表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/15

第14章:魔導王覚醒と最終対峙

次回最終回!!



学園祭の喧騒が徐々に収まっていく中、闇が深まっていった。夜空に浮かぶ月は青白く輝き、学園島に神秘的な光を投げかけている。


「そろそろ戻ろうか」

莉玖が提案した。新しい宿舎へ向かう時間だ。


私たち四人は人気の少なくなった広場を横切り、特別区域へと歩き始めた。すずねはまだ興奮冷めやらぬ様子で、花火の感想を饒舌に語っていた。紅はそんな彼女の様子を穏やかな目で見守り、時折頷いている。莉玖は明日からの予定を考えているのか、少し考え込んだ表情をしていた。


そんな平和な瞬間に、異変は訪れた。


突然、学園島全体が大きく揺れた。まるで地震のような振動に、私たちは思わず足を止めた。


「何が…?」

紅が周囲を警戒し始める。


次の瞬間、中央塔の方向から強烈な赤い光が噴き出した。昨夜の青い光とは異なり、不吉な赤色が夜空を染めていく。


「まさか…!」

莉玖の表情が一変した。


学園内のあちこちから悲鳴が上がり始めた。まだ学園祭を楽しんでいた生徒たちが混乱に陥っている。


「中央塔だ!」

俺は叫んだ。

「行こう!」


四人は全速力で中央塔へと走り出した。途中、混乱から逃げる生徒たちとすれ違う。彼らの表情には恐怖が浮かんでいた。


「守護者チーム!」

教師の一人が私たちを見つけ、駆け寄ってきた。

「理事長が急いで来るよう言っています!地下室へ!」


塔の入口に着くと、そこは昨夜とは打って変わって混乱状態になっていた。教師たちが慌ただしく出入りし、指示を出し合っている。


昨日使った隠された階段へと急ぐ。階段を降りていくにつれ、不吉な赤い光がより強く、より濃密になっていった。壁に描かれた魔法陣が赤く点滅し、危険を知らせている。


地下室に着くと、そこにはすでに理事長と蒼井の姿があった。彼らは必死に何かの対策を講じているようだったが、その表情からは絶望が見て取れた。


「来たか!」

理事長が私たちに気づき、振り返った。

「大変だ、結晶が…!」


私たちの視線は中央へと向かった。そこには「蒼天の心臓」が浮かんでいたが、その様子は昨夜とは全く異なっていた。かつての美しい青い輝きは消え、代わりに不気味な赤い光が内部から漏れ出していた。結晶の表面には無数の亀裂が走り、そこから赤い霧のようなものが噴き出している。


