表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/19

【2-10】崩壊

星晶院裏通路


> 『魔力干渉装置に異常。巡回兵へ確認依頼──通報者:E・S』



---


 深夜、南の監視区から続く、人気のない裏通路。

 レインは、誰にも命じられていないはずの通達文を見て、その場所に来ていた。




> “秘密の消息が欲しいなら、この日時、この場所へきて。星の国が本当に助けたいのはあなた自身なのよ。”




 筆跡が──エリのものだった。



(お前が……俺を呼んだ?)



 期待半分、不安半分。

 けれど、彼はまだ信じていた。




──星の国、アルセリア。



エリも覚えていたんだ…


バカみたいな、子供の頃の夢


それでも少なくとも……2人で作りたかった夢の国は、俺の心の中だけに存在する幻想ではなかったんだ───



──レインは堂々と、踵を進め歩いた……





---






「レイン=アークロウ。……まさか………こんな所で………何をしているんだ?」


角を曲がった瞬間、そこにいたのは──勇者:天野悠だった。


「レイン=アークロウ。貴君は現在、王都防衛局の監視対象に指定されている」


「……は?」


「今この場で投降し、無抵抗を約束するならば拘束に留める。だが、抗えば──」


「何の話をしてやがる」


 レインは一歩、後退った。


「本気で…わからないのか?」


「当たり前だ!…俺は、エリに呼ばれたんだ……!」


「…エリセリア女史は先ほど、貴君の侵入行為を通報している。余罪の証拠も確認されている」


「……な…に?」


 全身の血が冷える。

 何かが、確かに──狂っている。



---


「どういうことだ…!…お前は!俺の事がそんなに気に喰わないのか!?なあ!勇者ッ!!」


「私の私情ではない。……君の処罰に関しては国からの正当な処罰命令が出ている。君の魔力記録は“改竄されていた”」



---


「………何を…言っている?──そんなこと!!俺がやるわけっ──

「エリセリア女史によって、証拠も記録装置に残されている!!」



「意味が、わからない」



頭の整理が追いつかない



今、何が起こっているんだ








---





「やだ………やっぱり来たのね。ほんと…お人好し……」



レインの鼓動が止まった。




 その声に振り向けば、

 そこには、夜空を背に、白銀の髪を揺らす彼女の姿があった。




エリセリア=フェルグランド


いつもと変わらぬ、美しい微笑。



---



「天野様、やはり彼…私を尾けてたみたいです。ちょっと怖くて……」





「……お前、何を言って──」





「私、困ってたの。あなたがあんまり“付きまとう”から」





その声に含まれていたのは冷笑と、計算された予測可能な演技だった。





「天野様、私、本当に怖くて……だから…」






──信じる心はひび割れていた。




「な、んだ……それ……」




 レインは、完全に凍りついていた。






---


天野は剣を抜いていた。

 その瞳には、わずかな迷いと覚悟があった。


「貴君との争いは望まないが、拘束を拒むのであれば戦うしかない」


その言葉は宣言であった。



──その刹那──剣が走る!──




「っくそがあああああああああああああああっ!!」


 怒声と共に、レインが跳びかかる。


雷鳴のような剣戟が始まり、鋼鉄の火花が闇を裂いて飛んだ。

怒りと信頼の裏切られた感情が交錯する瞬間だった。


 天野は乱暴に、力任せにレインが振るってくる剣撃を即座に受け流す。


──剣を振り回し殴打するレインの攻撃に剣筋はない。


 剣と剣が激突し、火花が散る。


「落ち着け、レイン!…クッ!… これはっ…命令だ──!」


「黙れぇぇぇぇええええええっ!!」


 激情と怒りが、剣に乗る。


 だが天野は冷静だった。

 的確に、洗練された技術で返す。


 打ち合いが更に激しくなる──!






---



 エリは後方で、その様子を“余裕”の表情で眺めていた。


(これで、レインが拘束されれば……私の地位は盤石ね)


 そう考えていた、その時だった。




---


 天野の剣がレインの振り下ろしを跳ね上げ──

二人の剣が真っ向からぶつかった衝撃により、刃が逸れた。


 跳ね返ったレインの刃が、軌道を逸れ、通路の横を横切ったのだ。








 そして、そこに──偶然、彼女がいた。





ザクリッ──!!



 鋭い鈍音。静寂の刃が、冷たい運命を伝えた。




横合いに飛んだレインの剣の刃の先端が、静かにエリの胸部──心臓付近を貫いた。


「──えっ……?」


 

 



エリの身体が一瞬まどろむように揺れ、後ろ手に崩れた。


彼女の身体には、剣が突き刺さっていた。



「──は?……なに、これ……嘘……でしょ……?」



その瞳は、血で濡れても焦点を失わず、混乱そのものだった。



「……なんで……私が……?」



その声は震えていたが、あざ笑う気味のほのかな皮肉を帯びていた。



---


 彼女の視線がレインに向いた。



 そこには、怒りも悲しみもなかった。



「なんで……私が……っ」



 手を見た。



 血が流れている。






「ありえない……私が……死ぬ……わけ……」



 最後まで、彼女は“因果”を理解しなかった。



 倒れ際に、レインの顔を睨み、叫ぶ。





「ふざけんな……ッ、私が……こんな……のって……」





 ──彼女の言葉は断片で、強く、そしてその視線は──死の向こうへ沈んだ。









---




夜風が震えを帯び、星晶院の尖塔だけが淡く耀いている。王都の裏通路は人影ひとつなく、ただ静寂だけが支配する。


レインはポケットに突っ込んだ小さな手紙を見つめていた。




> “秘密の消息が欲しいなら、この日時、この場所へきて。星の国が本当に助けたいのはあなた自身なのよ。”




~~~




“アルセリアってどう? 星の言葉で“願い”って意味なんだって”


“じゃあ、オレが王で、エリが……”


“女王?”


“……いや、魔法使い”


“……ふふっ、いいね、それ”


“必ず、2人で作ろうねっ!”



~~~





かつて、甘く優しく笑ったあの声が、今は静かな狂気の底にまで響いている。





静寂の中、エリの血が石畳に広がる。

レインは立ち尽くし、剣を持った手が震えを止めない。







---




「……レイン=アークロウ、貴様を拘束する」



天野が声を発したとき、その瞳にはまだ“信じた者を失った悲しみ”だけが─映っていた。



「罪状は、星晶院魔導側近・エリセリア・クルス殺害――および国家反逆の疑い」



駆けつけた王都衛兵がレインを取り囲み、剣を向ける。

誰一人、彼の悲痛な顔を読み取る者はいなかった。


鋼鉄の拘束具がカチリと嵌まり、レインの自由は完全に失われた。





「違う……俺は……!」




言葉は、誰にも届かない。



死んだエリは真相を語らず、天野は事実だけを信じる。


こうしてレイン=アークロウは、

“正義を守る者”によって “国家の裏切り者”として処される。





だが──これが彼の《本当の始まり》だった。








---




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