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【2-8】疑念の交差

王都・詰所街・小酒場裏路地


「……なあ、昨日の夜、俺が誰か呼び込んだとか言った奴、誰なんだよ」


 レインは、かつての同僚を裏通りで呼び止めた。

 詰所に出入りする伝令兵や夜番兵たちの中に、告発の出所があると睨んでいた。


「知らねぇよ。けど、あんた最近“浮いてる”のは確かだ。……あの副長さんも、勇者様の専属になってから、お前と口きいてるとこ見ねぇしな」


「エリが関係あるわけねぇだろ。それにあいつはもう今は副長じゃねぇ……きっと、忙しいだけだ…」


「……そう思いたいなら、最初から愚痴なんてこぼさずに、そう思っときゃいいじゃねえか」


 その声は、哀れみを含んでいた。





王宮講堂前・天野とエリセリア


「天野様、こちらの魔術解釈式ですが、書き換えの余地がありそうです」


「なるほど……君の視点、参考になる。やはり魔術を“感覚で扱う”側の意見は違う」


 二人は並んで講堂前の段差に座り、書類をめくっていた。


 周囲の宮廷関係者たちが遠巻きに見つめる。

 まるで、“理想的な英雄と参謀”のようだった。


「……君は、なぜ僕にここまで尽くしてくれるんだい?」


「私は、“天野悠”という人物を信じているからです。それだけですよ」


 彼女はそう言って、自然に微笑んだ。

 その笑みに、わずかな計算の気配など、天野は微塵も感じなかった。



---


詰所・レインの孤立


 その日の夕方、レインは呼び止められた。


「アークロウ。明日から、勤務配置が変わる。南門の交代要員に回れ」


「……え、あの、それは新兵の……俺、なんかやりましたか?」


「上からの命令だ。“お前の動向を観察する”ってさ」


 彼は知らなかった。

 この瞬間、彼は“処理対象”として人事記録にマークされたことを。





帰路──足音の影


 夜、王都裏路地。


 レインは、人気のない石畳を歩いていた。

 胸の奥に、鉛のような重さがあった。


「──なあ、エリ」


 呟いた声に、返事はない。


「お前、今……どこにいるんだ?」


 空を見上げた。


 高い塔の窓に、光がひとつ灯っていた。

 彼女がいる、星晶院の上層区画だ。


 いつからか、その光が“遠く”に思えた。





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