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【1】出会い──壊れた荷車と甘栗
王都ヴェルマリオン、下層街第七区。
石畳は欠け、屋根は傾き、風は煤けた布を翻す。人々は忙しなく生き、笑いながら盗み、泣きながら眠る──そんな街。
その夕暮れ、少年レインは、崩れた荷車の前で泣いていた。
父の言いつけで芋を運んでいたが、路地のならず者に突き飛ばされ、荷台ごと荷物が散らばった。木の車輪は割れ、商品は泥にまみれた。
「……もう、終わった」
誰も助けてはくれない。通りすがる大人たちは笑って通り過ぎた。
そんなとき、誰かが目の前にしゃがんだ。
「……ねえ、大丈夫?」
顔を上げると、少女がいた。
細い身体、少し破れたマント、靴も片方は擦り切れていた。
けれど、瞳は不思議なほど澄んでいて、どこか星みたいだった。
「……栗、いる?」
彼女は、小さな巾着を差し出した。
中には数粒の甘栗。どう見ても、それが“晩ご飯の全て”だった。
「私がご飯を我慢する事よりも、あなたが元気じゃない方が困るでしょ。じゃないと、星も見えないよ?」
その言葉に、少年は泣きながら笑った。