「何が起きたんですか?」

莉玖が理事長に尋ねた。


「侵食が始まった」

理事長の声は震えていた。

「昨夜の儀式では完全に封じ込められなかったようだ。侵食エネルギーが内部で増殖し、ついに…」


「昨日の赤い結晶は?」

紅が尋ねた。


「すべて集めて封印したが、間に合わなかった」

蒼井が歯噛みした。

「すでに結晶内部で侵食プロセスが始まっていたんだ」


「何か、できることは?」

俺は周囲を見回した。


「最後の手段がある」

理事長が決意に満ちた表情で言った。

「『魔導王覚醒』だ」


「魔導王覚醒?」

四人が同時に声を上げた。


「蒼天の心臓の力を一人に集中させ、その者を一時的に『魔導王』として覚醒させる儀式だ」

理事長が説明した。

「覚醒した魔導王なら、侵食エネルギーを押し返せるかもしれない」


「しかし、代償は大きい」

蒼井が続けた。

「覚醒者の精神と肉体に多大な負担がかかる。最悪の場合、命を落とす可能性もある」


「私がやります」

理事長が一歩前に出た。

「私の責任です」


「駄目です!」

蒼井が止めた。

「あなたの年齢では、体が持ちません」


「では誰が…」


その時、結晶から巨大な赤い光柱が噴き出し、地下室の天井を突き破った。地上まで達したであろう光柱が、一際強い震動を引き起こす。


「時間がない!」

蒼井が叫んだ。

「このままでは結晶が完全に侵食され、学園全体が危険に…」


「俺がやる」

四人の中から、紅が一歩前に出た。彼女の表情には強い決意が浮かんでいた。


「紅先輩…」

すずねが不安そうに呟いた。


「俺は火属性だ」

紅は冷静に言った。

「火は浄化の象徴。侵食エネルギーとの相性が最も良いはずだ」


「しかし、危険すぎる」

理事長が心配そうに言った。


「私がこの役割を与えられたのは、こういう時のためなのでしょう」

紅の表情に迷いはなかった。

「『紅炎の剣士』として、学園を守る」


「紅…」

俺は彼女を止めるべきか迷った。だが、彼女の決意の強さを知っている。一度決めたことは、誰にも変えられない。それが紅という人間だ。


「準備を」

理事長は覚悟を決めたように頷いた。

「儀式の準備をするぞ」


理事長と蒼井が急いで準備を始める中、私たちは紅の周りに集まった。


「本当に大丈夫なの?」

莉玖が心配そうに尋ねた。


「ああ」

紅は静かに頷いた。

「これが俺の役割だ」


「でも…」

すずねの目には涙が浮かんでいた。


「泣くな」

紅がすずねの頭を優しく撫でた。普段見せない優しさだった。

「大丈夫だ。必ず戻ってくる」


紅は俺に向き直った。

「神楽坂、頼む。俺がいない間、二人を頼む」


「ああ、わかった」

喉が詰まる思いで答えた。

「でも、お前も必ず戻ってこい」


紅は小さく微笑んだ。

「約束する」


「準備ができました」

理事長が呼びかけた。


中央には新たな魔法陣が描かれ、結晶の周りを取り囲んでいた。紅はそこに立ち、深呼吸をした。彼女は火剣を抜き、前に構えた。


「儀式を始めます」

理事長が宣言した。

「皆さん、彼女の周りに立ち、力を送ってください」


私たち三人と理事長、蒼井が魔法陣の外周に立った。


「魔導王の儀式、開始」


理事長が唱え始めると、魔法陣が赤と青の光で明滅し始めた。紅の体が浮かび上がり、彼女の周りに炎のオーラが形成される。


「火の力よ、集え。蒼天の心臓と共鳴せよ」


結晶から青い光の筋が伸び、紅の体に吸収されていく。同時に、赤い侵食エネルギーも彼女に引き寄せられていった。


「くっ…!」

紅の表情が歪んだ。明らかに激痛に耐えている。彼女の体は青と赤の光に包まれ、その間で葛藤が続いているようだった。


「紅先輩!」

すずねが叫んだ。


「大丈夫だ…」

紅の声は苦痛に満ちていたが、強い意志も感じられた。

「これを…乗り越える…!」


紅の体がさらに強く輝き始め、その姿が変容していく。彼女の髪が炎のように燃え上がり、目は鮮やかな赤に変わった。体から漂うオーラは以前の比ではなく、部屋全体を炎の気配で満たしていく。


「紅炎魔導王、覚醒」

理事長の宣言と共に、紅の変容が完了した。彼女はもはや普段の姿ではなく、炎を纏った王者のような風格を放っていた。火剣も巨大な炎の剣へと変わり、その一振りで周囲の空気が歪むほどの熱を帯びている。


「侵食エネルギーを…」

理事長が紅に指示を出した。

「結晶の中の赤い力を…浄化してください!」


紅は結晶に向かって炎の剣を向けた。

「紅炎浄化の剣…」


剣から巨大な炎の柱が放たれ、結晶を包み込んだ。赤い侵食エネルギーと青い蒼天の力、そして紅の炎が激しく交錯する。結晶内部では、赤と青と紅の光が互いに闘い合っていた。


「負けるな!」

俺は思わず声を上げていた。


莉玖とすずねも固唾を呑んで見守る。この戦いの行方が、学園の運命を左右するのだ。


「ああっ…!」

紅から悲鳴が上がった。浄化の過程で、侵食エネルギーが彼女の体にも影響を及ぼし始めているようだ。彼女の姿が一瞬揺らぎ、覚醒状態が不安定になる。


「このままでは…」

理事長が心配そうに呟いた。


「力を送らなきゃ!」

莉玖が叫んだ。

「私たちの力を紅先輩に!」


私たち三人は魔法陣に近づき、自分たちの力を放出し始めた。莉玖の風、すずねの霧、そして俺の風の契約の力。三つの異なる力が紅へと流れ込んでいく。


「俺たちの力を使え、紅!」

俺は叫んだ。


紅の姿が再び安定し始め、彼女の炎がより強く、より鮮やかに燃え上がった。


「みんな…」

紅の声が響いた。

「ありがとう…」


新たな力を得た紅は、炎の剣をさらに高く掲げた。

「蒼天絆滅!」


四人の力が一つとなった光が放たれ、結晶を貫いた。侵食エネルギーが悲鳴のような音を立て、徐々に消えていく。赤い光が薄れ、代わりに青い光が強くなってきた。


「効いている!」

蒼井が興奮した声で叫んだ。

「侵食が後退している!」


私たちは最後の力を振り絞り、紅に注ぎ込んだ。莉玖の風が紅の炎を大きく燃え上がらせ、すずねの霧が侵食エネルギーを捕らえて動きを鈍らせる。そして俺の風の契約の力が、それらを結びつける接着剤となった。


