしたが首を傾げながら無理やり納得したようだった。
「姉さんなら絶対見逃さないけどなぁ……」
そしてハシェルを睨むのを辞めた。
サダルスウドはまだ腹部の治療をしているスピカをげしげしと乱暴に蹴る。
「早く終わらせてくださいスピカ。今日は姉さんが非番だからケーキを買って帰るんです。あとリゲルさんに褒めてもらう」
スピカはなんとも言えぬ顔をしながらサダルスウドをみる。
ノアはすすすっとハシェルの方に寄って来た。
「あいつただのくそがきじゃん…」
ハシェルはまさかノアがそんな汚い言葉を知っているとは思わず、思わずえっと声が出た。が、自分も内心思っていたことは心の中に閉まっておくことにした。あの2人が来なければピンチだったことには変わりない。
「何の魔女だったかは知らないけど、暁の方も弱いんですね」
サダルスウドは蹴るのを辞めパルを見た。するとスピカがすかさずパルのフォローを入れる。
「サダルくん4人も庇いながら戦えるの?
自分の攻撃が当たるかもしれないし、実質四人人質取られてるようなもんだし。強そうな魔女と断定した時点で、私たちを呼んだのは得策でしょ」
スピカさんはいい人そうだな…とハシェルはほんのり思った。
「なら、なんの魔女だったんですか?」
サダルはむっとしたまま、問う。
パルはうん、と頷きその名前を口にする。
「estollwaと、名乗っておった」
するとスピカとサダルスウドが驚く。
「え?……あの、4大魔女の?」
「魔女がそう言ってるだけじゃないんですか?」
スピカとサダルスウドはそれぞれ驚きと懐疑心を口にする。
「4大魔女がこの屋敷に来るわけが分からない。というか、それが本当なら僕たちは瞬殺されていてもおかしくなかった…ってことじゃないですか。なんで軍の上の人達を呼ばなかったんですか!みんな死んでたらどうしたんですか!?」
サダルスウドが発狂している横で、スピカはランタナの腹部の治療を終え、ハシェルの方へやってきた。
「君も治療ね。痛くないかもだけど、魂にダメージ受けてるから暫くは安静にするんだよ」
「はい……」
スピカは髪を軽く流し、治療しようとする。
「あれ?」
ノアが声を上げた。ノアとハシェルはスピカの耳に違和感があった。耳介が鋭く尖っていたのだ。2人が思わずとがった耳を見ているとスピカはその様子に緩く微笑んで答えた。
「私、魔獣とのハーフなの。珍しいでしょ」
「えっ!?あっ、そんなことは……!」
「ホントなら駆除対象ですからね」
ハシェルが慌てているとサダルスウドが突如口を挟んできた。デリカシーという言葉を知らないのか、とハシェルは内心げんなりした。ノアも嫌そうな顔をしている。
治療をしながらスピカは笑った。
「あはは。でも孤児だった私を軍が拾ってくれたんだ。
目がめっちゃ良くて遠くまで見えるから弓矢を使ってる」
にこやかに話してはいるが、孤児だったならその時代は辛い経験もしただろう。苦難を感じさせない明るい声音にハシェルは胸が締め付けられた。
「その点、サダルくんはいいよね。めっちゃ偉い貴族の生まれだし、双子のお姉さんも軍人で、2人とも軍人所属魔術師の最年少記録更新したんだよ。……でも2人とも性格がねぇ……」
スピカはうーんと悩むように苦笑した。
「わしも治療を手伝おう。」
パルは自分を治療したあとハシェルの方にやってきた。
「かなり広範囲じゃな」
パルは眉を顰め、スピカとノアに少し離れるよう言った。
「(数多の罪穢れを払い給え)」
その言葉を唱え、人差し指と中指を揃えてハシェルへ向けた。すると足元に白く8芒星が輝きだし全身が暖かく清い光に一瞬で包まれた。ぼぅっと白い光が薔薇の蔦を一瞬でかき消す。
「流石暁卿は使う魔術も違いますね」
とスピカは思わず感嘆の声を上げた。ゆるやかに黒い薔薇が光の中に溶けていく。ハシェルの身体から黒い魔力が消え失せていく。ノアは思わずハシェルを包む光に触った。
「あっつ!!!なにこれ!?あつ!!」
ノアが思わず指先を引っ込める。スピカが治療中のパルに変わり、説明を始めた。
「暁卿の使う神聖魔術は強いからね、術をかけてる対象の人以外が触れると熱いし、魔女にとっても熱く感じられるはずよ」
へー、とノアが感心している一方でランタナたちはサダルスウドに事情聴取されていた。
「魔女と契約して、黒魔術に手を出してますからね……魔女裁判にかけられるのは決定事項でしょう。」
ランタナとオーキッドは無言でその言葉を受け止める。
「とはいえ、あなた達は巻き込まれただけですから温情酌量もあるかと思います。後日法廷で会いましょう」
ランタナはゆるゆると首を振った。
「仕方の無いことね…」
オーキッドはランタナを優しく後ろから抱きしめた。
「大丈夫だよ姉貴。俺も行くから。一緒に行こう。」
「オーキッド……」
この世にもう2人ぼっちなのだ。本当の母も、育ての母も、父、祖父、祖母、姉、兄もいるはずだったこの屋敷には、もう、ランタナとオーキッドの2人しかいない。
ふたりはお互いの温もりをしっかりと感じた。
「あの…」
治療を終えたハシェルが2人に声をかける。ふたりが顔を上げる。よく見るとココの面影があるように感じた。
「これが落ちてたんですが、」
ランタナが手のひらをそっと差し出し、ハシェルが何かを手の中に置く。開くと中にはダリアの髪飾りが、光っていた。
「姉さん…」
ぐっとその髪飾りを胸に抱く。サダルスウドはもう飽きたように溜息をつきながら言った。
「とにかく後日、現地調査はいるんで覚えといてください」
ノアが、ランタナに問う。
「ランタナ、その時、一緒にいた方がいい?」
「「さん」をつけなさいよ…いいわ、大丈夫。ありがとう。
オーキッドが居てくれるから。」
ランタナは穏やかな声で、穏やかな表情で、応えた。
まるで、かつてのダリアのように。
屋敷をあとにし、スピカとサダルスウドとも別れを告げ、パルの展望台へと3人は帰った。いつものように空に星空が瞬く。
星の映る海辺の近くのその展望台で3人は久方ぶりに寛いだ。
「あーー!もう依頼なんて無理だよぉパルー!
今回めっちゃ怖かったもん!!」
ノアが絨毯の上をゴロゴロとまわる。もう髪は結んでおらず、無造作に広がるそれは先が可愛らしいピンク色だった。
「そうじゃなぁ…それならば、ふたりが1人前になるまで、魔術師学校に行くというてもある」
ハシェルとノアは目を輝かせた。
「「魔術師学校に!?!?」」
「あぁ、昔の研究でかなり金を貯めたからのう。
ふたり通わせるくらいのことは出来るじゃろう」
パルはそこで困ったような顔をした。
「じゃがのう……そうすると扉の捜索が滞るからのう…」
するとノアはふっふーんと胸を張った。
「大丈夫!昼は学校!夜に探せばいいじゃん!」
あまりに安直すぎる考えに思わずハシェルとパルは笑った。




