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第13章:蒼天の決戦儀式


翌朝、学園全体に公式アナウンスが流れた。

『昨夜の異常現象は、体育祭の最終試練の一環でした。蒼天の力が一時的に不安定になりましたが、勇敢な生徒たちの活躍により事態は収束しました。体育祭は本日、最終段階「蒼天の決戦儀式」で締めくくられます。全ての生徒は午後二時に中央広場に集合してください』

俺は窓際に立ち、学園を見渡した。昨夜の騒動の痕跡はほとんどなく、日常が戻っていた。だが、もう何も同じではない。俺たちは真実を知ってしまった。学園は人類最後の砦であり、外の世界には「侵食者」と呼ばれる恐ろしい存在がうようよしている。そして俺たちは、その脅威から学園を守る役目を与えられたのだ。

昨夜、理事長から多くの説明を受けた。蒼天の心臓は古代文明の遺産で、浮遊島を支え、結界を維持する力の源。体育祭の真の目的は、次世代の守護者を選抜し、蒼天の力と共鳴できる人材を見つけることだった。

ノックの音がして、莉玖、紅、すずねが入ってきた。三人とも儀式用の特別な制服を着ていた。以前より装飾が豊かで、より格式高いデザインだ。

「颯、これ」

莉玖が新しい制服を差し出した。

「理事長から届いたわ」

俺も儀式用の制服に着替えた。淡い青色の基調に金の刺繍が施され、胸元には「風の契約者」を表す特別な紋章が輝いていた。

「似合うね!」

すずねが嬉しそうに言った。

「どう思う?」

紅が突然尋ねた。

「昨日のこと…全部」

四人は静かになった。誰もが同じ疑問を抱えていたのだろう。

「複雑だ」

俺は正直に答えた。

「騙されていたような気もするけど…でも、理解できる部分もある」

「私も」

莉玖が頷いた。

「状況を考えれば、全ての生徒に真実を告げるのは難しかったでしょうね」

「すずねは…少し怖いけど」

すずねが小さな声で言った。

「でも、みんなと一緒なら大丈夫!」

「いずれにせよ、後戻りはできない」

紅が冷静に言った。

「我々は選ばれた。最後まで責任を果たすべきだ」

「ああ」

俺も同意した。

「俺たちにできることをやろう」

話し合いの後、四人は中央広場へと向かった。途中、生徒たちから注目の視線を浴びる。昨夜の出来事の詳細は公表されていないが、私たちが何らかの重要な役割を担ったことは知れ渡っているようだった。

