ハシェル
微グロ注意です。残酷描写あります。気をつけて( *´꒳`*)
この世界には黒と白、そして色つきの魔術がある。
3000年前、賢者とまで言われた魔術師が予言を残した。
「3000年後4人の運命の子に依って世界の命運が決まる。滅びの道か楽園への道かはその子等により決まる。
世界を未来へ導く運命の子は一人だけだ。」
…と。
「いゃー!本当にありがとね兄ちゃん!
おかげで助かったよ、魔法様々だねぇ」
「いえ、ほんと、これくらい何でもないですよ…
治っても暫くは安静に、3日くらいは蝋燭の火位の明るさしか見ちゃいけないので、気を付けてくださいね」
「ほんとにありがとうな、兄ちゃん。
2ヶ月前に突然失明してから、大変てもんじゃなかった。女房にも子どもたちにも世話ぁかけてよぉ…」
ありがとう、ありがとう、と何度も繰り返す。
そんな…と笑いながら照れる少年。
名をハシェル。すっげーと子供達も群がる。
「ほんとに治っちまったよ…
もう一生目なんて見えないと思ってたのに」
店の旦那の目を魔術で治したのだ。
「たまたま人魚の鱗を持っていたので…
お役に立てて何よりです」
言いつつ調合に使った薬草やまじないの品を片付ける。
「なー兄ちゃん!俺等も魔術使えるようになる!?」
魔導書を持って開いたり閉じたりを繰り返す子供から魔導書を受取りながら応える。
「そうだね…魔女や聖人、魔術師じゃなくてもこの文字が読めるようになれば、少しは使えるようになれるよ。」
「げぇっ、」「あはは」
「それにしても旅人さん、
あんたも苦労するだろ、それ」
とんとんと、店の奥さんが頭を指す。
「あ…まぁ、そうですね…はい」
ハシェルは暁のような真っ赤の髪なのだ。
「赤髪なんて珍しいねぇ。けどさ、黒髪はよっぽどだよ。黒髪なんて一昔前までは魔女の印象が強かったからね。リゲル様っていう有名な軍人魔術師さんが黒髪だったから、その人は苦労したと思うよ。でもその人が活躍しているから私達も偏見はやめようって思ったんだよ。」
ハシェルは、はぁ…と思いを馳せた。
「そうなんですか。たしかに、黒といえば魔女の色ですからね…大変だったでしょうねその人は」
「まぁなんだ、今日泊まるところがなければうちに泊まっていきな?兄ちゃんだったら今日どころかいつまででも泊まっていってほしいくらいだ。」
「そ、そんな…嬉しいです」
「やったー!兄ちゃん魔法見せて!!」
「もっとみたい!!泊まっていってよ!!」
がし、と旦那さんに腕を捕まれる。
「泊まっていってくれ。あいつの飯はうまい。」
「にーちゃん泊まるって言ってー!!」
「わ…わかりました…泊まらせていただきます」
「ぃやったーー!!」
「わかったよ!よっし、あんた達少し待ってな!
それとあんた、子どもたちを頼んでもいいかい?
こーんなど田舎じゃ魔法使いは珍しいからさ」
「え、あ、はいっ」
「俺にも見せてくれよ、あっまずいか?」
「だ、大丈夫ですよ、そこまで明るくない
魔術にしますから。えっと、そうだな…」
ハシェルはカリカリ、と魔法陣を描く。
『地に芽吹く草花、天に向かひて枝を伸ばす大樹、
寒さ厳しき清廉なる冬、命を燃やす茂る夏、
光差し込むうららなる春、山々色づく実りの秋
折節の大樹を小さき陽炎にて顕現させよ』
ぽふぁっと音がして。
魔法陣の中からゆらゆらと木が現れる。
手のひらの大きさほどの木は柔らかな新芽を芽吹かせる。部屋の中にも、春の桜がさらさらと舞う。
子どもたちが触れるとぱっと消える。
「すっげー!」
そう。
俺は魔法が大好きだ。
だけど魔道具がないと顕現させることができない。
魔術師連盟にそんな僕が加入できそうのはおそらく筆記で一位だったからだろう。
次の日、魔術師協会へと歩みを進める。
「おにーちゃん!!また来てね!!」
子供達に手を振る。
さて。
筆記試験ともう1つ難関が待ち受けているのだ。
筆記試験の参加者は3000人程度。皆の机の上には解答用紙と1羽の恐らくコピーであろう梟が鎮座していた。
みんな恐る恐る席に座っていく。やがて鐘が鳴り響き試験は開始された。筆記試験は初歩の基礎知識から魔術構想の論文に至るまで様々だったが、魔法書を朝から寝るまで常に手元に置いてお供に読んでいたハシェルからすれば赤子の手を捻るようなものだった。
