表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

01

「第一王子も攻略しちゃった」

 ゲームをして思っただけど、男全員クソじゃない?

 婚約者が居るにも関わらず、婚約者をほったらかしにして、別の女性を懇意(こんい)にしていたらそりゃ嫌がらせの一つもしたくなる。嫌がらせは、ダメだけど。まず、自分の行いを見直せやクズ共と思うのは私だけ? その挙句、公衆の面前で婚約破棄とか頭沸いているのか! って、股を蹴り上げたくなった。

 そういう私だって、クソゲーの乙女ゲームをしているじゃないって、突っ込みたい気持ちは分かる。

 二次創作のBLで興味が湧いたから、ほら、偶にない? 二次創作を読んで興味が湧いて、原作を読みたくなる事。その二次創作にでてくる悪役令嬢ことリリアーナ・フルメリンタが腐女子で、婚約者フリードリヒと騎士レヴィン・テントスゴの話がツボで、そこから沼にハマった。悪役令嬢ではなく、恋のキューピッドじゃん! って、思わず突っ込んでしまった。分かる。分かる。頷いた。


 悪役令嬢は好きだけど、ヒロインは好きになれない。

 リリアーナだって最初から悪役令嬢だったわけではない。プライドはエベレストより高かったけど、其れが傲慢に見える事もあるかもしれない。言い方こそ棘のある言い方だけど、人としてやってはいけない事を咎めた。「婚約者の居る殿方と距離が近すぎるのでは、はしたない 」と、咎めた。マイルドな言い方ではなかったけど。一言、彼女は多いのだ。だから誤解されやすい。裏設定で、善意活動をしていたし、孤児院の子どもから好かれていた。子どもから裏でツンデレと呼ばれていた事には腹が割れそうなくらい笑いこけた。

 この裏設定を知って、悪役令嬢(リリアーナ)の印象も変わった。彼女を此処まで追い詰めた人は"悪"ではないのかと、考えさせられた。

 悪役令嬢(リリアーナ)を断罪した彼らは果たして幸せになれたのか。ハッピーエンドで話は終わったけど、この先に続く未来が幸福とは限らない。


 湯船に浸かりながら乙女ゲーム『星月夜(ほしづきよ)の聖女と5人の王子(プリンス)』で集めたスチルがエンディングで流れているのをぼんやりと眺めていた。

 早くお風呂から出ないと思いながらも、ウトウトしていき――。


 私が目を覚ますと心配そうに見つめる見慣れない顔。え、誰?

「リリー」

「溺れるなど心配したぞ」

 優しそうな女性と、厳格そうな男性。そして、周りにはメイド喫茶で見たことあるような服を着た女性達が数人。え、どういう事? 状況が理解できない。

 夢を観ているのかと思い自分の頬をつねってみた。

「痛っ」

「当たり前よ、何をしているのよ」

 夢ではない事を知り、ベットから降りて急いで鏡の前に立った。

 鏡に映る姿は、ミルクティーの髪色と、アンバー色の瞳の美少女。この姿って、もしや。星月夜(ほしづきよ)の聖女と5人の王子(プリンス)の悪役令嬢のリリアーナ・フルメリンタ!? ちなみに、5人の王子とタイトルだが、王子は1人。


 第一王子フリードリヒ・フォン・ヘーゲルスタイン。

 公爵家の嫡男、アラスター・バークレイ。

 侯爵家の嫡男、レオネ・ペシェッティ。

 伯爵家の嫡男、騎士副隊長レヴィン・テントスゴ。

 伯爵家の筆頭魔術師の三男、ブラッツ・シュタルケル。


 乙女ゲーム特有の全員イケメン。私もイケメンは好き。そんな事よりも私、どのルートでも悪役令嬢なんですけど。ルートによっては死亡することもある。婚約破棄、追放なら大歓迎。追放されたいわけではない。死亡するよりいいってましって事。

 ヒロインが正道のフリードリヒを選んでくれたら舞い踊る。卒業後、王太子になる第一王子フリードリヒ・フォン・ヘーゲルスタインの王子妃になるのは気が重い。ゲームだから楽しめるのであて、リアルは望んでいない。正直なところ王子妃とか王妃は面倒臭そう。のんびりライフを充実しながら趣味を楽しみたい。第一王子フリードリヒの婚約者にならなければ悪役令嬢として断罪される事もないのでは? と、思った矢先に私の願いは崩れ去った。

「フリードリヒ殿下がお見舞いいらっしゃったわ」

「何故ゆえに?」

「何言っているのよ。リリーの婚約者だからじゃないの」

 げ。婚約者になった記憶は無いだけど、いつ決まっただろう……? 回避不可能じゃん。

 記憶喪失になった演技して、婚約を白紙にする? いや、私にそんな演技力は皆無。考えがまとまらない内にフリードリヒ殿下が私の部屋の前まで到着したようだった。使用人に案内され、花束を持ったフリードリヒ殿下が私の部屋に入って来た。様になっているな、イケメン。流石、乙女ゲーム。