「神楽坂!よくやったぞ!」 「風祭、さすがだな!」 「昨日の青い光、君たちが止めたんだって?」

生徒たちの声に、照れくさい気持ちになった。英雄扱いされるのは慣れないが、嫌な気分ではない。特に魔力ゼロと蔑まれていた頃を思えば、大きな変化だった。

中央広場には特設ステージが設けられ、生徒たちが集まり始めていた。ステージの中央には「蒼天の心臓」の小さな破片が置かれ、青く輝いている。

「あれは…」

莉玖が驚いた様子で言った。

「心臓の破片か」

紅も驚いていた。

私たちが指定された席に着くと、理事長が登壇した。彼はいつもより厳かな装束に身を包み、杖を手に持っていた。

「セレスティア・アカデミー第108回魔法体育祭、最終段階『蒼天の決戦儀式』を始めます」

理事長の声が広場全体に響き渡った。生徒たちが静まり返る中、彼は話を続けた。

「この体育祭では、多くの生徒が素晴らしい活躍を見せてくれました。特に、最終試練を乗り越えた四人の生徒たちに、特別な称賛を送りたいと思います」

理事長が私たちを指さすと、観客席から大きな拍手が沸き起こった。

「神楽坂颯、風祭莉玖、火野紅、小鳥遊すずね。彼らは試練の中で卓越した能力と、何よりも強い絆を示してくれました。蒼天の力と共鳴し、学園の危機を救ったのです」

拍手がさらに大きくなる。すずねが恥ずかしそうに俺の袖を引っ張った。

「これより、彼らに特別な称号を授与します」

理事長が続けた。

「「蒼天の守護者」という称号です」

守護者?私たちは驚きの表情で互いを見つめた。ここまで公式な形で認められるとは予想していなかった。

「四人、前に出てください」

私たちはステージの中央に進み出た。理事長は杖を掲げ、「蒼天の心臓」の破片が輝き始めた。

「神楽坂颯。風の契約者にして、魔力ゼロから卓越した成長を遂げた者。あなたに『蒼風の守護者』の称号を与えます」

理事長の杖から青い光が放たれ、俺の胸元の紋章に吸収された。風の力が増し、より深く、より鮮明に感じられるようになる。

「風祭莉玖。風属性の頂点に立ち、知性と機転で仲間を導いた者。あなたに『碧風の賢者』の称号を与えます」

莉玖も同様に光を受け取り、彼女の周りに風のオーラが形成された。

「火野紅。炎の意志を持ち、決して諦めない勇気を示した者。あなたに『紅炎の剣士』の称号を与えます」

紅の周りに赤い炎のオーラが形成され、彼女の火剣が鮮やかに輝いた。

「小鳥遊すずね。霧の中に真実を見る純粋な心の持ち主。あなたに『紫霧の魔女』の称号を与えます」

すずねの周りに淡い紫色の霧が渦巻き、彼女の目が一瞬輝いた。

「四人の力が合わさり、蒼天を守る。今ここに、蒼天守護者チームの誕生を宣言します!」

会場から大きな歓声と拍手が沸き起こった。私たちは茫然としながらも、誇らしい気持ちで立っていた。

理事長は四人に近づき、小声で言った。

「これで正式に学園の守護者となった。詳細は後ほど…」

セレモニーの後、私たちは特別に用意された部屋に案内された。そこには理事長と蒼井が待っていた。

「おめでとう」

理事長が微笑んだ。

「正式な守護者として、これから多くの責任を担うことになる」

「何をすればいいんですか?」

莉玖が尋ねた。

「主に三つの役割がある」

蒼井が説明した。

「一つ目は『蒼天の心臓』の研究と保護。二つ目は結界の強化。そして三つ目は、万が一結界が破られた時の対策だ」

「結界が破られる可能性があるんですか?」

紅が驚いた様子で尋ねた。

「残念ながら、その可能性は年々高まっている」

理事長が重々しく言った。

「外界の侵食者たちは、かつてないほど結界に圧力をかけている」

「でも、昨日の儀式で結界は強化されたんでしょう?」

俺が尋ねた。

「一時的にはね」

蒼井が答えた。

「だが、永続的な解決ではない。我々は長期的な対策を練る必要がある」

「具体的には何をすればいいですか?」

「まずは特別訓練だ」

理事長が言った。

「君たちの潜在能力を最大限に引き出すための訓練。特に神楽坂くん、君の風の契約はまだ発展途上だ」

「それから、古代遺跡の調査も」

蒼井が付け加えた。

「学園島には、まだ多くの秘密が眠っている。『蒼天の心臓』に関する手掛かりもあるはずだ」

「すずねも役に立てる?」

すずねが小さな声で尋ねた。

「もちろん」

理事長は優しく微笑んだ。

「特に君の霧の力は貴重だ。見えないものを見る能力は、調査に大いに役立つだろう」

私たちは顔を見合わせ、頷き合った。これが私たちの新しい使命なのだ。

「あの…一つ質問があります」

莉玖が手を挙げた。

「赤い結晶…あれは何だったのですか?」

理事長と蒼井は表情を硬くした。

「侵食者のエネルギーが結晶化したものだ」

蒼井が渋々答えた。

「我々はそれを研究していた」

「グリフォンを操ったのも?」

紅が鋭く尋ねた。

「…そうだ」

蒼井は認めた。

「だが、あれは事故だった。研究用の結晶が予期せず反応し…」

「もう隠し事はやめよう」

理事長が蒼井の言葉を遮った。

「彼らは守護者だ。真実を知る権利がある」

理事長はため息をつき、説明を始めた。