回答が終わると、予想通り目の前の梟の頭を撫でた瞬間に、採点が目の前で直で行われた。梟がほお、と鳴き羽根が1枚抜けたかと思うとそれは羽根ペンへと形を変え、サラサラと丸を付け始めた。結果はリアルタイムで3000人の目の前にある大きな鏡に映し出されていく。結果として、ハシェルは満点だった。
つまり筆記試験は1位だったのだ。その後その記録は破られることなく試験は終わった。これで2500人は脱落していくのだから驚きだ。
問題は、もうひとつの難関。
それは「弟子取り」。
受かった500人が壇上に集められる。その後。まるでオークションのように様々な流派の1〜3級魔術師から番号を呼ばれ、弟子にしてもらうのだ。弟子と言っても早いもので1年、長ければ50年以上かけて目をかけてもらう場合もあるため一概に弟子取りと言っても様々なのだ。
そしてどこから聞き付けたのかハシェルは無魔力者ということで受験者達も1〜3級魔術師達もその話で持ち切りだった。
今は昼休憩だと言うのにどこへ行っても視線が痛い。
「おいおまえ、無魔力者なんだって??」
金髪に紅玉のような眼の男と取り巻きらしき金髪達が2人寄ってきた。触らぬ神に祟りなしという言葉を知らないのか、と呆れてしまうが、一応言葉を返すことにした。
「そうですけど……なにか?」
「いやー?試験会場間違えたんじゃないかと思って。」
「忠告しに来てやったんだよ!筆記は受かってもこれからの試験はそうじゃないってな」
「うちのジャックはすごいんだぞ」
「そーそー!筆記試験は落ちたけどお前なんかより魔法が沢山使えるんだ!」
……,。
そんなことを真昼間にいわれて現在。
実際に。
筆記試験では一位でも。
才能がない。
それはわかりきっていたことだった。
「では、実力試験を行う。各々得意な魔法を披露せよ」
各自呪文を唱え始める。焔を出すもの、水球をうかべるもの、ゴーレムを生み出すもの、様々な魔法が生み出される光景は圧巻だった。次々に番号が呼ばれる。呼ばれる番号が被ったらその選ばれた魔術師がどちらに行くか決める。魔術師協会の弟子取りでは、各国の名のある魔術師が、自分の流派に合う、もしくは才能があると見初めた者を弟子として取るのだ。
一方でハシェルは羽根ペンでカリカリと練成の魔法陣を描き始めていた。魔道具がなければ魔術を使えない自分。
選ばれていない事実がこの魔術師協会において俺が誰からも弟子として認めてもらえていないことがその証拠だ。
錬金魔術が完成し、地面から土でできた鳥が何羽も飛び立つ。
くすくすと笑い声が聞こえる。
未だに番号は呼ばれない。
最後の1人になった。
誰も番号は呼ばないだろう。
いつだって。
魔術は使えないと。
否定されて生きて来た。
そう下を向いたとき。
「92番」
唐突に自分の番号が呼ばれ、周りのどよめきと共にはっと顔を上げた。
周りの魔術師達が驚いた様子でその人物を見る。
褐色の肌に焦茶の髪、そして翡翠のような瞳を持つ一見砂漠の異国の少年のような風貌のその人物は至極落ち着いてる。初めて見るその人物は、身体中に鎖の文様があり、自らの背丈よりも高い杖を持ち、まるで天から降臨するが如き優雅な仕草で階段を一段ずつ降りてくる。既に弟子を選んだ1級〜三級の魔術師達は思わず立ち上がるものもいるほどその人物の登場に驚いていた。
「本気ですか!?彼の魔法の才は皆無に等しいのですよ!」
「暁卿ともあろう方が何をお考えか!?」
暁卿と呼ばれたその人物は周りの反対など意にも介さない様子で答える。
「若い才能を潰すのは惜しい。筆記で満点を取ったのはその子だろう?ふむ、なかなかできることではない、魔術が好きなのだろう。」
「だからと言ってあなたのような方の弟子に到底相応しいとは…!」
「儂は学ぶ意思のあるものにこそ門戸を開き導きたい。」
そしてハシェルの方を見て口を開いた。
「…そこの赤毛の子。92番の子。君は儂についておいで。」
それは、つまり。一流の魔術師に認められたということだ。
弟子として、魔術の真髄を伝授してもらえるということ。
感極まって思わず目に涙が溜まり、視界が滲む。
「……っはい!」
ハシェルは試験会場の中央から階段を降りてくるその人物の元へ駆け寄る。
そばに来てわかったが、ハシェルの肩あたりまでの背丈ほどしかない。然しそれを思わず忘れてしまう程の威厳を放っていた。
耳元のフリンジを静かに揺らしながら微笑み、ハシェルに手を差し伸べる。
「儂はパル。お主は?」
「あっ、ぼ、僕は、ハシェルです!!」
