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クレオパトラVS楊貴妃 〜東西悪女による誘惑対決〜

暇を持て余した神々が、一風変わった遊びを始める。

それは、歴史上の偉人を対決させることである。

クレオパトラと楊貴妃による銀座のキャバクラを舞台にした「東西悪女による誘惑対決」

果たして勝つのはどっちだ!?

◆ 暇を持て余した神々の遊び

天上の神々が退屈しきった顔で集まっていた。これまであらゆる遊びを試してきたが、どれも飽き飽きしている。そこで、ある神が提案した。


「いっそのこと、人類の偉人たちを舞台にした遊びを考えないか?崇められている連中が、本当に大したものなのか試すのだ。」


「だが、普通に戦わせてもつまらん。何かひとひねり加えようではないか。」


こうして選ばれたのは、銀座のキャバクラを舞台にした「東西悪女による誘惑対決」だった。


今回参戦するのは、東洋を代表する美と権力の象徴、楊貴妃と、西洋が誇る策略と美貌の化身、クレオパトラ。


◆ 楊貴妃

唐の玄宗皇帝を虜にし、天下を揺るがした絶世の美女。地獄では、獄卒たちを次々と魅了し、自分専用の温泉を掘り当てさせたほどの腕前を持つ。


◆ クレオパトラ

ローマのカエサルやアントニウスを手玉に取り、古代エジプトを支えた女王。地獄では、自分専用の宮殿を築き、優雅な暮らしを送っている。


地獄の獄卒すら顎で使う彼女たちは、悪女としての矜持をかけ、今回の勝負に臨む。


◆ 対戦者の煽り合い

試合開始を前に、楊貴妃とクレオパトラが向かい合い、火花を散らしていた。


「あなた様がどれだけ美人だと言っても、私の舞で落ちなかった殿方はおりません。申し訳ございませんが、今回は勝たせて頂きますわ。」

楊貴妃は、艶やかな唐服を翻しながら冷笑を浮かべる。


クレオパトラも負けじと肩をすくめ、軽蔑するような笑みを見せた。

「確かに中々の美貌ですね。ただし、それが通用するのは東洋でだけですわ。それに男を落とすには、ただの美しさじゃ足りないのよ。知性と駆け引きが必要なの。ふふふっ」


「駆け引き?まぁ、恐ろしいこと・・・是非、殿方に守って頂かなくては。ほほほっ。」

楊貴妃が挑発的に笑うと、クレオパトラは肩をすくめながら、こう返した。

「ま、見てなさい。あなたの時代遅れの琵琶が、現代の銀座でどれだけ通用するか楽しみだわ。」


◆ 銀座キャバクラ特設ステージ

煌びやかな銀座のキャバクラ。そしてこの戦いのターゲットは天下の賢人「ソクラテス」。ソクラテスは一人で席についていた。彼は静かにグラスを傾けながら、どこか物憂げな表情を浮かべている。神々が高みから見守る中、いよいよ対決が始まった。


◆ 楊貴妃の音楽作戦

楊貴妃は優雅に琵琶を手にして現れた。艶やかな唐服をまとい、柔らかな微笑みを浮かべながら、ソクラテスの隣に腰を下ろす。


「先生、この音色であなたの心を癒して差し上げますわ。」

彼女は手に持った琵琶を奏で始めた。その旋律は、かつて玄宗皇帝を魅了した「霓裳羽衣曲」。場が静寂に包まれ、他の客も一瞬聞き惚れる。


だが、ソクラテスは微動だにせず、ただ首をかしげた。


「なるほど、君の演奏は美しい。だが、音楽とは何なのだろう?音が並ぶことでなぜ人間は感動するのか?美とは何か?美しいからこそ、より音楽の本質について議論したくなってきたわい。」


彼は次々と哲学的な問いを投げかけ、音楽そのものの意義を語り始めた。楊貴妃は最初こそ微笑みを保っていたが、次第に汗が滲んでいく。


「そもそも、音楽を聴くことは本当に必要なのか?人間は音楽なしでも生きられる。ではなぜ人は音楽を聴くのか?音楽を聴くことで人間の精神にどのような作用があるのか。」


ソクラテスは音楽を聴くよりも、音楽と人間の関係性について考え込んでいた。しばらく奏でていたが、全く聴いてくれないので、楊貴妃の心はポッキリ折れた。彼女は奏でる手を止め、そっと席に戻るしかなかった。


◆ クレオパトラの絨毯作戦

次に、クレオパトラが動いた。突如、店内に大きな絨毯が運び込まれ、周囲がざわめく。

「何だ?」とソクラテスが目を細めると、絨毯が広がり、中からクレオパトラが優雅に姿を現した。彼女は金糸のドレスに身を包み、きらめく宝石をまとっていた。


「ソクラテス様、はるばるエジプトから参りましたクレオパトラと申します。」

彼女はその妖艶な声で語りかけ、彼の隣にぴたりと寄り添う。


「あなたのような賢人にお目にかかれるなんて、これはきっと運命ですわ。」

彼女は優雅にワインを注ぎ、ソクラテスの手にそっと触れる。


しかし、ソクラテスはただ静かに問いかけた。

「運命とは何かね?偶然の産物か、それとも必然的な因果の結果か?」


さらに彼は、彼女の美しさについても哲学的に追求し始めた。


「君の美しさが魅力だというが、それは主観的なものかね?また、美が倫理的な善と結びつくのかも疑問だ。それに・・・」


ソクラテスの問いは止まらず、彼女も完全に戦意を喪失した。


◆ まさかの結末

楊貴妃は、沈黙してしまったクレオパトラを見て最後のチャンスと思い、甘えた声でこう切り出した。


「私はもっとソクラテス様とお話ししたいですわ。無知な私に是非哲学をご教授くださいませ!」


その瞬間、ソクラテスの目が輝いた。そして哲学の講義が再び始まる。善とは何か、美徳とは何か、知とは何か…。時間が経つにつれ、2人の悪女は完全に脱力し、椅子にぐったりと座り込んだ。


数時間後、ソクラテスが話している間に2人は眠りに落ちてしまった。


◆ 判定:ソクラテスの勝利

天上の神々が大笑いしながら結果を宣言した。


「勝者はソクラテスだ!悪女たちがまさか哲学の前に屈服するとはな!」


楊貴妃とクレオパトラは驚きのあまり顔を見合わせた。


クレオパトラは、顔を真っ赤にし、髪を整えながらそそくさと立ち上がり、こう言った。


「ちょっと待って!今のなし!なしなし!あんなのなしよ!!客は対決関係ないでしょ!こんなのやり直しよ!」


「そ、そうよ!そもそも戦ってるの私たちでしょ?話が違うし、大体、私この方に負けておりませんからね!」


「はぁ〜!何言ってんのよ!私だって負けてないわよ!!大体あんたが『もっと話し聴きたいですぅ』とか訳わかんないこと言うからこんなことになったんでしょ!このクソ女!」


「なにぃ~!?」


二人はあまりの悔しさに、今まで取り繕っていた絶世の美女というキャラクターをすっかり忘れ、目をむいて罵り合っている。この女たちの不毛な罵り合いを観て、神々の笑い声が響き渡る。


次の遊びを思案する神々の中で、ソクラテスは独り、まだ哲学の続きを語っていた。

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