私のストーカー
「真花、奇遇だね」
そんなことを言いながら同じ学科の佐々島菫が私に声をかけてきた。
「すみさんとはいつもここで会うね」
「偶然にも」
私は偶然を強調して嫌味ったらしく言った。
「そうだね、偶然」
でも菫には全然効いてないみたいだった。
しかもどう考えても偶然じゃない。
私はここで同じ大学の子と偶然会ったことが一度もない。
「私が良く来るスタバに」
「真花が」
「良くいるんだよね」
菫は私のほうが悪いみたいに「真花が」と強調して言ってきた。
私は池袋駅の西口にあるスタバで良く最花と待ち合わせをする。
今日も最花を待っているところだった。
「紗那を待ってるの」
私は最花の本名を口にしながら説明した。
「そうなんだ」
菫は私の正面の席に腰を下ろしながら相槌を打つ。
「そういえば今日の飲み会は来ないの?」
今日は学科のLINEでも、みんなそんなことを言っている。
「たぶん行く」
「紗那といっしょに?」
「うん」
「紗那と何するの?」
今はまだ昼過ぎだから私たちが何して飲み会まで時間を潰すのか不思議なんだろう。
「ぶらぶら」
「決めてないんだ?」
「最初はホノルルコーヒー行く」
「スタバで待ち合わせして」
「その後にわざわざ別のコーヒー屋行くの?」
「紗那が行きたいってうるさいから」
「へえ」
「どこにあるの?」
質問攻めがすごい。
まさか付いてくるわけじゃないよね。
「原宿」
「遠っ」
確かに飲み会のために池袋駅と往復すると結構時間が無駄になる。
菫は短めの黒い髪を揺らして笑っていた。
それから私たちはどうでもいい学科内の噂話なんかをしていた。
「じゃあ私も用事があるから」
菫はいつも最花が来る前にどこかに行く。
腰抜け。
見た目はかっこいい感じなのに全然度胸がない。
「うん、またね」
菫は一体なにを考えて私のストーカーなんてやっているんだろう。