「ああああっ!」

紅の雄叫びと共に、最後の一撃が結晶を貫いた。まばゆい光が部屋中を包み込み、一瞬で視界が真っ白になる。


光が収まると、結晶は元の青い輝きを取り戻していた。侵食エネルギーの赤い痕跡は完全に消え、平穏な姿に戻っている。


「成功した…」

理事長は安堵の表情を浮かべた。


だが、その喜びも束の間、紅の体が空中から落下した。魔導王としての力が消え、彼女は通常の姿に戻っていた。


「紅!」

俺は急いで駆け寄り、彼女を受け止めた。腕の中の彼女は、あまりにも軽く感じられた。その顔は青白く、体温も低下している。


「医療班を呼べ!急いで!」

理事長が叫んだ。


すずねが泣きながら紅の手を握り、莉玖も心配そうに彼女の様子を見つめていた。


「紅…」

俺は彼女の名を呼んだ。

「しっかりしろ…約束しただろう…」


かすかに、紅の唇が動いた。

「約束は…守る…」


彼女の意識はあるようだが、非常に弱っている。魔導王の力を制御し、侵食エネルギーを浄化する過程で、多大なダメージを受けたのだろう。


医療班が駆けつけ、紅は緊急処置を受けた。治療魔法が次々と施され、彼女の体は徐々に正常な色を取り戻していった。


「大丈夫でしょう」

医療班の主任が告げた。

「魔力を使い果たして消耗が激しいですが、命に別状はありません。しっかり休めば回復します」


全員がほっと胸をなでおろした。


「彼女の勇気と犠牲によって、学園は救われた」

理事長が厳かに言った。

「彼女は真の英雄だ」


紅は担架に乗せられ、医務室へと運ばれていった。私たち三人も付き添おうとしたが、理事長が止めた。


「まだ終わっていない」

彼は言った。

「蒼天の心臓は安定したが、侵食エネルギーの一部が地上に漏れ出してしまった。それを処理しなければならない」


「どういうことですか?」

莉玖が尋ねた。


「侵食エネルギーが具現化して、学園内を彷徨っている」

蒼井が説明した。

「このままでは生徒たちが危険だ」


「どんな姿なんですか?」

俺が尋ねた。


「紅の魔導王化によって引き寄せられた侵食エネルギーが、彼女の姿を模して具現化したようだ」

理事長が答えた。

「『影の魔導王』とでも呼ぶべき存在が、上で暴れている」


「私たちが倒します」

莉玖が決意を示した。


理事長は三人を見つめ、頷いた。

「君たちなら、できるだろう。だが、紅がいない今、さらに強い絆が必要だ」


「大丈夫」

俺は言った。

「私たちの絆は、揺るがない」


すずねも涙を拭って立ち上がった。

「すずね、頑張る!紅先輩のためにも!」


私たち三人は地上へと急いだ。学園中央広場に着くと、そこには恐ろしい光景が広がっていた。紅を模した姿の存在が、赤黒い炎を振りまきながら暴れていた。その周りでは、教師たちが必死に防衛魔法を展開しているが、効果はほとんど見られない。