「…ハシェル。……良い名だな。」
ハシェルが手を強く両手で握りかえしたのを見て緩く微笑むと、唖然と立ち尽くしている周りの魔術師達を見渡し開口する。
「試験は無事これで終わったんだ、ささ、そなたらも早く帰って今宵は師弟の中を深めると良いだろう!」
少しざわめいた後、各々魔道具を出したり、呪文を唱えたり、魔獣を召喚し帰り出し始める。皆帰るのにも使う魔術は異なるのだ、と周りの様子に感心した後、パルを見る。
「行こうか」
その言葉と共にパルの瞳は青く輝き、光り輝く月桂樹の葉が二人を囲む様に舞い上がり、眩さに目が眩んだ次の瞬間には、もう違う場所にたっていた。一見星の綺麗な夜の海辺の様なその場所は、穏やかな波の音だけが静寂を破り、その海は天上の星を静かな水面に映し出していた。砂浜の奥には大きな展望台と、その周りを円形に囲む様に石の壁が築かれていた。中へ入ると円状の中一帯に絨毯が敷かれ、そこには白髪で毛先だけがピンク色の少女とも少年ともわからない人物が座って静かに本を読んでいた。横と後ろの髪は編み込んでまとめてあり、青いリボンでまとめてあった。
が、気配に気づいたのか、ふと顔を上げた。
「あっ!パル!!おかえり!その子誰!?」
パルはふふふと、不敵に笑う。
「魔術師学校はまだあの方式をとっているようだったから珍しい拾い物でも無いだろうかと思っていってみたら。
珍しい拾い物があったというだけだ。名はハシェルと言う」
「ハシェル?!よろしく!僕はノア!」
ノアと言った中性的な彼女(彼女と思うことにした)はハシェルの両手をギュッと握ってブンブン縦に振る。頭はそこまで良くなさそうだ。なんとなく、故郷の子供達を彷彿とさせる。
とても微笑ましくニコニコとしていたらあっとノアが声を上げて抗議して来た。
「今、僕に対してとっても失礼なこと考えてたでしょ」
ハシェルは思わず違いますよ!と首を振る。
「いや、なんというか、試験の緊張感が一気に溶けて…」
「ふぅーん?まぁ、いいけど」
そう言うとそれ以上追求はしてこなかったが、彼女はパルの方に向き直って方を掴んで揺すり始めた。
「ねぇばんごはんまーーーだーーー???」
パルは揺すられながらははは、と笑う。
「まぁ待て待てそのうち出来上がる」
そして部屋の中心にある魔法陣の描かれたカーペットの上でひとりでにグツグツと蒸気を上げる鍋を指さした。
するとノアが思わず叫んだ。
「また魔法で作ってるのーー!?」
ここから、魔女や魔獣との、戦いが始まるのだ。
ハシェルはそうとも知らず、上を向いて星空を仰いだ。
「魔法で作った変な色のヤツより普通のが食べたい!」
いつもそんな感じなのだろう、はいはい、とパルは軽くいなす。そしてずいとハシェルに鍋からよそった黄緑色のスープを渡してきた。
「味は保証する。」
その真っ直ぐな翡翠の瞳にハシェルは内心怯えつつもありがとうございます、と受け取る。ノアが文句を言いながらも勝手に鍋から皿へよそっている様子を見るに味は本当に保証されているのだろう。3人がそれぞれお皿を用意でき、食べ始める。
味は普通にカレーだ。普通に美味しい。と、そこでハシェルは、ん?と思った。
「パル…もノアも太陽神教の方ではないんですね。
特にノアは太陽神教の象徴の白が髪色だったので太陽神教かと思いましたよ」
ノアがもっもっと食べながら応える。
「これ、地毛だけど別に気にしたこと無かったなぁ」
「それにしても、弟子取りの時に魔法の中でも地味な錬金魔法を選んだのはなぜだったのだ、ハシェル」
ハシェルは問うように話す。
「やっぱり、錬金魔法は行けなかったですかね」
するとパルはいやいや、と笑いながら言う。
「いや、わしもむかーしは錬金魔法だけだったから、親近感を感じてな。今、星と契約して賢者になってはおるが…」
それを聞いてハシェルはえー!!!と驚きの声を上げた。
「えー!!!パル賢者なんですか!!!?」
ノアはちょっとびっくりする。
「食事中にそんな大声出さないの。何そんなびっくりしてるのハシェル。まぁまぁスープ飲んで落ち着きなよ。」
気にせずハシェルは鬼のような剣幕で畳み掛ける。
「賢者って!!あの!!予言を残した!!」
「ま、まぁ…そうじゃが…」
「1級魔術師様でも恐れ多いのに!!賢者様が俺を弟子取りして下さったんですか!!うわああああ!!!」
あまりの興奮にノアが大丈夫?と肩を叩く。
