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地味だと追放された公爵令嬢ですが、古代魔術の力で国を救ったら、クールな魔術師団長様が「君こそ我が運命の女神だ  作者: 九葉


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最終話

救国の儀式から数日後。

王都は、かつてないほどの祝賀ムードに包まれていた。

わたくし――アリス・フォン・アルクライドの名は、もはや「地味で役立たずな公爵令嬢」としてではなく、「国を救った古代魔術の聖女」として、吟遊詩人の歌になり、子供たちの憧れの的となっていた。


そんな喧騒をよそに、わたくしは魔術師団の図書室で、相も変わらず古文書の解読に没頭していた。

ここが、わたくしの一番落ち着く場所。

わたくしの、本当の居場所。


「……やはり、ここにいたか」


静かな声に顔を上げると、カイウス様が少し呆れたような、それでいて優しい眼差しでわたくしを見ていた。

彼が差し出した一通の豪華な封蝋の手紙を見て、わたくしは小さくため息をつく。


「また、お父様からでしょうか」

「ああ。『我が家の誇りである娘に、是非とも家に戻り、アルクライド家の栄光のために力を尽くしてほしい』と。これで五通目だな」

「……誇り、ですか」


皮肉な笑みが、自然と浮かぶ。

北の塔にわたくしを幽閉し、死んだように暮らせと言い放ったのは、一体誰だったのか。


「エドワード殿下からも、毎日手紙が届く。『君の真の価値に気づけなかった愚かな私を許してほしい。もう一度、私の隣に』だそうだ。リリアナ嬢とは、早々に婚約を解消したらしい」

「……」


想像に難くない。

リリアナ嬢の実家である男爵家は、今回の騒動で王家の不興を買い、没落の一途を辿っていると聞く。

エドワード殿下は、自らの愚行によって失った権威を取り戻すため、今や救国の英雄となったわたくしに、見え透いた媚を売っているのだ。


「返事は、どうする」


カイウス様の問いに、わたくしは読んでいた本から顔を上げることなく、きっぱりと答えた。


「全て、お断りいたします。わたくしはもう、誰かのための道具トロフィーになるつもりはありませんので」


アルクライド家の栄光も、王妃という地位も、今のわたくしには何の魅力も感じなかった。

誰かに与えられた価値観の中で生きることの虚しさを、わたくしは骨の髄まで知っている。


わたくしの返事を聞いて、カイウス様は満足そうに口の端を上げた。

彼が、わたくしの隣の椅子に静かに腰を下ろす。心地よい沈黙が、二人の間に流れた。


「……アリス」


やがて、彼が真剣な声でわたくしの名を呼んだ。

「君に、伝えたいことがある」


何だろう、と顔を上げると、そこには今まで見たことのないほど真摯な銀色の瞳があった。

「氷の貴公子」と恐れられる彼の頬が、微かに赤らんでいるように見えるのは、きっと気のせいではない。


「初めて、北の塔で君が見せたあの術式を見た時……私は、嫉妬した」


「……え?」

思いがけない言葉に、目を丸くする。


「私自身、生涯を魔術に捧げてきた自負があった。だが、君の理論は、私の知らない、遥か高みにある世界を示していた。……打ちのめされたよ。同時に、心の底から歓喜した。この世界に、私と同じ景色を見て、それ以上の場所を目指せる人間がいたことに」


彼は、そっとわたくしの手を取った。

少しだけ冷たい、けれど大きな、安心する手。


「君の外見や家柄ではない。君のその類稀なる知性、飽くなき探究心、そして困難に屈しない魂の強さ……その全てを、愛している」


――愛している。


その言葉が、雷のようにわたくしの心を貫いた。

心臓が、痛いほどに高鳴る。


「私の隣で、君の好きな研究を、生涯続けてほしい。いや、共に続けさせてほしい。君の見る世界を、私も一緒に見たい」


それは、わたくしが今まで聞いた中で、最も情熱的で、そして何よりも嬉しい求婚の言葉だった。

エドワード殿下が口にした「妃にふさわしい」という言葉とは、全く違う。

彼は、わたくしの「ありのまま」を、その全てを肯定し、愛してくれると言ってくれている。


「君こそが、私の運命の女神だ、アリス」


熱のこもった銀色の瞳に見つめられ、もう、自分の気持ちを偽ることはできなかった。

涙が、ぽろぽろと零れ落ちる。

でも、それは悲しみの涙ではない。

生まれて初めて感じる、どうしようもないほどの幸福感に、胸が満たされていく。


「……はい」


わたくしは、涙で濡れた顔のまま、精一杯の笑顔で頷いた。


「喜んで。カイウス様、あなたの隣でなら……わたくしは、どこまででも行ける気がします」


その瞬間、彼はわたくしの手を引き寄せ、その腕の中に強く、強く抱きしめた。

彼の胸から伝わる鼓動が、わたくしの鼓動と重なって、一つの確かな愛の旋律を奏で始める。


もう、地味だなんて言わせない。

価値がないなんて、思わない。


わたくしは、わたくしのままでいい。

この深い知性と、止まらない探究心こそが、わたくしの何よりの誇りなのだから。


窓から差し込む柔らかな光が、寄り添う二人を祝福するように優しく照らしていた。

その光の中で、カイウス様がそっと囁く。


「ちなみに、エドワード王子とアルクライド公爵には、先ほど『アリスは私の未来の妻だ。今後一切、彼女に近づくことは許さん』と釘を刺しておいた」

「……ふふっ」


彼の少し意地悪そうな、それでいて独占欲に満ちた言葉に、思わず笑みがこぼれる。


ああ、なんて幸せなのだろう。

絶望の淵から始まったこの物語は、最高の幸福の中で、今、新しい章の幕を開けようとしていた。

クールな魔術師団長様の隣で、古代魔術の研究に没頭しながら、時々ちょっとだけ甘やかされる毎日。

そんな未来を想像して、わたくしの心は、希望と喜びに満ち溢れていた。

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