「溺れたと聞いたが、気分はどうだい?」

「体調はまだ快適とは言えませんね」

 "溺れた"で思い出したけど、私、お風呂で死んでしまったの? お風呂から出た記憶はない。え、だとしたら、裸のまま天へ召したの!? いろんな他人(ひと)に裸を見られるの? 恥ずかしさで死ぬ。……死んでいるわ。

「また、来る」

「え?」

「本調子ではなさそうだからね」

 何を話していたのか全く分からない。前世の死因のことで頭がいっぱいで話を聞いていなかった。

 フリードリヒ殿下と入れ違いに二番目の兄、オーリヴァーお兄様がノックもせずに勢いよく入って来たかと思えばいきなりに抱きしめる。

「ああ、可愛い妹よ。何処も怪我はないかい?」

「今ので骨が折れてしまいそうでしたわ」

「それは大変だ。――今ずく医者に」

「少し落ち着いてくださいませ」

 今、目の前に居るのは五つ年上の兄、オーリヴァー・フルメリンタ。イメージ的には、クラスのムードメーカーな存在。

「溺れたって聞いたが、体調はどうだ?」

「お兄様の顔を見たら安心して気分がよくなりました」

「そうか」

 ゆっくりと部屋の中へ入って来たのは七つ上の兄、ギルベアト・フルメリンタ。クールイケメンである。

 ふたりともイケメンなのにモブキャラクターで、攻略対象にして欲しいと意見が上がったが、流石、結婚して子どもいるのに攻略対象は不まずいと思う。自分の立場になって考えてみろよって話だ。私なら不倫夫も、女も、抹殺する。社会的に。再起不能までに追い詰める。


 サブストーリーで知ったが、女の子で末っ子ということもあり、何かと私に甘い。私の悪行の犠牲にもなる。絶対にそんな事はさせないと、拳を握った。私の家族は最後まで私の味方で居てくれた大切な人達。


 フリードリヒ殿下が仰った様に時間が許す限り私の所にお見舞いに来てくれた。体調も回復し、王立学院に復帰することに決まった。


 転生後、初めての王立学院。胸を高鳴らせながら王立学院に向かう為に馬車に乗った。フリードリヒ殿下と一緒の馬車とは夢にも思わなかったけど。リリアーナは、フリードリヒ殿下を慕ってはいたけど、フリードリヒ殿下はおそらく鬱陶(うっとう)しく思っていたと思う。常にそばに付きまとっていた節があったから。

 ゲームの中でのリリアーナ()とフリードリヒ殿下はそこまで親しい仲ではなかった。あくまでも、婚約者としての最低限の振る舞いで、ヒロインに出逢ってからは、ヒロインばっかりに気を取られて、婚約者であるはずのリリアーナを忘れている振る舞いだったからね。王命とは云え、一度婚約者に決めたのなら彼女を一番に考えるべきではないかとゲームをしながら思った。約束事を守れない者がトップに立つような国は滅びる未来しか見えない。せめて婚約者が居ない設定にして欲しかったとつくづく思う。


 今の私は、十六歳で二学期の途中。半年後には、ヒロインのラピス・ローテトセが登場する。彼女が選ぶ攻略対象によって私の運命の分離点が決まる。虐めをするつもりはもちろんないけど、強制力で何が起こるか分からないし、抗うつもりもない。色々と対策を練るのがめんどくさい。と、言うことで折角転生できたのだし、趣味を楽しむことにする。

「薔薇は美しものね」

「ん? そうだな」

 私の独り言が聞かれているとは思わなくて、返事が返ってきたことにびっくと肩が揺れ、曖昧に微笑んだ。


 ✳︎ ✳︎


御機嫌好(ごきげんよ)う」

「リリアーナ様、ご機嫌麗しゅう御座います」


 ゲームが始まっていないからか私の評価も多分、悪くはない。殿下の抜けば、私が一番身分が高いからご機嫌取りの可能性もあるけど。

 私は闇魔法だ。他と同じように闇魔法は、あんまり善いイメージは無い。昔、闇魔法の持ち主が国を滅びかけた事があるのが原因。

 上手いこと云っているが原因を作ったのは当時の国王でもある。魔物に溢れていた当時、人類の危機に闇魔法だった彼が立ち上がった。闇魔法の力で国の危機は脱出したが巨大な力に恐怖した国王は彼を断罪したのだ。怒るのも無理はない話だ。彼は死にゆく中で呪ったのだ。魔物こそ現れなかったが、水は底をつき、作物は干からびれ、飢えと渇きに国民は苦しんだ。そこに聖魔法の聖女が現れて国を救った。――其れが救国、聖女の始まり。

 ほんの100年前迄は、闇魔法の子が誕生したらその場で殺される。私も、もう少し早く産まれていたらこの世に居なかった運命だった。うん、怖い。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