「侵食者のエネルギーには特殊な性質がある。蒼天の力と正反対の性質だ。我々は、その性質を逆手に取り、結界を強化する方法を研究していた」

「敵の力を利用する…」

紅が呟いた。

「危険な賭けだが、時間がないんだ」

蒼井が言った。

「侵食者たちは日に日に強くなっている」

「それで、グリフォンは?」

俺が尋ねた。

「実験の一環だった」

理事長が正直に認めた。

「蒼天覚醒で増幅された魔力と、侵食エネルギーの相互作用を観察するためだ。だが、予想外の暴走が起きてしまった」

「命がけの実験に生徒を巻き込むなんて…」

紅の声には怒りが滲んでいた。

「謝罪する」

理事長は深く頭を下げた。

「だが、我々に選択肢は限られていた。魔力を持つ若い世代の力なしには、この危機を乗り越えられないんだ」

重い沈黙が流れた。怒りを感じつつも、状況の緊急性も理解できる。私たちは複雑な思いで立ち尽くしていた。

「これから全てを包み隠さずに話そう」

理事長が約束した。

「守護者として、君たちには全ての情報を知る権利がある」

「今日から特別な宿舎に移ってもらう」

蒼井が話題を変えた。

「四人一緒の共同宿舎だ。訓練や任務のためにも便利だろう」

「一緒に住むの?」

すずねが目を輝かせた。

「やったー!」

私たちは苦笑しながらも、それが悪くない案だと思った。これだけ深く関わることになったのだから、一緒にいた方が何かと便利だろう。

「これから先、容易な道のりではないだろう」

理事長が真剣な表情で言った。

「だが、君たちなら乗り越えられる。体育祭での活躍を見れば、その確信は揺るがない」

蒼井も頷き、

「君たちは特別だ。特に神楽坂くん、君の成長は私たちの予想をはるかに超えた。風の契約がここまで成功するとは…」

「俺は…」

言葉に詰まる。確かに成長は感じていたが、それでも「特別」と言われると戸惑う。ほんの数週間前までは「魔力ゼロ」として蔑まれていたのだから。

「単独の力ではない」

莉玖が俺の気持ちを察したように言った。

「私たち四人の絆があったからこそ、ここまで来られたのよ」

「ああ、その通りだ」

紅も珍しく温かな表情で頷いた。

「みんな大好き!」

すずねが無邪気に笑った。

理事長は満足げな表情で私たちを見つめていた。

「その絆が、これからの道のりでも君たちを支えるだろう」

ミーティングの後、私たちは新しい宿舎に案内された。それは学園の特別区域にある小さな塔で、四つの個室と共有スペースを備えていた。窓からは学園全体が見渡せ、遠くには蒼い霧の壁が見える。私たちの守るべき世界だ。

荷物を運び込み、新しい生活の準備を始める中、俺は窓際に立ち、空を見上げた。

「思えば、全ては風の契約から始まったんだな」

莉玖が俺の隣に立った。

「ええ。あの日、私があなたを選んだのは直感だったけど…今では、それが運命だったように思えるわ」

「俺も同感だ」

紅も加わった。

「最初は半信半疑だったが、今では確信している。我々四人は、何かの導きで結ばれたのだと」

「すずねは前から知ってたよ!」

すずねも飛び跳ねながら言った。

「私たちは特別なチームになるって、先生が言ってたもん!」

「その先生ってのは、いったい…」

紅が尋ねかけた時、鐘の音が学園中に響き渡った。

儀式の時間だ。私たちは正装を整え、中央広場に戻った。そこでは全校生徒が集まり、体育祭の閉会式が行われようとしていた。

理事長の締めの言葉、表彰式、そして最後には「蒼天の誓い」という伝統的な宣誓が行われた。初めて知る儀式だったが、今の私たちにとっては特別な意味を持つものだった。

「蒼天の下、我らは誓う」 「魔法の力を正しく使い」 「学びを深め、絆を守り」 「セレスティア・アカデミーの名誉を汚さぬことを」

生徒全員で唱和する言葉に、今までにない重みを感じた。それは単なる学生の誓いではなく、人類最後の砦を守る守護者としての誓いでもあったのだから。

閉会式の後、学園祭が始まった。体育祭の緊張から解放された生徒たちが、思い思いに屋台を楽しんでいる。

「少しだけ、楽しんでもいいよね?」

すずねが期待に満ちた表情で尋ねた。

「ああ」

紅が意外にも快く同意した。

「明日からは厳しい訓練が始まるだろう。今夜くらいは息抜きしても良い」

私たちは学園祭を満喫した。屋台で食べ物を買い、ゲームに興じ、夜空を彩る花火を眺めた。すずねが無邪気に喜ぶ姿、莉玖が控えめに微笑む顔、紅がめったに見せない笑顔。どれも大切な仲間の一面だった。

「ねえ、颯」

すずねが花火を見上げながら尋ねた。

「これからも、みんなと一緒にいられる?」

「ああ、もちろんだ」

俺は笑顔で答えた。

「約束する?」

「約束するよ」

俺はすずねの頭を優しく撫でた。

「俺たちは蒼天の守護者だ。これからもずっと一緒にいる」

「やった!」

すずねは嬉しそうに飛び跳ねた。

花火が夜空を彩る中、私たちは未来への決意を新たにした。試練はまだ始まったばかりだ。だが、この絆があれば、どんな困難も乗り越えられると信じていた。

風の契約から始まった旅は、ここからさらに続いていく。蒼天の下、私たちの物語は始まったばかりだった。

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