「えっ、じゃあノアも弟子取りで、パルに選ばれたんですか?」
するとノアはいやぁ、と髪をいじる。
「僕、パルに助けて貰ってさ、その時に力を認めてもらって、弟子取りをその時にしてもらってたの。賢者のパルの推薦だったから筆記もなし」
えへへと笑いながら衝撃の事実を言うノアにハシェルは卒倒しそうだった。
その時。
1枚の羊皮紙がひらりと舞い込んできた。
宛名は、【ノア、ハシェル】そして【魔術師協会より】
───内容は。
とある街では聖女が誕生したそうだ。
聖女ラティが生まれた瞬間その街の食料問題が解決したというのだ。また、聖女ラティはやさしく、心からの善良さで市民にしたわれ、魔女を何人も弾劾することに成功した。だがその魔女とされた女性は妊婦や孤児などで全てスラムの出身。しかもその人数は一日で20人を超える日もあるなど過激さを増していた。太陽神教の権威にも関わることであるため太陽神教から依頼され魔術師協会はノアとハシェルを派遣に向かわせた。もちろん師匠付きで、だ。
「これは?」
「これは申し込むことで修行中の魔術師のみに来る」
「えっ!?いつ申し込んだの!?」
とノアが聞くとパルはニヤリと返す。
「ハシェルを弟子取りした時にはもう頼んどったぞ」
「え!そうなんですか!?」
ハシェルとノアは驚く。
そして現在3人は。
「太陽神教について覚えていることは?」
例の街へと続く橋を渡りながら会話していた。
するとハシェルはえーと、と思い出しながら答える。
「たしか…太陽神とその神に使える偉大な4天使から成り立つ宗教ですよね?」
「そうだっけ。ちょっと僕覚えてないなぁ。あっ、でも確か髪の一部を三つ編みにするって聞いたことあるよ」
「2人とも正解じゃな。4天使から加護を貰う四大聖人がこの宗教の中核をになっておる。そして三つ編み、これは神、天使、聖人を表しておって、男女関係なく教会関係者は全員三つ編みをしておる」
そこでふと、ノアはパルが自分を救ってくれた時退治していた司教はわずかながらの髪の毛を三つ編みにしていたな、と思い出す。パルは続けて問う。
「逆に魔女の弱点は覚えているじゃろうな?」
問われて、ノアはうーんと首をひねり、ハシェルはハキハキと答える。
「新月ですね!」
「そうそう。魔女は満月とともに力を増し、新月が近づくにつれ力を失う。今宵は26夜。たとえ今回強い魔女でも2人だけで大丈夫じゃろうな。そしてもうひとつが…」
「聖人の力!ですね!」
「正解じゃ。流石じゃの。」
「ほぇー。」
「ノアはもっと勉強が必要じゃなあ。」
「そんなぁー」
3人がそんな会話をしながら街に入った途端、緩んだ空気は一気に張りつめた。禍禍しいほどの神聖さと押し付けられた祝福に迎え入れられたからだ。
「あなたがたは呪われています。私たちが祝福しましょう」
目の前にいる全員が白のローブを深く頭から被っていた。
恭しく全員が同じように深くお辞儀をする。
そして近くにいた3人の教徒がみな一様に同じ動作で、右手から白い花を差し出す。3人が戸惑っているとそのなかでひときわ背の高いローブに金の刺繍が入っている1人の教徒が話し出す。
「ここは、聖女様の収められる聖なる街。我々は聖女様に認められ聖なるローブを授かった者。旅人を歓迎するよう、仰せつかっております。どうぞ聖花をお受け取りください。その花が清めの花となり、あなたがたをお守りするでしょう……」
渋々3人が花を受け取ると表情は見えないものの、ローブの奥で教徒たちが深く笑みを浮かべたような気がした。
「ここでは、ここの作法に従っていただきます。
その1、聖なるローブを身に付けた者以外との会話は禁止です」
パルは思わず眉をしかめた。が、そんなことを気にしないというようにローブは続ける。
「その2、食事の際はテーブル上の白いナプキンを頭から被り食事の様子を誰にも見せては行けません。」
「えっ、なんで!?何それ!」
ノアがたまらず声を上げると教徒は幼子を諭すように話す。
「食事とは、命を貪る野蛮な行為です。ですので、聖女様に見えないよう、配慮する必要があります。」
「なにそれぇ……」
「何卒、ご了承ください」
パルは先程の表情はどこへやらいつもの口調を抑えたような口調でにこやかに返す。
「わかりました。大丈夫です。続けてください。」
ローブは深く頷き、続けた。
「その3、聖女様には絶対従うこと、以上です」
