世界でいちばん幸せな悪女
※導入のみ存在する未完作品です
「アンタ、きったないわねぇ」
ひょい、とボクを拾い上げたその美しい女は、そう言うとアヒャヒャと悪魔のように笑った。
宵闇色の髪、金の星の散った紺藍の瞳、雪白の肌、紅玉の唇。澄まして座っていれば人形のようだろう美貌なのに、言動が美貌を台無しにしていた。台無しにされてもなお、見惚れる美しさだったが。
「アンタみたいな汚くてちっぽけなボロくず、誰が拾うって言うのかしら」
吐かれる暴言はしかし、事実だから反論する気にもならなかった。
去年も、一昨年も、ボクを選ぶヒトはいなかった。
選ばれなければ、一年捨て置かれる。
二年間も捨て置かれたボクはすっかり汚れ、ただでさえみすぼらしい矮小な身体は、ますます貧相でボロくさくなっていた。身綺麗にしていても選ばれなかったのに、汚れきった今選ばれるだなんて、思えるわけがない。
「ま、下手に小煩かったり、自尊心が高かったりしてもうざったいし、でかいと邪魔だし、アンタで良いわね。さ、行くわよ」
…………え?
ボクの首根っこをつまんだまま、女は歩き出す。
「アルジェント、いえ、ルージュ?違うわね、スター、ううん、ルネじゃなくて、ブラン。それだわ、あなた、今日からブランよ」
白。煤のように真っ黒のボクには、似つかわしくないあまりに嫌味な名前だった。
「ブラン。聞こえないの?返事は?」
「みゃーお」
「……アンタ鳴けたのね」
自分から返事を求めておいて、なんて言いぐさだ。
唖然としたそのときが、ボクと彼女、のちに世界に名をとどろかせる悪女との、出会いだった。
未完のお話をお読み頂きありがとうございます
先が気になるのですが本編はどこで拾えますか……