「あれが…影の魔導王」

莉玖が息を呑んだ。


「気持ち悪い…」

すずねが顔をしかめた。


影の魔導王は紅に似ているが、その姿は歪で不自然だった。目は血のように赤く、体からは黒い霧が立ち上っている。火剣も歪んだナイフのような形になっていた。


「倒すぞ」

俺は風の刃を形成した。


「ええ」

莉玖も風の魔法を準備した。


「すずねも!」

すずねの周りに紫色の霧が渦巻き始めた。


影の魔導王は私たちに気づくと、不気味な笑みを浮かべた。その声は紅のものでありながら、どこか金属的で歪んでいた。

「魔力…よこせ…」


それが攻撃の合図だった。影の魔導王が一気に飛びかかってきた。その速度は尋常ではなく、ほとんど反応できないほどだった。


「風の盾!」

莉玖が素早く防御魔法を展開し、攻撃を受け止めた。だが、盾は一撃で砕け散る。その力は予想以上だった。


「くっ…」

莉玖が苦しむ。


「こっちだ!」

俺は風の刃を振るって影の魔導王の注意を引いた。


影の魔導王は向きを変え、こちらに飛びかかってきた。俺は風の力で跳躍し、かわそうとする。だが、影は俺の動きを読んだように軌道を修正してきた。


「危ない!」

すずねが霧の壁を作り、一瞬だけ影の動きを鈍らせる。それでも完全には防げず、黒い炎が俺の腕を掠めた。


「うっ!」

激痛が走る。普通の火傷とは違う、魂を焼くような痛みだった。


「颯!」

莉玖が風の刃を連続で放った。


影の魔導王は数発をかわしたが、一発が肩に命中した。だが、ダメージは表面的なものにしか見えなかった。


「効かない…?」


影は瞬く間に回復し、今度は莉玖に向かって突進した。


「危ない!」

俺は急いで莉玖の前に立ち、風の盾を展開した。盾は砕けたが、一瞬の猶予を生み出すことはできた。


「連携して攻撃するしかない」

莉玖が言った。

「すずね、見えない弱点はない?」


すずねは霧の力で影を観察した。

「あるよ!胸に赤い核みたい」


「そこを狙おう」

俺は言った。


三人で迅速に作戦を練る。すずねの霧で影の動きを制限し、莉玖が風の鎖で拘束、そして俺が決定打を与える計画だ。


「いくよ!」


すずねが両手を広げ、濃い紫色の霧を放った。

「霧の牢獄!」


霧が影の魔導王を取り囲み、その動きを鈍らせる。影は苛立たしげに霧を払おうとするが、容易には消えない。


「風の鎖!」

莉玖が詠唱すると、青い光の鎖が現れ、影を縛り付けた。


「今だ!」


俺は風の力で高く跳躍し、エネルギーを風の刃に集中させた。体内の風の力、蒼天覚醒の力、そして紅への想いを込めて。


「風よ、我が刃となれ!」


刃が青白い光を放ち、その姿が変わっていく。より長く、より鋭く、より強力に。


「蒼風絆斬!」


俺は全力で影の胸を突き刺した。刃が赤い核を貫き、影が悲鳴を上げる。黒い霧が激しく渦巻き、影の体が崩れ始めた。


「これで終わりだ!」


三人の力が合わさり、最後の一撃を放った。光の爆発が起き、影の姿がついに消滅した。残ったのは、赤い結晶の欠片だけ。それは徐々に色を失い、透明になっていった。


「やった…」

莉玖がほっとした表情を見せた。


「紅先輩のお陰だね」

すずねが空を見上げた。

「先輩の力が、私たちを助けてくれたんだよ」


「ああ」

俺も同意した。

「紅の想いが、俺たちに力を与えてくれた」


三人は疲れ切った体で医務室へと向かった。そこでは、紅が静かに眠っていた。彼女の表情は穏やかで、安らかな寝息を立てている。


「大丈夫よ」

医務室の医師が言った。

「彼女は強い。きっとすぐに回復するでしょう」


私たちは紅のベッドの周りに座り、見守り続けた。理事長と蒼井も訪れ、状況を聞いた後、安堵の表情を見せた。


「君たちは本当に素晴らしいチームだ」

理事長は感動的な表情で言った。

「この危機を乗り越えられたのは、君たちの絆のおかげだ」


夜が明け、朝日が窓から差し込み始めた頃、紅がゆっくりと目を開いた。


「みんな…」


「紅先輩!」

すずねが飛びつこうとしたが、莉玖に制止された。


「ゆっくりね、すずねさん。紅先輩はまだ弱っているわ」


「おはよう」

俺は微笑んだ。

「約束通り、戻ってきたな」


紅はかすかに微笑み、頷いた。

「ああ…約束だからな」


私たち四人は再び一つになった。この試練を乗り越え、絆はさらに強くなった。蒼天の守護者として、これからも共に歩んでいく道は、決して平坦ではないだろう。だが、この絆があれば、きっと乗り越えられる。


その確信を胸に、私たちは新たな朝を迎えたのだった。

次章が最後になると思います!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