ハシェルは心の中で繰り返す。万が一が起こらないようにしないといけない。何故か胸騒ぎがするのだ。
「ではまず、浄めの儀式をしましょう。この聖水を飲み、白いフードを皆様、お被りになってくださいまし」
すると白いローブはワイングラスに入ったワインらしきものをもってきた。
「えっ」
ノアとハシェルは戸惑うがパルは落ち着き払っていた。
そして一気にワインのようなものを飲み干し、白いフードを被った。ノアとハシェルはお互い目配せする。
パルがそうするのなら、と。2人もワイングラスを手に取って飲んだ。が、あまりの鉄臭さに2人は口の中のものを呑み込めない。パルは一言も話さずこちらを待っている。ええい、ままよ、とハシェルとノアは飲み込んだ。ノアは若干涙目で白いフードを被った。
「では、失礼して、」
と白いフードは3人の頭に、洗礼の意味なのだろう、何かを唱えながら少量の水をかけた。
「これで、儀式は終了です、あなたがたに幸多からんことを」
そして儀式は終了し、3人はローブに誘われるがまま、宿へと足を運んだ。教会風の宿すらも真っ白で、中に入ると大理石のような素材でできた床に、白樺の木材があしらわれた天井が、3人を萎縮させた。
「今晩はここでお過ごしいただきます、」
3人は部屋に入る。するとそこには豪華な食卓が並んでおり、大きなクローシュが被さった料理皿がひとつおかれ、取り分け用のナイフ、そして取り分けられるように皿が置かれていた。
ローブが立ち去ると3人は顔を見合せた。
「ねぇ、どうする?ご飯食べる気無くしちゃったんだけど」
ノアが重々しく口を開く。
「ノアに同じくです、、、」
ハシェルも疲れたようにパルに訴えた。
だがパルはその2人とは別の視点を持っているようだった。
そして空のワイングラスを手に取り口に含んでいたのだろう、先程のワインらしきものを口から出した。
「えっ!?パルそんなことしてたの!?」
のあが驚く。
「確かに飲みたくはなかったですけと…やりますねパル」
ハシェルもパルのやり方に感心する。
「さて。2人とも。どうして、この街の食糧問題が解決したのだと思う?」
ふたりが首を傾げるとパルはクローシュを取り去った。
そこには、なにかの足と腕が綺麗に4本並んでいた。
「この街は元々、人口過密が問題になっていた。人口過密に夜食料問題。聖女の登場。その解決の結果がこれじゃ」
「こ……これ、指が5本あるよ……!?」
ノアは気づいて悲鳴を挙げ、ドサッと尻もちを着いた。
パルはうむ、と頷き言った。
「聖女に野蛮な姿を見せないためではない。自らが犯している過ちから目を背けるため白いナプキンを被るのじゃろう」
ハシェルは先程のワインと、目の前の人肉に合点がいった。
あれは血液だ。しかも人の。それを聖水と言って飲ませていた。白いローブの人達はそのことは知らないはずがない。
「…さっきのは、血…」
パルは険しい表情で言った。
「おおかたこれには魔女が絡んでいるのじゃろうな。いいか2人とも。爪が黒いものに会ったら必ずわしに報告するんだ」
「それこそ、魔女である証なのだから」
そして皿の中に盛りつけられた「人だったもの」をみて、パルは哀れに思ったのだろう。太陽の魔術を使った。
「光となり、解き放たれよ」
パルの頭上には白い円環が表れ、その右手は白く光り輝いた。パルがそっと「それ」に触れるとその身体は一瞬で光に包まれ多数の金色の蝶に姿を変え一気に蝶たちは飛び立つ。
「綺麗…」
ノアは思わず呟いた。
ハシェルは無言で同意する。
どうか、天国へ行けますように、と祈りを込めて。
次の日。
昼下がり、あれから一睡もできず3人は少々疲れていた。
「とりあえずローブ以外のものに話を聞こう」
パルがそう提案したのは、この街の、魔女狩りについて知るためだった。聖女、魔女狩り、食料問題。この3つが早急に解決すべき問題だったからだ。夕暮れ時、そうして路地裏にたどり着いた。すると、茶髪の三つ編みの少女がこちらを見ているのに気づいた。
「君は太陽神教?」
ハシェルが大きな声を出すと、その少女は慌てたように口を塞ぎに来た。そして青ざめた顔でうなり出した。
「あんた、死にたいの!?」
パルはその少女に穏やかに語り掛けた。
「可愛いお嬢さん、この街の食料問題と、魔女狩りについて聞きたいことがあるのだが。」
すると少女はわなわなと震え出した。
「あの聖女のせいよ。みんながおかしくなりだしたのは。」
「最初は、ただの優しい人だった。でも次々自分に楯突く人を魔女と言って殺して行った。次第にこの街の過密問題は妊婦や身寄りのない孤児のせいだと言って殺し始めた。何故か死体はどこかに消えたけど。」
ハシェルはあっと声を上げた。
「昨日でてきた肉やワインはまさか……」
パルは言った。
「そのまさかだ。殺した人間を、食料として食べていたのだろう。明らかにその聖女は、聖女ではない」
そして少女に向き合って言う。
「わしらは、この街の異常を解決しに来た」
すると少女は目を輝かせた。
「じゃあもしかして、あの聖女を、倒しに来たの?」
その瞬間。
「聖女様がお会いしたいと仰っておられます、ささ、どうぞこちらへ」
ローブが後ろにたっていた。ビクリと3人は振り返る。顔は、見えない。何を考えているのか分からない。
3人は知らないふりをした。そして、誘われるがまま街の中心に聳え立つ、真っ白な教会へと足を進めた。ハシェルが周りを伺うと街中にも白がふんだんに使われており、子供ですら白いフードを深く被りこちらを見ると恭しくお辞儀をした。途中、路地裏がちらりと見えたが、フードのない茶髪の三つ編みの一人の少女がこちらの様子を訝しげに見ていた。手をすっと上げると、ビクリ、とし路地裏の奥へとかけて言った。
そうこうしているうちに教会へと着いた。
溢れんばかりの白に、3人は緊張を高めた。
扉が開かれると、鈴の音を転がしたような美しい声が響く。
「おまちしておりましたわ、パル様、ノア様、ハシェル様」
3人は名前を呼ばれ思わず魔法を展開しかけた。
「あら、そう警戒なさらないで。あたくしに敵意は御座いませんわ。仲良くしましょう、人は仲良くなれるもの。」
外観は教会だったが中には礼拝する像もなく、参観者の座る椅子もなく、奥から手前へと長いテーブル。1番奥にいたのは20歳ほどの優しい顔つきの女性。薄い水色の前髪は左右に緩く分けられ、同じく青い瞳は緩くこちらにほほ笑みかけていた。
「そうだわ、夕食にしましょう。みなで食べればきっとあたくし達のことも理解してもらえるかもしれないわね」
そう言うと、ぱんっ!とその聖女は手を叩いた。
するとまるでその言葉が紡がれることをわかっていたかのように白いローブの給仕係が4人入ってきた。
クローシュが覆いかぶさっている皿を聖女の前に置いたあと、まだ着いていない席の前にもそれを置かれる。
「さぁ、座ってくださいまし。」
促され3人は席に着く。
昨日は気づかなった、というより食欲が失せて分からなかったのだがテーブル上には大きな白いナプキンが置かれている。
これを被れということなのだろう。渋々3人はそのナプキンを頭から被る。3人はここまで会話もできないほど圧巻されていた。
が、ここでハシェルがこっそり口を開く。
「これも、太陽神教の教えのひとつなんですか?」
するとパルもこっそり返す。
「いや、わしの知ってる太陽神教の教えでは、こんな文化はないはずだ。この街特有のものだろうな」
聖女は会話に気づいてはいないようだ。
クローシュが取られると、肉の臭みを消すためなのだろう、きつい香辛料の匂いがあたりに充満し始めた。
ノアは一気に顔を歪ませた。
聖女は、それもさも当たり前かと言うように祈り始めた。
「我々に糧を下さる偉大なる最高神よ、感謝致します」
その言葉を聞いたパルは一気に顔のナプキンをとり、杖を構える。
「お主、太陽神教ではないな!?」
その言葉で、ノアとハシェルの2人も大きく飛び退き、パルの後ろへ下がる。
「どういうこと!?様子はおかしいと思ってたけど…!」
ノアがパルに問いかけるとパルは答える。
「太陽神教だったら、太陽神というはずじゃ!だが、あやつは【最高神】という言葉を使った、この世で最高神なのは月と太陽だけだ!つまりあやつは月の者、魔女だ!」
すると周囲を取り囲んでいたローブの者たちが叫び始める。
「聖女様を守れ!!」
「異端者を排除しろ!」
ハシェルは驚きの声を上げる。
「どういうことですか!?騙されてるんですよ!あなた方!この人は聖女なんかじゃありません!魔女です!!!」
「あなた方は、太陽神教じゃないんですか!?」
ローブたちは答えない。パルは竜巻が描かれた紙を懐から取りだしふっと、息を吹きかける。すると3人を中心に竜巻が起こり、周囲を吹き飛ばす、ローブも、皿も、椅子も。ローブが吹き飛ばされると思わずハシェルはあっと声を上げた。
誰一人、三つ編みの人がいなかったのだ。
そして全員の瞳が黒く渦巻いていた。
「こ、これは…!?」
パルは落ち着いて答える。
「黒は魔女を象徴する色だ!全員、魔女の味方だ!」
ノアは体の周りに毒の球体を出現させながら問う。
「洗脳されてるってこと!?」
ハシェルも続ける。
「あの!洗脳って溶けるんですか!?」
パルは杖を構えたまま答える。
「いや!このものたち自身が魔女の力を受けいれている可能性が高い!わしが教徒たちを引きつける!その間にお前たち二人で魔女をやるんだ!」
2人はえっ!?と同時に声を上げた。
「パルがやるんじゃないの!?」
「逆じゃないですか!?!?」
パルはニヤリ、と二人に振り返る。
「新人たちに花を持たせてやらんとじゃろ?」
すると偽の聖女が声を上げた。
「もういいかしら。そろそろあたくしも月も力が盈ちる時でしてよ。」
聖女の爪が黒に染まり、魔女へと変貌する。
「ふっ」
黒百合が咲きみだれる。
パルが声を上げた。
「お前はいうなれば【咲き乱れる月の魔女】じゃな!!」
ふ、と魔女は美しく笑う。
と同時に指をパチンと鳴らした。
するとノアがあああああ!!!と叫び声を上げた。のあの口の中に何かある。その異物でノアの口が極限まで開かれ、口の端が裂けかけている。
慌ててハシェルはノアの口から異物を無理やり取り除いた。
「ぃだああっっっ!!!」
まるで花が開くように。
口内を開いて脅かしていたのは金型の花だった。
「それは苦悩の梨じゃ!」
パルはローブのものたちを月桂樹で取り押さえながら言う。
「中世の世で使われた魔女の拷問器具じなま!そやつはそれを自由に体の近くに出現させられるらしい!気をつけよ!」
ノアはは口を抑えながらはぁ、はぁ、と方で息をする。
その肩を抱きながらハシェルは言った。
「この魔女の性が分かれば……!!」
すると魔女がにこり、と微笑んだ。
「大丈夫。楽に死なせてあげますからね。」
黒い花弁が舞い散る。その花弁は毒を含んでいるような禍々しい色をしている。肌に触れた瞬間、鋭い痛みが走る。
ローブたちも痛いようで呻き始める。
ノアも同様だったようで
「楽に死なせるつもり、なさそうじゃん!!!」
吐息を切らしながら花弁を避け続ける。
ハシェルは頭の中で学んだ魔女の性を一生懸命思い出す。
死、病、支配、戦争、飢餓、闇、苦痛、憎悪、、、。頭を抱えながらこの魔女の性が何なのか考える。
ノアは花弁を避けながら毒の球体を発生させ、魔女にぶつける。シュウゥッと音を立てて魔女の服が溶ける。
魔女はそんなこと気にもとめないというように髪をサラリと流しパチンと指を鳴らす。
するとパルが拘束していたローブたちの頭がパァん!と勢いよく弾け飛んだ。
「!?」
パルが困惑していると外からも悲鳴が聞こえてきた。
思わずパルは扉を蹴飛ばし外へ出る。すると外にも毒の花弁が舞散りローブを着たものたち全員の首が次々ととんでいた。
「これでみなさま、苦しみなく天国へゆけますね!!」
魔女の声が外まで響く。花弁に太刀打ちできない。その時。
ローブを着ていなかった茶髪の三つ編みの少女がこちらへかけてくるのが見えた。彼女の肌は花弁が触れた後だろう、所々火傷跡のような傷が見えた。彼女は大きな風呂敷のようなものを防空頭巾にし、かけてくる。
「危ない!こちらに寄ってはならん!」
しかしその声を無視し彼女はパルに何かを渡した。
「あの聖女と戦ってるんでしょ!?この花弁、最初は避けてたんだけどさ!気付いたんだ!」
と、風呂敷のようなものを広げる。
それは、太陽神教の紋章が描かれたタペストリーだった。
「ほら!」
と少女がタペストリーで花弁を拾おうとする。そして両者が触れるその瞬間、ジュッとして花弁が消えた。パルは気づいた。
「魔女の月の魔力と対抗する太陽の魔力を僅かながらに帯びている!そうか!長い間戦っていなかったから忘れていた!これだ!!」
そして、少女に告げる。
「いいか、とにかく色んなものに太陽神教のシンボルである六芒星を描いて身を守るんだ。ローブを着ていなかった人たちはまだ、死んでないだろう。みんなに伝えてやってくれ!」
すると少女はうん、と頷き駆け出しながら言った。
「頑張って!みんな死なないでね!」
パルは手を挙げて返す。
そしてあることを思いつき、チョークを取りだし、教会の周りに何かを書き始めた。
一方その頃、ノアとハシェルは苦戦を強いられていた。
「お二人共救ってあげます」
ハシェルは一生懸命思い出す。
「罪…欺瞞……」
そこまで言ってはっと思い出した。し
「偽善!偽善だ!!」
すると魔女はふわり、と不気味な笑みを浮かべた。
「偽善とは失礼ですね、わたくしこそが本当の善ですよ」
魔女は本当はなりたかった、したかった《願い》から生まれる。その願いを満たすか自分たちがそれに「なる」もしくはそれを「する」ことで魔女は死ぬ。
ノアは毒の球体を投げつけながら問う。
「偽善だったら何が効くの!?」
「正義が致命だ!あぁ、ローブの人達がいれば、今の俺らは聖女を倒す正義になったのに!ローブの人達をさっき殺したのは、俺たちを正義にしないためだ!」
魔女はなお微笑みを絶やさない。
致命打がないもうだめだ!と思った時パルの声が聞こえた。
「数多の罪穢れを穢れを祓いたまえ!清めたまえ!」
その瞬間。急速に教会全体が白く光り始め、瞬間的な熱さが魔女を襲った。
「あ、あつい……!!!」
闇夜に大きな六芒星が光り出す。
教会を包むように、六芒星が描かれていた。パルが書いたのだ。そんなことは露知らず、魔女は焦りだした。魔女の体がどす黒くどろり、溶け始めたのだ。
「わたくしを、殺すのですか!?わたくしは、この街を救った聖女ですよ!!」
そして閉じた苦悩の梨を大量に出現させた。
「わたくしを殺すのは咎人です!その罪を贖いなさい!」
ハシェルとノアも溶け始めたことに驚く。
「パル!これ何!?」
ノアがパルに振り返りながら聞く。
「太陽神教の力で、聖なる光を一時的に発生させた、2人とも六芒星の描かれた武器を渡す!これで戦うんだ!」
そうしてノアは大きな鎌を、ハシェルには大剣が投げられた。
「パルナイス!!」
「ありがとうございます!パル!!」
2人は武器を構え、魔女は両手をかかげ。
両者は一気に動き出す。
苦悩の梨はふたりの口内へ向かい飛んでいく。
2人は鎌を、大剣をつかい弾き飛ばしていく。
1気に2人は距離を詰め、その首元へ武器を振り下ろした。
鎌と大剣が交差した時、戦いは決した。
魔女の首が落とされ辺りに舞っていた黒い花弁は一瞬にして消え去った。
「あたくしは…正義…………」
魔女の最後の言葉が聞こえた。
と同時にその体と首は黒く熔け蒸発した。
2人は武器を下ろす。息をつく。
次の瞬間パルが後ろからゆっくり近づいてきた。
「よくやった、だが犠牲者は出た」
その顔は険しかった。
「追悼しよう」
そしてパチンと指を鳴らす。その瞬間魔女に首を飛ばされた全ての遺体が穏やかな青い炎に包まれた。
そしてふわりと、跡形もなく遺体は消えた。
「ローブの人達は、天国に行けるのかな」
ノアが問うと、パルは首を振る。
「わからない。だが、これで魔女の洗脳は解けただろう」
ハシェルは思わず口を開いた。
「そんな!魔女に勝手に殺されて、それで天国へ行けないかもしれないんですか!?この人達は、人を殺して食べていたかもしれないけど、魔女に唆されて、殺されて、救いがあってもいいじゃないですか!」
パルはうん、と頷く。
「太陽に祈れば天国に、月に願えば地獄にいく。少なくとも、月に願ったわけではない。その事実だけが真実じゃ」
ハシェルは、思わず祈った。
どうか、騙され、殺された全てのローブの人たちが罪を赦されますように。天国に、太陽の光の国へ行けますように。
そんなハシェルに、ノアは声をかけた。
「大丈夫だよ!皆きっと天国に行けてるよ!」
パルもハシェルに声外に出る
「とにかく、ローブでなくて助かった人もいるんじゃ。皮肉なことに魔女のおかげで人口過密の問題は解消された。今後は残された人々がこの街を復興するのだ。」
しばらくして3人が外に出るといつの間にか教会の前を大勢の人が取り囲んでおり、皆、六芒星を描いた毛布やタペストリーを握りしめていた。1番先頭にいたのは、あの、茶髪の少女だ。
3人が安堵していると少女があゆみ出てきた。
「3人ともありがとう」
ハシェルの髪色はいちばん悩みました。
髪色や瞳の色は意味があることが多いです。
当初ハシェルは黒髪の予定でした。( *´꒳`*)
この中に出てくる【リゲル⠀】というキャラクターが、一番最初にこの物語を作る時に浮かんだキャラです。1番お気に入りで、夢にも出てきます。彼が出てくるのを楽しみにお待ちください。ここまで読んでいただきありがとうございました。土下座(*´▽`人)アリガトウ♡




